2001.10.1(Mon)
ミニチュア
なぜか冷蔵庫が1つ増えていた。しかもガスレンジ台まである。着々と設備増強がはかられる我が家のシルバニアファミリー・セットだが、もはや家2軒では容量不足の感が否めない。そう遠くない未来に、もう1軒、増えそうな予感がする。
それにしても冷蔵庫の中に入った食品類の精巧なことよ。直径5mmほどのプリンには、てっぺんにちょこんとクリームでデコレーションまで施されているし、同じく5mmほどのトマトとキュウリの精巧さときたら、思わず手でさすってしまうほどに素晴らしい。なんとなく質感までもホンモノみたいな気がしてくるから不思議だ。
小さいもの大好きなみこりんは、もちろんこの台所セットにおおいに満足しているようだ。でも、本当のところはたぶん、Licが欲しかったんじゃないかと私は思っている。きっと近いうちにまた何か別のアイテムが増えそうな予感。
赤ちゃんぱんつ
(文:Lic)
みこりんの夜間の紙オムツ(通称:赤ちゃんパンツ)が2ヶ月まえから外れてるとUが書いてあったけど、みこりんの名誉のために補足。
みこりんの夜間赤ちゃんパンツは、みこりんが悪いのではなく、母Licの怠慢(?)のためである。去年からみこりんは夜間もちゃんと普通のパンツを使用していた。
始まりは梅雨。よりによって雨が降り続いている時に、みこりんは失敗してしまい、なかなか乾かない布団&シーツ&洗濯物にウンザリして、夜は赤ちゃんパンツ使用のこと!と決めてしまったのた。
失敗しなかった日の赤ちゃんパンツは、ゴミ袋の一番下に敷いて再利用。高分子吸収ポリマーが生ゴミの水分を吸ってくれるので、万一袋に穴が開いていても大丈夫。ちゃんと活用してるのだ。
そして、夏。洗濯物も良く乾くシーズンになってから、みこりんの夜は普通のパンツに戻った。たまに失敗する時は、おねしょシーツ(撥水加工シーツ)を敷いている所を見事に外してくれるけど。
また、冬になって洗濯物の乾きにくいシーズンに入るので、赤ちゃんパンツ使用させようか検討中。
2001.10.2(Tue)
『エンタープライズ』
スタートレックのTVシリーズといえば、第1シリーズがカーク船長とMr.スポックでおなじみの(初代) スタートレック、第2シリーズはピカピカなピカード艦長とアンドロイドのデータでおなじみの新スタートレック 、第3シリーズは流動生命体でおなじみの(?)ディープスペースナイン、そして第4シリーズはセブン・オブ・ナインでおなじみのヴォイジャーであることは、いうまでもない。だが、私はディープなファンというわけではないので、うかつにも今日まで新シリーズが始まったことを知らなかった。第5番目となる新シリーズの名は『エンタープライズ』。そのまんまである。
時は22世紀、スタートレック映画版『ファーストコンタクト』から、連邦成立までの間の物語ということで、宇宙進出の黎明期が描かれるんだろうかと期待してしまう。早く見てみたいものだ。スーパーチャンネルが頑張って日米同時放映とかされたりしたらもう最高なんだけれど……、無理かな。
2001.10.3(Wed)
彼(彼等)の陰謀
Nimda騒動から、はや2週間が経過した。職場では、今なおProxyサーバが停止したままで、社外のWebへのアクセスが遮断されたままだ。いったいいつになったら復旧するのかと思っていたが、どうやら完全復旧は“ない”らしい。つまり、今後、社外のWebにアクセスするには専用の端末(といってもただのPC)が必要で、その端末とやらは各部に1台しか配布されないというのである。250人以上のエンジニアが揃ってる部署にWebアクセス端末が1台。もはやあきれるほかない。
いくらなんでも1台では話しにならんと調整がはかられた結果、ようやく4台にまで増やすことが認められた。だが、たったの4台でどうせよというのか。その昔、PCがまだこれほど復旧する以前、ワープロ専用機が各職場には設置されていた。当時はまだ文書も手書きが主流で、ワープロを使うのは社外向けとか正式な文書類だけに限られていた時代だ。それでも4台なんてことはなかった。4台というと、FAXの設置台数と同じなのである。Webアクセスは現在においてFAX程度のものでしかないと、そう考えている人間が本社にはいるようだ。
表向きは“セキュリティのため”という。だが、セキュリティの確保と、端末数が異常に少ないことに、相関関係はほとんどない。Nimda型のワームであれば、共有ディレクトリを作らず、Outlook系のメールクライアントを削除しておけば、拡散のしようはあるまい。それでもなお、端末の数を押さえ込もうという背景には、セキュリティなどという理由ではなく、もっと別の意志を感じざるを得ないのである。
ここからは激しく私の妄想なのだが、たぶん“彼”(あるいは“彼等”)は、「仕事中にホームページを見るなどけしからん!」と常々思っていたに違いないのだ。おそらくWebサイトといえば、アダルト系くらいしか想像つかなかったのだろう。そして、どうにかして社員のWebアクセスを禁止しようと画策した。でも、なかなか妙案が浮かばない。しだいに焦る彼(彼等)……。
とそこへ、Nimdaワームの情報が耳に入る。ここで彼(彼等)は“びびっ”ときたに違いない。ひらめいたのだ。素晴らしいアイディアを。
「そうだ、こいつを社内にばらまこう」
感染したWebサイトはすぐに見つかった。そこからダウンロードされてきたNimdaワームを彼(彼等)は、慎重にディスクへとコピーする。あるいはメールに添付させたかもしれない。
そして、Nimdaワームで大混乱する状況に乗じて、それみたことかとWebアクセスを禁止するのである。まさに筋書き通りに事は進みつつある。きっと今頃は祝杯をあげていることだろう。
だが手はある。穴開きまくりの抑制策など無意味である。
2001.10.4(Thr)
雑感
ポイントは2つ。
- 電子制御の着火
- 高速で大量の弾丸(でなくてもいいけど)を撃ち出せる
なんとなくインクジェットプリンタ(あるいはバブルジェットプリンタでも可)のヘッド部分を想像してしまった。
ん〜、記事のタイトル見たときにはけっこうインパクトありそうだったのに、時間が経つにつれてどうでもよくなってきたな…。
*
本日、PCの部品到着。記録のためにここに記す。我が家のサーバマシンに増設する予定だが、なんだか着々と値段が下がってきてるのを実感する。今回は送料もタダだったし、なんというかこれで儲かってるんだろうかと他人事ながら心配になってしまうのだった。
