U's aquarium.
〜水のある生活〜
Top

TopicLog
Diary お魚日記くらげ日記
Essay #1 #2 #3 #4 #5 #6 #7
Link
− E S S A Y −

I
N
D
E
X
第1話  はじまりは突然に
第2話  トロピカル・マリン・アクアリウム
第3話  崩壊
第4話  飽くなき欲望
第5話  再始動
第6話  またもや崩壊
第7話  新型登場

たもや崩壊

 2m水槽の無脊椎は、ライブロックのおまけでもらってきた十数個のまま、あまり増えていなかった。ショップで見掛けてイイと思うのは、軒並み5万とか平気でしていたので、住宅ローンを抱える身では、とうてい手が出せないのだ。
 それでも彼は、自分のリーフタンクに、結構満足していた。
 ハイラックスランプ2灯の強烈な太陽のような照明と、ライブロックならではの自然な海中の岩だなの再現。ハードコーラルの触手が、水流にゆるやかに揺れ、その隙間を色鮮やかな魚が泳ぐ。まさに、彼が望んでいたのは、こういった光景だった。
 水槽のまえに、デッキチェアを置き、ゆったりと座ってみると、気分はもう南国の砂浜・・・。
 何時間見ていても、飽きることはなかった。

 季節は、そろそろ夏の日差し。

 熱帯性の魚を飼う場合、淡水にしろ、海水にしろ、どの季節が一番厄介かといえば、夏である。冬の温度維持は、ヒーターとサーモスタットで簡単かつ安価に実現できるが、夏場の高水温を飼育温度の25度付近まで下げるには、水槽用のクーラーを使うしかない。
 もちろん小型水槽ならば、冷却用ファンで気化熱を利用して下げることも可能だが、2mクラスの水槽では、そのような小細工は通用しない。残る手は、人間用のエアコンで部屋ごと冷やすというのがあるが、これも設定温度を20度ぐらいまで思い切って下げないと、効果がない。しかも一日中フル稼動だ。電気代が恐ろしい。
 じゃぁ水槽用クーラーを買えばいいのでは?というのは今でこそ言える言葉だ。1995年当時、水槽用クーラーといえば、人間用エアコンよりも高価だったのだ。
 ところが、その夏、画期的な商品が発売された。水槽用のクーラーが、なんと5万円を切って登場したのだ。あぁしかし、これは小型水槽用だった。2m水槽にはとうてい使えない。
 彼は700リットル対応の水槽用クーラー導入を検討した。しかし40万近くするものを購入するだけの余裕は、どこにもなかった。いちおう、水槽を設置してあるLDKには14畳対応の人間用エアコンは装備してあったので、これで部屋ごと冷やすしかなさそうだ。

 夏到来。エアコンの設定温度は、とりあえず26度にしてみた。いけるか?出勤前に彼はエアコンの作動を確認してから、家を出た。昼。気温は35度を越える真夏日・・・
 夜、帰宅して水温計を確認してみる。「29.5度」かろうじて30度は越えていなかったが、こんな温度では魚はともかく無脊椎はもたない。エアコンの温度設定を24度に下げた。
 翌朝、エアコン作動中のリビングは、冷え冷えだった。しかし、水温計は「28度」を示したまま。彼は迷った。微妙な水温だ。電気代のことが頭をよぎる。迷ったあげく、彼は設定をそのままにする方を選んだ。

 サルスベリの真っ赤な花が散り、青空が高く感じられる頃、彼の庭の片隅に、真っ白な石の塊が並べられていた。石・・・ちがう、それは死んだサンゴの骨格だ。
 彼のリーフタンクの無脊椎は、ほぼ1/3に減っていた。残ったものも、いまひとつ元気がない。電気代、月3万近く費やして、この結果だった。やはり大型水槽での無脊椎飼育には、水槽用クーラーが必須だ、彼は痛感していた。
 いったん調子を崩したサンゴを回復させるのは難しい。その後、リーフタンクからは、サンゴが1つ消え、2つ消え、そして、すべていなくなった。彼は、無脊椎飼育を、ここで断念する。2m水槽は、魚水槽に転換された。

 ハワイアン・アンティアスが、まだ存命だったため、彼はまずハナダイ類の群泳を目指した。といっても、キンギョハナダイでは芸がなさすぎる。かといって、パープルクイーンは難しすぎる。そうしたある日、やたら仰々しい名前のアンティアス類が、大量に入荷していた。1匹約6000円。その水槽の前で、どうしたものかと悩んでいたところ、店長が「10匹まとめてなら4万にしてあげるよ」と言う。商談成立。2m水槽は、鮮やかなピンクとレッドの群れで彩られた。
 12月。魚水槽は順調だった。そして待望のボーナス支給。懐に余裕ができると、買い物も、より楽しいものだ。彼はショップの水槽を1つ1つ丁寧に見て回り、次に何を入れようかと考えていた。
 クイーン、アズファー、フレンチ、タテキン・・・大型ヤッコ類は、やはり迫力がある。ここらで1つ、大型ヤッコを投入したい。どれにするか・・・。
 最初から気の強いのを入れたら、後で困る。となれば、こいつはどうだ?彼はワヌケヤッコに目をつけた。ブルーのカーブしたラインが、なかなか美しい。体長約30cm。結構な大物だ。

 アンティアスの群れに、大型ヤッコの組み合わせは、思った以上によかった。体形が、まったく違うし、色彩も正反対。絶妙なバランスをかもし出す。餌食いも、問題なかった。クリルをぱくぱくよく食べる。

 ほどなくして会社が年末年始の休暇に入った。彼は、今年は帰省しない予定だったので、久しぶりに家でゆっくりできると思った。しかし、悪夢は再現される。
 朝、ワヌケヤッコが落ちていた。信じられなかった。昨日の夜まで、元気に餌を食べていたのに・・・。死因は?外見からでは推測不能。ただし、体表を粘膜状の透明な物体が覆っていた。
 翌日、水槽がやけに静かなことに気付いた。あれほど群れていたアンティアスが、1匹も泳いでいない。嫌な予感がした。
 ライブロックの隙間を覗いてみると、そこは死体の山だった。ハワイアン・アンティアスも落ちていた。どうしようもない無力感が襲ってくる。全滅だ。

 ショップに相談に行く。しかし、原因は分からない。何か猛毒の細菌にでもやられたかのような死に方だった。とりあえず、全換水を薦められた。できれば淡水消毒した方がよいとも言われたが、ライブロックを淡水で洗うわけにもいかないので、海水だけ交換した。濾過バクテリアへのダメージが心配だったので、90cmスズメ水槽から、一番丈夫そうなオヤビッチャを1匹移してみた。あとはコバルトを5〜6匹。そして2週間経過。魚は大丈夫そうだ。しかし、今回の全滅は、彼にとても大きなショックを与えていた。それまでは気にしたこともなかったが、ついに彼は決断する。紫外線殺菌灯、オゾナイザー、ORPコントローラ、ベンチュリ式プロテインスキマーの購入。

 1996年スタート。
 皮肉なものだ。彼がそれら機具一式を入手し、接続用耐圧ホースを購入したころ、2m水槽は、すっかり復調していた。まるで全滅など嘘のように、ソメワケヤッコがライブロックをつついている。
 機具一式は、2度とこの2m水槽で使われることはなかったのである。何故か?水槽の調子が戻ったからではない、水槽そのものが寿命を迎えてしまったからだ。


第7話 新型登場 に続く...


ご感想などは、こちらへお気軽にどうぞ
メール宛先
blue@type-u.org