U's aquarium.
〜水のある生活〜
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Diary お魚日記くらげ日記
Essay #1 #2 #3 #4 #5 #6 #7
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第1話  はじまりは突然に
第2話  トロピカル・マリン・アクアリウム
第3話  崩壊
第4話  飽くなき欲望
第5話  再始動
第6話  またもや崩壊
第7話  新型登場

始動

 “パラオ2号店”は“フィッシュガーデン”と名前を替え、海水魚と熱帯魚の両方を売る店になった。とはいえ、主力はやはり海水魚と無脊椎。展示水槽の数が増えた分、店内は狭く感じるようになったが、窓際に常連用の椅子とテーブルが用意されていたので、十分リラックスできた。

 2m水槽は、オーソドックスなウェット式濾過槽で、濾材はサンゴ砂だった。しかもすべての濾材がショップで使用中のものだったため、立ち上げは容易と思われたが、なかなかこれがうまくいかない。水量がありすぎて、どれくらいのテストフィッシュを用いればよいのか検討もつかず、とりあえずデバを30匹ほど泳がせていたが、1ヶ月ともたない。
 ショップでは、こういった場合、グレなどの丈夫で手頃なサイズの魚を使うようだが、アマチュアがグレを使ったらあとの処分に困る。特に岐阜のように海のない地域では、調達することさえ難しい。
 そんなわけで、大型魚を探すが、鑑賞用の大型魚は、たいていが非常に高価だ。それでも安価なものを探してきてもらって、50cmクラスのツバメウオやら、センネンダイ、イシガキダイを入れてみるも、やはり1ヶ月が限度。季節はいつのまにか秋になっていた。
 なかなか立ち上がらないので、店長ともいろいろ相談してみた結果、彼はライブロックを使うことにした。今でこそ、ライブロックといえば、ベルリン式などのナチュラルリーフタンクに不可欠なものとして認識されているが、1994年当時、まだ日本ではライブロックを立ち上げに使うという情報は一般的ではなかった。しかし、彼はこれ以上、魚を無駄に落とすよりも、新しい方法に挑戦してみたほうがいいような気がしていた。なにより、店長がライブロックならまず間違いなくいけると言うので、その言葉を信じたかった。

 ライブロック3箱、約20万円。当時はまだ、ライブロックはかなり高価だった。
 おまけとして、無脊椎水槽に入っていたサンゴ類すべてと、ゴールデンエンゼル1匹をつけてもらい、水槽に投入した。
 1ヶ月が経過。ゴールデンエンゼル健在。サンゴ類もポリプをよく伸ばしている。
 2ヶ月が経過。まだゴールデンエンゼル健在。サンゴ類もOK。
 そして3ヶ月が経過。餌を一切与えていないにも関らずゴールデンエンゼルは健在だった。ライブロックから発生する様々な生物を餌にしているようだ。真夜中、水槽を覗くと、無数の得体の知れない小さな生物が、水中を漂っているのが見える。
 4ヶ月目。ゴールデンエンゼルの姿が見えなくなった。しかし、サンゴ類は生き生きとポリプを伸ばしていた。どうやら立ち上げに成功したようだ。この間、水換えは一切行わなかった。

 1994年の暮れ、彼はようやく2m水槽用に、新しい魚を買ってくることができた。
ハワイアン・アンティアスのペア。全身黄色の、ハナダイの仲間だ。無脊椎水槽に、とてもよくマッチする色合いだった。

 90cm水槽はというと、基本的な立ち上げ方法を試みているにもかかわらず、あいかわらずスズメの仲間しか生き残らないという状態が続いていた。どうやら濾材にかなり問題があるようだ。すぐに目詰まりするため、その度に濾材の洗浄が必要になり、結果としてバクテリアの増殖が妨げられる。このくり返しが悪循環を招いているらしい。そこで、彼は90cm水槽をスズメ専門水槽にすることにした。スズメダイの仲間といっても、じつに様々な種類がいるのだ。それを集めるだけでも、かなり面白そうだった。
 濾材を人工濾材に変更するというのも考えたが、2m水槽の方にかなり資金を裂いてしまっていたので、こちらまで手が回らないのが現実だった。

 2m水槽が落ち着いてきたころ、彼は玄関の下駄箱の上に、60cm水槽を2つ並べた。1つは淡水用。もう1つは、海水用だ。淡水のほうはR901で維持してきたが、水槽を置くスペースが空いているのに水槽を置かないのは、何かもったいない気がして新しくセットしたのだった。
 海水用の60cm水槽は、エビやハゼの仲間を飼ってみたかったので、敷砂をひいた(90cmと2m水槽は、いずれもベアタンクにしてあった)。敷砂があるため、底面濾過と上部濾過を併用。本当は底面と上部のそれぞれにパワーヘッドをつけたいところだが、やはりこちらも2m水槽への資金投入のあおりをくらって、ただの直結方式となった。

 激動の1994年が去り、1995年、海水魚飼育を始めて2回目の春。
 2m水槽は、絶好調といってもよいくらい安定していた。水量が700リットル超と、90cmクラスの水槽とは比較にならないほど大量なため、安定するまでに時間はかかったが、いったん安定すると、じつに堅牢。大型水槽ほど、手間がかからないというのは本当のようだ。
 無脊椎の状態も、とてもよい。ただ、住宅ローンの重圧で、これまでのように魚や無脊椎に投資できなくなってきたのが、彼の悩みだった。時代はバブルがはじけ、平成不況に突入していた。残業制限のため、余剰収入としてアテにできていた残業代が大幅にカットされたことも、じわじわと効いてきていた。それでも、なんとかやりくりして、気に入った魚や無脊椎が入荷していないかショップ巡りをするのは、とても楽しかった。もっとも、いざ購入という段階になると、それまでより、じっくり吟味するようになったのも、また事実だ。衝動買いは、禁物であった。

 90cm水槽は、様々なスズメダイでごったがえしていた。彼がスズメダイに凝るようになったのをフィッシュガーデンの店長も知っていたので、いろいろ取り寄せてくれた結果だ。名前が難しくて覚えられないようなものが、けっこういる。そんな中でも、彼のお気に入りは、ブルークロミス。ちょっと気弱なところがあるので、スズメ水槽の中では、いまひとつ存在感に欠けるが、単独飼育すれば、スズメダイといえど、あなどれない美しさを持っている魚だと思っていた。
 60cm敷砂あり水槽には、予定どおりエビ(ホワイトソックスとスカンク)を入れた。魚は、アカハチハゼが欲しかったが、なぜか欲しいときにはショップに入荷しない。そうこうしているうちに、彼はその魚と出会った。“イエローヘッド・ジョーフィッシュ”。砂の中に縦穴をほって潜り込み、顔だけ出して餌をうかがう、その習性に、惚れ込んでしまった。じつに愛敬がある顔をしている。ちょっと値段が高めだったので、悩んだが、結局買ってきていた。翌朝、器用に穴を掘ってすまし顔の「彼(彼女)」を見たとき、あぁやっぱり海水魚っていいなぁと、しみじみ思うのだった。敷砂の穴が、底面濾過のバイパスにならないか、ちょっと心配だったが、上部濾過も併用していることだしということで、安心することにした。

 こうして大中小と3つの海水水槽が、本格始動することになった。

第6話 またもや崩壊 に続く...


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