種別 | 型番 | メーカー | 価格+(送料) |
---|---|---|---|
HDD | Deskstar 60GXP 40GB 7200rpm | IBM | 12280 |
メモリ | PC133 CL3 168PIN SDRAM DIMM | ノーブランド | 2800 |
2001.10.5(Fri)
道路にミニカー
眠っていたPCを1台、蘇らせることにした。ケースカバーを取り外し、臓物をすっきり整理し、要らないモノを取り外し、必要なものを取り付ける。あとは電源を入れるだけというところで、傍らで眠りこけていたみこりんがむくっと起きた。
横倒しになった剥き出しのコンピュータ内部を見て、みこりんは言った。「“おみせ”みたい!」
お店?いぶかしむ私の心中を察したかのように、みこりんは指さし数え始めるのだった。「いーち、にー、さーん、しぃ。よんかいだてになっとる」
そ、そうか。PCIボードやらドライブベイに入ってる装置類が階層構造に見えるのだ。その有様を、みこりんは“お店”と表現しているらしい。
さらにみこりんが続ける。「この“どうろ”みたいなのきれいやな〜」
今度は私にもすぐにわかった。基板上の配線パターンのことを言ってるのだろう。みこりんがこういうものに興味を示してくれるのは願ってもないチャンス。この機を逃してはなるまい。
さっき故障のため取り外しておいたHDDを、みこりんにプレゼントしてやった。さぁ、これで存分に遊びたまえ。
さっそく裏返して基板が見えるように置くみこりん。その上に、すばる360のミニカーを乗せて、遊び始めてくれた。道路にクルマ、か。たしかによく似合う。
2001.10.6(Sat)
『完璧な防壁』修復
日差しは明るいのに、どことなく涼しげな秋景色。お掃除には最適な土曜日の朝。窓を開け放ち、拭き掃除開始。みこりんも一緒にお手伝いしてくれた。
部屋の中が終わると、庭へと降りる。花壇もすっかり寂しくなってしまったものよ。枯れ葉の積もった地面を眺めつつ、視線を徐々に移動させていると………
「な、なんじゃぁこりゃぁ!」
お約束な台詞を口走りつつ発見したものは、掘り返された花壇の跡だった。
ネコだ。ネコが侵入したにちがいない。…しかしどうやって。この『完璧な防壁』に、“穴”でも開いたというのか。そりゃまぁたしかに東側の崖は今も無防備なままだけれど。
ぐるっと一回りしてみると、北側のネットが蔓性植物にからめとられて部分的に重そうに垂れているのが目にとまった。ここか?ここなのか?垂れ下がって1.5mの高さになったネットは、隣の敷地の高さ30cmと合わせると、差引120cm余り。微妙な高さだった。
疑わしきは、即修正しておくに限る。雑草置き場となっているその一角に分け入り、蔓を切る。傍で見ていたみこりんが、パイナップルセージに花が咲いているのに気が付き、驚喜している。でも、まだ蜜を吸えそうな花は1つきり。ちょっと物足りない感じ。
下がったネットを以前よりも高く括り付け、修復完了。振り返ると、いつのまにかみこりんが消えていた。さっき、何かを見て欲しいと言ってたはずなのだが、どこに行ってしまったんだろう。
部屋に戻ると、Licの姿もなかった。……そうか、行ってしまったんだな。しみじみと椅子に腰を下ろした。
ラーメンでも食べようと鍋の準備を始めた頃、玄関の外が騒がしくなる。飛び込んできたのは元気そうなみこりんの声。続いてLic。少し遅れて、じじばば到着。Licの実家からわざわざ来てくれたのには訳がある。明日は、みこりんの保育園で運動会が催されるのだ。
今宵、例によってみこりんはハイテンションだった。
2001.10.7(Sun)
運動会2001
運動会日和である。
去年までは3歳未満児クラスだったので、みこりんは親と一緒に観覧席にいることができたが、年少組ともなればクラスごとに子供達だけでテントが用意されている。
一緒にいられるのはお昼ご飯の時だけという状況の変化に、少々とまどっている場面も見られたが(お昼ご飯前あたりが“一緒にいたいピーク”だったらしい)、午後にはそれにも慣れたようだ。こうしてみこりんもだんだんとお姉ちゃんになってゆくのだろう。
さて、今回の親子競技には私が出ることにした。タイトルがいかにも体力使いそうな重そうな感じだったので、余所もほとんどお父さんが出場のようである。いったいどんな競技なのだろうか。“ずるずる”とかいう擬音がタイトルに入っているあたり、何か重いものを引っ張っていくのだろうという予測はできるが……
てきぱきと準備されてゆく競技アイテムの中に、段ボールの板にごつい紐が結ばれているソリのようなものがあった。なるほど、これで子供を運んでゆくらしい。やがて模範演技が先生によって示される。『ソリ運び』->『一回転』->『棒つかまり運び』というシーケンス。ふむ、みこりんの得意そうなものばかりだ。この勝負、もらった。幸い順番は後ろのほうだったので、みこりんにもしっかり手順を見せて、と。
スタート。快調な滑り出しだ。みこりんもよく要領を飲み込んでいて、ソリから落ちることなく中間地点に到達。ここでみこりんの両手を持って、ぐるっと一回転。家でいつもやってるように、うまく出来た。あとはゴールまで棒にみこりんをぶら下げたまま走る!…む?一組が前を走ってる。加速だ加速。と、みこりんのつかまり具合を確認すると……ちょっと不安そう。
結局、2番でゴールイン。
このあとの保護者競技は2つ。いつぞやの棒引きレースのような過激なものはなく、豆もできず、腰をいわすようなこともなかく、つつがなく終了した。
その夜、さっそくビデオを所望するみこりん。自分の写ってるのはもちろんだが、今回は小学生参加競技のパン食いならぬお菓子食い競争を見たがった。だが残念ながらその映像はない。でもどうしてその映像がそんなに見たいのだろう。自分が写ってるわけでもないのに……と不思議に思っていると、みこりんが遠慮がちに教えてくれたのだった。去年卒園したお友達が、それに出場していたらしい。みこりんが赤ちゃんな頃から、抱っこしてくれたり遊んでくれてた女の子だ。そうだった、みこりんはお友達が写ってるビデオも大好きなんだった。
来年は通しで撮影しておいてやろうと思う。
素朴な疑問
午後10時過ぎ。お風呂上がりの至福のひととき、突然みこりんが言った。
「おとうさんと、おかあさんがこどものときには、だれがおとうさんとおかあさんになってくれたの?」
そうかそうか、もうそういうことが気になるようになったのだね。よろしい、教えてあげよう。語る私。だが、どうもみこりんは“お父さん”“お母さん”というものは、誰かが立候補してなってくれると思ってるふしがあって、いまいち話が噛み合わない。さらに、大人が歳をとり、老人へと変化してゆくというのも理解の範疇を越えているらしい。
一度、じじばばの若かりし頃の写真をじっくり見せてやらねばならないようだ。
2001.10.8(Mon)
まるごと26時間
昨夜から、SkyPerfecTV!のスーパーチャンネルで、恒例の『スタートレックDS9まるごと26時間!〜第5シーズン一挙放送〜』が始まっている。もちろん今回もすべて見る&録画している。
だが、例年ならば夜明けに用意されていた2時間の休憩時間が、今回はない。つまり、本当に26時間ぶっ通しで流されているのだ。これではまったく寝る暇もない。2時間テープを使っているので、その間はなんとかなるが、テープが終わるまでに起きられる自信はない。
だが、睡魔は容赦なく襲ってくる。明け方、ヘッドホンを装着し、毛布をかぶってTVの前で横になっていると、時々意識が遠くなっていた。はっと気がつくと、暗闇の中、エンディングロールが流れていたりして、どきっとしてしまう。危ない危ない。あやうくすっ飛ばしてしまうところだった。
ビデオから取り出したテープが、猛烈に熱くなっている。願わくば、最後まで故障しませんように。
2001.10.9(Tue)
秋の球根
そろそろ秋植え球根の植え付け時期になった。今回は、みこりんにも球根を選んでもらっている。ホームセンターで「何がいい?」と聞く私に、みこりんが指差したものは『クロッカス』だった。しかも紫花。黄色や水色、白といった明るめの色彩は、みこりんのお気に召さなかったらしい。試しに赤いヒヤシンスについても聞いてみたが、即座に却下されてしまった。
クロッカスの球根は、ほどよく小さい。そのあたりの事情も影響していそうだ。みこりんはとにかく小さいものがお好みだ。そして青系の色。赤ん坊のころから青系統の服を着せていたのが、今でも深層意識に作用していたりして…
午後、今にも雨粒が落ちてきそうな寒そうな空の下、球根の植え付けに取り掛かる。
ユリ咲き揃い咲きチューリップは例年どおり大きなテラコッタへ。みこりんのクロッカスは、みこりん自身の手によって、これまたみこりんが夏から育てていた雑草のプランタへと植え込まれていった。雑草は、土ごと抜き取って花壇へと。
私が指示するまでもなく、みこりんはさっさと培養土と赤玉土をブレンドしながら、プランタに土を入れてゆく。鉢底石を忘れたのはご愛敬。指摘してやったら、ばさっと土を袋に戻し、軽石を敷き詰めてから、やり直し。そしていよいよ球根をネットから取り出し、並べにかかる。上下を間違っていないところが興味深い。クロッカスの球根を触るのは初めてのはずだが、玉葱やらチューリップなどから類推したのだろう。
もしもここでアネモネの球根を見せていたら、どんな反応を示しただろう。あっさり上下を言い当てそうな気もして、ちょっと怖い(アネモネの球根は、とんがってるのが“下”になる)。
みこりんがクロッカスを植え終わった頃、私の作業は佳境を迎えていた。チューリップの球根を中心部から同心円状に並べ、外周部に沿って紫ヒヤシンスをぐるりと設置すれば完成だ。「おとーさん、おそいなぁ」と、みこりんが手伝いを申し出てくれたので、ヒヤシンスの大きな球根を手渡してやった。小さな手がすっぽり隠れてしまうほどの巨大な球根。これが全部で9個。中心部のチューリップを圧倒しそうな勢いだ。果たしてこの取り合わせが吉と出るか凶と出るか……。春がただひたすらに待ち遠しい。
2001.10.10(Wed)
○○捕獲ロボット
SlugBot: Towards True Autonomy(ナメクジ捕獲ロボット)
以前、自律移動ロボットの研究開発に携わっていた頃のこと。どんなロボットが必要とされているだろうかということに、我々は頭を悩ませていた。
役に立って、しかもそれなりに台数が売れそうで、皆が納得するような動機付けが要る。アミューズメントタイプ、戦闘タイプならばまだ考えるのもラクだったが、業務用となると、警備ロボットとか地雷除去ロボットとか、ありがちなネタにすぐ頭がいってしまうので苦労したものだ。
そんな中、思いついたネタがある。『ヨトウムシ捕獲ロボット』。ヨトウムシとは、夜盗虫と書き、その字のとおり夜に畑の作物の新芽をばっさりと囓ってしまう害虫である。こいつに襲われた植物は、根っこだけとなってしまうため、被害は甚大だ。ヨトウムシは昼間は土の中に潜んでいるため、発見はなかなかに困難を極める。もっとも確実なのは、真夜中、ヨトウムシ捜索隊を結成することだが、それでは安眠が妨げられる。ゆえに、『ヨトウムシ捕獲ロボット』の登場となるのである。
だが、この案には重大な欠点があった。ヨトウムシをいかにして発見するのか?だ。画像処理などしていたら価格が跳ね上がる。ではニオイセンサはどうか。ヨトウムシ特有なニオイがあるのではないか。しかしヨトウムシのニオイって何だ?……結局、日の目を見ることなくこの案は闇へと消え去っていった。
ナメクジか。赤い光で暗闇に浮き上がるとは、なんて便利な識別法だ。ヨトウムシにも、ひょっとしたら簡易に発見する術が、あったのかもしれないな。
2001.10.11(Thr)
夜の家
あやうく書くのを忘れるところだったが、みこりんの重要な変化をここに記そうと思う。月曜だったか火曜だったか、とにかくそのへんの夜のことである。みこりんが二階の寝室にある“オモチャ”を取って来なくてはならなくなった。だが、昼間はともかく、夜、一人で二階に上がるなんてことはみこりんにとっては肝試し以外の何ものでもない。これまでは必ず私かLicが付いて上がってやっていた。
その夜もみこりんは私に付いてきて欲しいと言ったが、なんとなく私には予感があった。みこりんは一人でも大丈夫なのではないか、と。だからそのように言ってみたのだった。
最初は“へにょへにょ”にしおれそうな声で「いけん〜」なんて言ってたみこりんだったが、階段の下で見ててあげるからと言うと、ちょっとだけやる気になっていた。ここぞとけしかける私の言葉に、ようやくみこりんは一歩を踏み出す。照明のスイッチも自分で入れて、そろりそろりと上がっていく。
ところが半分まで来たところで、立ち止まってしまった。ちょうどそこから階段が“コ”の字型に曲がっていて、私の視界から消えてしまうのだった。二階行きを断念して下りてきそうなみこりんに、私はさらなる追加支援策を提案した。それは「下から声を途切れることなくかけてあげる」というものだった。
みこりんはこの提案を受け入れ、歩みを再開、私の視界から消えていった。私は約束どおり、「みーこーりーん」などと途切れることなく声を掛け続けたのだった。
やがてみこりんが寝室に到達した気配がした。カチッという照明を点ける音、がさごそ物色する音、そして、階段を下りる音。
再びみこりんの姿が視界に戻ってきた。「どんなもんだい」と言わんばかりの、いい顔をしてる。手には、オモチャを握りしめていた。
階段の下まで戻ってきたとき、私はみこりんを褒め称えてやった。
みこりんは、もう大丈夫だ。だから私はみこりんに重大な事実を告げてやったのだ。
「みこりん、二階の電気、ついたままになっとるよ」
照れ笑いするみこりん。余裕すら感じられた。私の期待どおり、みこりんは明かりを消しに、再び二階へと消えていったのであった。
2001.10.12(Fri)
ナースキャップ
夏に初めて訪問し(8月23日の日記参照)、そして9月には無事に製品デモも終了した(8月31日,9月1日の日記参照)例の病院に、今日は約一ヶ月ぶりに訪れている。
待合室で待たせてもらっている間、なんとはなしに看護婦さんが行き来してるのを見ていたら、前回には気づかなかったことが見えてきた。それは帽子である。
ナースキャップというと、あの看護学校などで蝋燭の炎並ぶ中、厳かに行われる戴帽式のイメージがすぐに思い浮かぶし、実際、これまで私が診察してもらった病院でもその帽子ばかりだったような気がする。でも、ここではちょっとタイプが違っていた。
古風な感じというか、ナイチンゲールがしてそうな感じの、頭部をすっぽりと覆うタイプの帽子なのだった。手術の時の帽子にも似てる(というか、そのもの?)。
さらに観察を続けていると、その帽子の他に、私が見慣れたタイプの帽子をかぶってる看護婦さんもいることに気がついた。制服の色が違っていたので、もしかすると所属によって制服やら帽子やらに違いがあるのかもしれない。
なかなかよいものを見させていただいた(あ、なんか違う…)
帰りはいつものように秋葉原へ寄って、パーツを購入。
100BaseTX/10BaseTのスイッチングハブ(約4000円)とATA100のIDEボード(約2500円)。ADSL移行もそろそろ本格的に準備をせねば。
それにしても今日は新幹線が混んでいた。昨日指定をとった時点で、すでにほぼ満席状態だったことからして奇妙だったが、緑の窓口に並んでる人の列も尋常ではない。………あぁそうか。みんな飛行機をやめて新幹線にしたのね。
2001.10.13(Sat)
『やぎはし』=『やつはし』
「“やぎはし”たべたい」とみこりんが訴えている。
「ん?八木橋?」と私。
最初“やぎはし”と聞いたときには、某鉄○D○S○の例のヤギさんのことかと思ってしまったものだが、もう大丈夫。迷わない。みこりんの言う“やぎはし”とは、あの京都奈良方面に修学旅行に行けば必ず買ってしまうおみやげ第一位(ほんまかいな)の“やつはし”のことなのである。
なぜその“八ッ橋”が我が家にあるかといえば、先日みこりんの運動会に来てくれたじじばばが、おみやげに持ってきてくれたからだった。たしかに八ッ橋は美味い。みこりんでなくとも、はまるおいしさだ。“焼き”よりも“生”が断然いい。餅ときな粉の取り合わせが絶妙すぎる。これで漉し餡だったらもっとよかったのだが、それだけが心残りだ。漉し餡の生八ッ橋、どこかに売ってないかな……
ところでみこりんは結局“やつはし”を憶えてくれなかった。何度訂正してやっても、次の瞬間には“やぎはし”になってるのだ。よほど強烈にシナプス結合がなされてしまっているのだろう。たしかに太一大好きなみこりんだから、八木橋の記憶のほうが強いことは理解できるのだが……それにしても今回の思いこみの激しさは、どうしたことだろう。自我が強くなってきたので、親による訂正を受け入れ難くなってるのかも?
2001.10.14(Sun)
エンサイとモロヘイヤ
菜園1号&2号の様子はどうかなと、庭の落ち葉を踏みしめ歩いてゆくと、うしろからみこりんがちょろちょろとついてくる。プラムの枝をくぐり抜けると、我が家の菜園がささやかに出迎えてくれた。
背後で、「うわぁ!」と歓声が上がる。
菜園の前で、燃えるように鮮やかな赤い花を無数に咲かせているのは、みこりんの大好きなパイナップルセージだった。先週はまだぽつぽつとしか蕾が覗いていなかったというのに、わずか1週間で大変貌とは。おそるべし。…でも株そのものの茂り具合が、いつになくコンパクトなのは何故だろう。背丈も半分ほどだし、新芽の数も少なめだ。
つらつらと理由を考えているうちに、ふと思い当たったことがある。そういえば、初夏のころまで株の上に何かを乗っけてたような…。
パイナップルセージは、冬、地上部が枯れる。そして根っこのまま越冬し、翌春、新芽が伸びてくる。で、たしか去年の冬にパイナップルセージがあった場所に、何かモノを置いたままにしてたんだった。新芽が下からひょろりんと這い出してきてから、そいつをどかしたような記憶があるので、それまでパイナップルセージの新芽は暗黒の世界にいたことになる。……そら大きくならんわなぁ。
株は小振りだが、みこりんはそんなこと気にしない。さっそく花をむしってちゅぅちゅぅ蜜を吸い始めている。私にも1本勧めてくれた。ん、甘い。
菜園の発芽を確認してから、エンサイを少々収穫し、ついでにモロヘイヤも5〜6本枝を手折ってから、ウッドデッキへと戻る。みこりんも一緒についてきたが、カップを手にするとすぐにパイナップルセージの方へと消えていった。
エンサイの葉っぱは、料理するとモロヘイヤのような独特のぬめりが出てきて、かなり美味いことが前回の初めての収穫で判明した。でも、大きな葉っぱは虫食いだらけでいまいち食すには都合が悪く、新芽のほうは日当たりの関係か、間延びしたような感じになっていて、収穫できる葉っぱは意外に少ない。一抱えほどの枝葉から、ザルに一杯分ほどしか採れなかった。ぶっとい茎をそのまま土に還すのは、なんとなくもったいないなぁ……なんて思いつつ、菜園の上に残りをばらまいておく。
さきほどから妙〜に静かだったみこりんが、突然スイッチが切り替わったかのように元気よく戻ってきた。カップの中にはてんこ盛りの赤い花。ちょっと心配になって「全部摘んできたの?」と問えば、「ちゃんとのこしてきてるよ」とのお答え。みこりんも、だいぶ分かってきたらしい。
モロヘイヤの葉っぱは、柔らかそうなのはどれもこれもちっちゃすぎて、いまいち食いでがなさそう。でもまぁそのまま枯らすよりはいいだろうと、収穫してみる。すでに種の詰まったサヤが、中指よりも大きく太くなりつつあって、どきどきする。たしかモロヘイヤの種は、食べられない。食べたら死ぬ(ヒトもそうなのかどうかはわからないけど、牛が死んだというニュースは以前聞いたことがある)。
夕方、買い物から戻ってきたLicが、エンサイの食べ方の載った本を見せてくれた。
「そ、そうだったのか!」エンサイは茎も食べられるのか。というか茎のほうが主なのでは。
食べる葉っぱを千切るんじゃなくて、食べられない葉っぱを千切って、残った茎と葉っぱを、そのまま料理に使えばよかったのだ。うーん、大失敗。もったいないことをしていたようだ。来週はきっちり茎を食べてみようと思う。
2001.10.15(Mon)
いまだ来ず
当サイトの更新には AutoFTP というフリーソフトを使ってきたのだが、家庭内LAN環境の整備がほぼ終わり、ルータマシンでパケットフィルタリングを行うようになってハタと気が付いた。「パッシブモードに対応しとらん…」
ここでアクティブモードのために穴を開けるのもなんとなくしゃくなので、当面はFFFTPで更新作業を行うことにした(このソフトはパッシブモードに対応している)。そのうち、いいWebサイト更新ツールを見つけることができるだろう。……でも、どうしても見つからなかったら……そのときは作るしかあるまい。
いつADSLになってもいいように準備はできたが、いまだ Yahoo!BBからは連絡来ず。はたして年内開通はあるのか。あんまり遅いと、KDDIの割引サービスも始まったことだし、乗り換えちゃおうかな…などと考えてみたりする今日この頃。
2001.10.16(Tue)
『完璧な防壁』の弱点
庭でそいつを見つけたとき、とっさに我が目を疑った。馬鹿な、そんなはずはない。だがしかし、じぃぃぃっと顔を近づけてみるまでもなく、花壇の中に“ぽこっ”と出現した“穴”は、間違いなくそこにあるのだった。
“穴”は、まぎれもなく猫のトイレの跡だと思われた。さっそくビニール袋と“猫糞用スコップ”(数年前から猫糞用にスコップを分けることにしているのだ。つまりそれだけ猫糞被害が多かったということになる)を手に、慎重に穴を掘り返しにかかった。
下手に土を崩すと、余計に被害を拡大してしまうことになるので、“ブツ”を壊さぬように丁寧にやさしく土をどかしてゆく必要がある。朝の忙しい時間に、はた迷惑なことこのうえない。でもこれを後回しにすると、ブツから寄生虫の類とかが這い出してきて想像したくない状況になってしまうので、やるしかないのだ。
やはりあった。わりと小さめのブツを、土中から発掘することに成功する。それを丁寧にビニール袋に投入すると、作業を再開した。慎重に慎重に、余さぬように。
だが、もうそこには何も現れては来なかった。1つだけだったらしい。どうやら敵はかなり小さいようだ。仔猫なのかもしれない。ブツのあった付近の土も、ビニール袋へと移しておく。これでよし。
『完璧な防壁』は、仔猫サイズのネコにとっては“完璧”ではないらしい。特に南と西の庭を仕切るラティス改造の木戸のところ。ラティスの隙間は、仔猫ならばすり抜ける可能性はある。要改修だ。
2001.10.17(Wed)
佃煮にしたもの
夕暮れの教室、その隅っこで、女の子が二人、なにかをむしっていたという。“かさこそ”と、ひそやかに。
いったい何をしているのだろう。そっと後ろから覗いてみよう……
小さなその手に握りしめられているのは、茶色と緑の………“虫”。彼女達が一生懸命むしっていたのは、イナゴの足と羽根だった。
イナゴはすでに死んでいる。少し色が褪せたような感じなのは、茹で上げられているからだろう。足と羽根を取り除いたあと、イナゴは炒めてからめて、佃煮となるらしい。
みこりんに聞いてみると、お散歩の時にイナゴをたくさん捕まえたのだという。だから佃煮……か。
Licはイナゴのようなパリパリした虫より、蜂の子のような軟らかい虫のほうがいいと言う。私は軟らかいものより、ぱりぱり系がいい。うねうね虫は苦手だ。みこりんはどうだろう。私はイナゴはおろか、虫の類は一切食べたことがない。だから、どんな味なのかまったく予想はできないのだが、みこりんはそれほど拒絶反応を示していないようだ。頼もしいことである。
2001.10.18(Thr)
寒い夜
もうじき時刻は明日へと移る頃、ウッドデッキで洗濯物を干していたLicが、温度計が“9度”を示していることを告げた。「9度!」そんな馬鹿な。9度っていったら、もう足先は凍え、鼻の頭がきーんと冷え冷えになってるはずなのに。だが部屋の中はそんな状態にはない。半信半疑ながら外の温度計を確かめてみると……「たしかに9度だ。」
吐く息も白く変わった。もうじき霜が降りるのかもしれない。
もう11月も目の前か。早い、早すぎる。
2001.10.19(Fri)
夢の中
夕食後のひととき。みこりんはすでに眠っていて、リビングで毛布にくるまってぬくぬく状態。ケージから出してやったにゃんち君が、ひとしきり愛嬌を振りまいたあと、勝手気ままに部屋の中を探検している。穏やかな、夜だった。
突然、“むくっ”とみこりんが起き上がった。その表情に、どこか尋常ならざるものを感じたので、近づこうとしたその瞬間。激しくみこりんが泣き出したのだった。着ぐるみでもこもこしたみこりんを抱き上げ、膝の上に乗せると、泣きながらなにやら意味不明な言葉を発しているのがわかった。必死に何かを訴えているようだ。でも、判読できない。
泣き声は、いつのまにかもの悲しい響きへと変わっていた。Licが言葉の断片を捉えることに成功する。どうやらみこりんは何かを食べていたらしい(もちろん夢の中でのことだ)。でも、お友達がみんな取ってしまったので一緒に食べたかったといって泣いている、らしい。……以前もこんなことがあったように思うが、いつだったか思い出せなかった。でも、みこりんはよく夢の中で“食べている”ような…
やがてみこりんは沈黙した。うつろな瞳であらぬ方角を見据えている。「みこりん?」………眠ったらしい。
そっと寝かせ、毛布をかけてやる。おやすみ、みこりん。
明日の朝、目覚めたみこりんに聞いてみるとしよう。どんな夢を見ていたのかと。
2001.10.20(Sat)
目覚め
“台所の奥にヤツがいる。うずくまり、じぃっとこちらを窺っている。ヒトの姿をした別のモノ。にぃっとその薄い唇がつり上がった次の瞬間、ヤツの姿は眼前に出現していた。私に備わっているはずの超人的な能力は、いったい何だったのか。右の太股にヤツの指先が捻り込まれ、そのまま“ぐにっ”とえぐられていた。筋肉の束が千切れるのがわかった……”
目覚めてからも、しばらくの間、動悸がおさまらなかった。久しぶりに見た悪夢。生きながらにして喰われる夢を、最後に観たのはいつのことだったろう。遠い昔のような気もするが…、それにしても生々しかった。血のニオイがしてきそうなくらいに。まったく、寝覚めの悪いことこの上ない。とっとと起きよう。
午前11時45分。もうすっかりお昼だった。
軽く庭仕事
保育園から戻ってきたみこりんと、菜園1号&2号に苗を植えた。これまでプラグトレイにて育苗してきた秋冬野菜の苗である。若干生長が悪いのは、芽吹いたばかりのころに、一度からっからに乾かしてしまったのと、その後の絶え間ないアオムシによる食害のせい。無事に収穫できれることを祈りつつ、1つ1つトレイから抜いては土に埋めてゆく。
みこりんはこの作業がいたく気に入ったらしい。春にはまだ上手にトレイから抜くことができなかったが、今ではもう根っこを傷めることなく、棒っきれで底の穴からつっつく技を会得していた。さすが4歳である。でも、土にぴったりと合う穴を開けるのは苦手のようだ。みこりんの指は、まだプラグトレイの深さよりも短いのだった。
すっかり秋景色の枝垂れ桜とプラムの枝に、輪切りのミカンが刺さっていた。きっとLicが準備してくれたのだろう。ヒヨドリとツグミはまず間違いなく食べに来るだろうけれど、できればメジロとか、そういう小粒で可愛い系な小鳥にも訪れて欲しいものだ。
夕方、ホームセンターからチョコレートコスモスとウインターコスモス、それにブラキカム“ピンク”を連れ帰ってきた。枯れ葉色に染まりつつある庭に、優しい色彩は、たぶんよく映える、はず。
夜の作業
にゃんち君用のヒーターを作動させることにした。夏用マット(冷却ジェル入りで涼しい)は撤去して、秋冬用ネコ・ソファ(というのか?)をセッティング。さっそく中で丸くなるにゃんち君。ぬくぬくと、いかにも温かそうなその姿に、「あぁやっぱりネコは丸くなるに限る」と思うのであった(なんてありきたりな)。
2001.10.21(Sun)
虫の冬支度
夏の終わりに、庭で見つけたコクワガタのメスは、その後も元気にプラケの中で暮らしている。今ではすっかり虫ゼリーにも慣れたようすで、食欲の方も問題ない。
プラケのサイズは15cm×10cm×10cm。土は赤玉土を5mmほどの厚さに敷き、庭で伐採したニセアカシアの切れ端を1つ入れている。いくらコクワガタが小さいとはいえ、ちょっと狭い。しかも土に潜るのも難しい。この点は以前から気になっていたのだが、いつのまにやら季節は秋……。夜間気温が10度を切ってしまう状況では、さすがにこれはまずい。
というわけで、今夜はお引っ越し。ふかふかの土に潜ることができるように、ちゃんと専用の土も買ってきた。移住先は60cm水槽サイズのプラケである。真夏の頃、みこりんが庭で捕まえたちっちゃなテントウムシとかバッタとかカメムシとか、そういう雑多な虫達を飼っていた場所だ。今はもう、枯れ草しか残っていないけれど。
土を入れ、木を置き、新しい虫ゼリーを半分埋めれば準備完了。みこりんが見守る中、コクワガタのメスは私の手により新居へと降り立った。一瞬、石化したかのように硬直した彼女だったが、すぐにふかふかベッドの土に気がつき、前脚を器用に使って頭から潜っていった。
無事に冬が越せますように。
2001.10.22(Mon)
古びた旅館
今年二度目の宿泊出張。今夜のお宿は、海岸にほどよく近い古びた旅館だ。
狭い階段は、どんなに足音を忍ばせても“ぎしぎし”と軋みを上げるし、畳みを歩けば部屋が傾ぐかと思うほどに足裏が埋もれる。じぃじぃとかすかに音を発する蛍光灯は、命の灯火が消えゆくかのようにほの暗い。継ぎ足し継ぎ足しで増設された迷路のような部屋の造りは、隠し部屋の存在をリアルに想像するに十分だった。そしてツッカケで移動せねばならない土間の存在。離れの風呂場…。もう、なにもかもが心の奥底に染み入ってくるほどに懐かしかった。あぁ、木造建造物万歳。
明かりを落とし、煎餅布団に潜り込むと、一日の疲れがどっと脚に来た。さっき風呂場でのびのび湯船につかってきたばかりというのに、まだ疲れが残っていたか。何度も身体の向きを変え、ベストポジションを探す。これで重苦しい柱時計の秒針の音でも響いてくれば最高なのだが、残念ながら時計の類は調度品には含まれていなかった。残念無念。
雨垂れの音がざわざわと会話のように聞こえ始める。やっと眠れそうだ。
夢を見た。起きたらきっと忘れそうな懐かしい夢…だったような。
たまにはこういう宿も悪くない。
2001.10.23(Tue)
埋め立て地にて
今日の仕事は午後からが本番。朝イチで現地入りしたため、準備を終えてもまだ2時間以上も余ってしまった。
天気は最高。ぎゅんと突き抜けるように高い空が続いている。東の風は良好。風向風速計が、さっきからぴたっと一点を向いたまま激しく羽根を回してる。ちょいと外に出てみれば、もうそこは深い海。大海原が水平線の彼方まで広がっていたりする……。ここは埋め立て地の端の端。だだっぴろいヘリポート。
結局、早めに弁当食べたあとは時間まで海を眺めて過ごしたのだった。
海はいい。ねっとりとからみつく潮風がたまらん。海鵜が潜水を繰り返すその向こうで、魚が激しくジャンプするのもまた楽し。えらく寸胴な魚だったが、なんていう種類なんだろう……
ふっと足元を見ると、なんだか光る線があった。釣り糸だ。たぐってみる。けっこう長い。しかも釣り針までついている。いかんいかん、こんなものを放置していてはいかん。さっそく撤去しておいたが、なんか、焼け石に水のような気がする。でもまぁ、塵も積もれば山となる。千里の道も一歩から、だ。
海はどこまでも静かだった。
2001.10.24(Wed)
高原にて
さて今日は、朝も早くから思いっきり業務用な白いワンボックスカーで高速を移動している。目指すは郡上八幡城、のはずだったが途中で指令が入った。目的地変更。我々は一路『ひるがの高原SA』に向かうのだった。
両脇にそびえる山々を抜けて、どんどん奥へと進んでいくが、けっして山は途切れない。膨大な土の量、圧倒的な質量を前に、すさまじいばかりの秘めたるエネルギーを感じてしまう。高度約3000フィート。ノートPCに表示されたGPSからの情報は、刻一刻と目的地へと迫っていることを示していた。
到着。東には鷲ヶ岳がさらに高くそびえている。その遙か向こうを、これからターゲットが飛行してくるのだ。うまく捉えることができるだろうか。
予定時刻をかなりオーバーしたころ、ケータイに“テイクオフ”の報告が入る。無事離陸したらしい。じっとノートPCの画面を見つめる。……変化無し。やはり電波は遮られているようだ。
ようやくターゲットのシンボル表示。その方角に目を凝らしてみたが、微塵もその存在を感じることはできず。音さえも届かない。30km以上離れていては、無理もないか。ターゲット高度約7800フィート。私にとって未知の領域だ(じつは航空機の類には一度も乗ったことがない)。
やがてターゲットの高度が下がる。徐々に徐々に約5000フィートまで。そこで追跡不能になった。山の壁はやはり越えられない。
仕事は終わった。だが、とっとと撤収するにはここは景色がよすぎる。昼飯でも軽〜く食っていってもバチは当たるまい。
我々は、たっぷり時間をかけてランチを楽しんだのだった。
2001.10.25(Thr)
脱力するとき
ある情報システム部の人との電話内容。
「え!?パソコンでソフトウェア開発やってるんですか!!」
(かなり面食らいつつ)
「そうですよ」と私。
「パソコンじゃ性能が足りないと思います」
(は?いったい何年前の話をしてんだ?と思いつつも)
「いえ、間に合ってます」
たしかに8年くらい前ならば、まだこういう人はソフトウェア開発部門にもいた。パソコンといえば、オモチャみたいなイメージを抱いてる人が。しかし月日は流れ、今やよほど特殊な組み込み用途や耐環境性を要求されない限りは、大概パソコンで事足りる。そりゃまぁ何千何万というCPUを必要とするような演算能力が求められる分野じゃこうはいかないだろうけれど。
井の中の蛙とは、こういうことを言うのだろうなぁ。
敵は社内にあり、だ。
2001.10.26(Fri)
みこりんの洞察力
いつもより早起きした朝のこと。代わり映えのしないニュースをつけておく気分でもなかったので、SkyPerfecTV!の音楽チャンネルに切り替えてみた。ちょうど頃合いよく“朝の音楽特集”とやらを流してる。なかなか語呂がいいので、そのままにしておいた。
みこりんに食事を用意してやってから身支度を整えに席を外す。
鏡に映ったちょっと眠そうな顔を、ぱしぱしとほっぺた叩いて気合いを入れたりなんかしていると、みこりんが重大事件を告げるため、かっとんで来たのだった。こういう場合のお約束として「てぇーへんだ〜」と叫ぶよう言い聞かせておかねば、と思いつつ振り向いてやる。さて、何があったのかね?
みこりんは少々息を切らせつつ、こちらを見上げて話し始めた。
「あのねっ!おとーさんのすきな かわいいおんなのこが てれびにでとるよ!」
ほ、ほぉ。一瞬よからぬ映像が脳裏をよぎったが、平静を装って質問する。して、その女の子とやらは何をしてるのかね?
「あのねっ!うたってるの!」
リビングに戻ってみると、TV画面にはChesoonの『SUPERSTAR』という曲のPVが流れていたのだった。ヴォーカルの娘の表情が画面にアップになると、みこりんは得意そうな顔でこちらを見た。そ、そうか、みこりんはこういう女の子が私好みだと思ってるんだな。ちょっと違うような気もしたが、意外にみこりんの洞察力は鋭いのかもしれない。しばらくChesoonをチェックしておこうか。
2001.10.27(Sat)
リトルワールドにて
リトルワールド(世界各地の民家を再現し、民族衣装の着せ替え、現地の食事なども楽しめる野外民族博物館)に再び見参。今回は着せ替えはおいといて、食い物ねらいで行こうかと思う。
みこりんがベビーカーに乗りたいと目で訴えてきたが、4歳になった以上、しっかりと己の両脚で歩いてもらわねばなるまい。ちゃっちゃかと手を引いて進んでゆくのであった。
ペルーの紫トウモロコシジュースなるものに惹かれつつも、ドイツでソーセージ三昧すべく先を急ぐ。そろそろお昼になってしまうので、混む前になんとかたどりつきたいものである。
へこたれそうなみこりんを叱咤激励しつつ、ようやく到着。だが、すでに店には長蛇の列が。お、遅かったか……。といってここで諦めてはもったいない。店内からはみ出した最後尾につながった。
ひたすら待ち、やがて「次の方どうぞ〜」と呼ばれたときには、すでに何を注文すべきか細部まで決めてあった。カイザーサンドイッチ3種にソーセージ盛り合わせ。とお姉さんに告げ終わったとき、みこりんが慌てふためいて付け加える。「“はーと”のかたちの!」はいはい、ハートのカタチのプレッツェルだね。じゃぁそれも1つ。
カイザーとやらは、なかなか歯ごたえのあるヤツだった。プレッツェルは、さらに強靱だった。ドイツ人は顎が頑丈なのだろう。ソーセージは言わずもがな。
午後、白雪姫のコスプレ(これはいったいどこの国の衣装なのだ)をした女の子達が行き過ぎる広間で、大道芸始まる。この手のパフォーマンスを初めて見るみこりんにも、なかなか受けが良いようだった。ジャグリングやら皿回しやら、お馴染みのものは言語や年齢の壁を容易に突破するようだ(大道芸人はアメリカ人だった)。
この日はさらにベルギーサーカスも行われていたのだが、こちらは満員御礼で立ち見となったのが災いしたか、みこりん途中でギブアップ宣言。肩車の乗り方がちょっとうまくなかったらしい。脚が痛いといって戦線を離脱した。ベルギーサーカスは、サーカスというより、どちらかというと現代パフォーマンス(?)みたいな印象で、うらぶれた小さくて狭くて薄暗い劇場なんかがよく似合いそうな、ちょっと不思議な感じのするものだった。色彩が全体的に埃っぽいダーク系だし、演劇のような舞台設定だし、登場人物もみんなかなり癖のあるメイク&衣装だし。派手さはそれほどないので、いわゆる“サーカス”を期待してるとちょっとアレだけども、それなりに興味深い…かもしれない。
そして夕方。帰還準備。前回買った木イチゴのベルギービールが美味かったので、今回はワンランク上のサイズのやつを買っていくことにした。さらに追加で、サクランボと青林檎のも購入。ビールというより、なんだかワインの種類みたいだが……どんな味なのかは後日報告しようと思う。
家に帰り着いてから、みこりんがままごとセットをがさごそ物色してた。何をやってるのかと思えば、皿を1枚取り出し、にやりと意味ありげに笑う。そうか、皿回しだな。大道芸が、よほど印象に残ったとみえる。でも、大道芸人のように皿をくるくる回せるには、まだまだ時間がかかりそうだった。
2001.10.28(Sun)
イナゴの料理法
午後から雨という天気予報だったので、早めに市民農園へと出かける。お供はみこりん。青い実をつけたまま一向に熟す気配のないトマトをすべて抜き去り、茄子を収穫したあとは、雑草とかその他諸々の有機物を畝に混ぜ込んでおいた。
タモ網持参のみこりんは、周辺でイナゴを見つけたといっては「ばさっ」とやってる。でもやっぱり自分では触れないので、私が1匹ずつ獲物袋へと入れてやるのだった。このイナゴ、いったいどうするのかと問うまでもなく、みこりんは「イナゴごはんにしようね!」とご機嫌だ。やはりそうきたか。イナゴ、やはり食べねばならないのか。みこりんがあんまりうれしそうなので、「いや、とーさんはいい」と言えないまま、作業は終了した。
これで畑の半面は片づいた。残りは紅芋の蔓と葉っぱで埋まってる。少しでも芋が出来てれば午後から芋掘りってのもいいかなと思ったが、ちょこっと掘ってみた限り、ひょろひょろの紐みたいなのしか現れなかった。かなり失敗してる気配濃厚。
帰宅後、イナゴ達は袋詰めのまま廊下に置いていたが、びょんびょんと跳ねる音が夜まで続いていた。かなり元気そうである。
みこりんに獲物をどう料理するのかと聞いてみたところ、次のような手順であることが判明した。
【みこりんの保育園で実践されているらしいイナゴの料理法】
- 冷やす
- レンジでチンする
- 羽根と手と脚をむしる
- 再びレンジでチンする
- 粉(砂糖?)をかける
- 醤油をかける
- おいしくいただく
“冷やす”という工程が謎である。レンジでチンする前に、気絶させるということだろうか。レンジでチンだけというのも意外だった。できれば強力な炎で炙っておきたいところだが……
幸い、みこりんは収穫したイナゴを保育園で先生と一緒に料理するつもりでいるらしい。でも、いずれ我が家でイナゴ料理が登場しそうな予感。みこりんがおいしいと言うのだから、たぶんイナゴはそれなりに食べられる食材なんだろう。けど、まだちょっと踏ん切りがつかないのであった。
2001.10.29(Mon)
夕方、イナゴをチンする先生
いそいそとイナゴを保育園へ持っていったみこりん。でも、そのまんまの状態で夕方また持ち帰ってきたという。いったいどうしたというのだろう。昨日はあれほどイナゴ料理に燃えていたというのに。先生に言い出せなかったのだろうか?
Licによれば、夕方、園児達がいなくなり静まりかえった教室で、先生が一人レンジに何かを入れていたという。浅いお皿に、敷き詰められていたのは……「あれはイナゴだったと思う。」Licはそう証言する。
保育園では日常的にイナゴをレンジでチンして食べているのかもしれない。園児達のおやつとして常備しているのではなかろうか。
そのうち蜂の子とかが出てきても、まったく不思議ではなさそうな。それにしてもみこりんが保育園に通うようになって約3年、これまでイナゴの気配すら感じたことがなかったのに、ここにきて突然イナゴの影がちらつくのは何故だ。……イナゴ好きな先生が赴任してきたのか、やはり。
2001.10.30(Tue)
ビー玉とBB弾と南天の実
みこりんはビー玉と言っていたが、それが“BB弾”のことだと気がついたのは庭をビー玉探して歩いてたときのこと。なかなか見つからないビー玉をあんまり熱心にみこりんが探すので、いったいどんなビー玉なのかと聞いてみたのだ。そうしたら、「こんなの」と言って指さしてくれたのがちっちゃな草の種だった。そう、いかにもBB弾みたいな感じの。
近所の公園にはBB弾がよく落ちている。去年、みこりんにそれがBB弾なのだと教えてやってから、妙に気に入ってしまったらしい。最初のうちはきちんと「びーびーだ」と言えていたのに、いつのまにやら「びーだま」にすり替わってしまっているのがご愛敬。
その時はちょうど雨が降っていたこともあり、公園に探しにいくのも何だったので、いい代替品はないかと庭を見渡していたところ……「あった」ちょうどいい色カタチの玉が。
我が家の庭には南天の木が生えている。植えたものではない。気がついたらいつのまにか芽を出していたのだ。たぶん鳥が落とし物をしていったんだと思う。そのまま放っておいたら、今では高さにして1m以上の立派な庭木になってしまっていた。
これまで実が成ったことはなかったが、今年は朱色をした小さな実が重そうに鈴なりなのだった。
さっそくみこりんに南天の実のことを教えてやった。予想どおり興味を示すみこりん。でも、手を伸ばしても届きそうにない場所にそれはあったので、じれったそうだ。よしよし、抱っこしてやろう。
みこりんは南天の実を6つ手中に収めた。大事そうにヨーグルトカップに入れている。でも、それは赤い木の実として興味を惹かれただけだった。直後には、再び「びーだまほしい」コールが始まっていた。BB弾か…、オモチャ用に1パック買ってみようか。ついでにガンの方も欲しくなりそうな気がするので、あんまり近寄りたくはないのだが。
2001.10.31(Wed)
クロマチック・ハーモニカ
長良川の畔にある、とある国際会議場に来ている。コンサートホールなども備えた巨大なコンクリートの塊は、曲面が多用されており、なんとなく宇宙船のような印象である。
奇妙に静かだった。
シンポジウムの開催時間には、まだ間がある。しばらくエントランスをうろついていると、県の催事関係と思われるパンフレット類が整然と並んだラックを発見した。
そんな中に、“彼女”はいた。『小林史真 ハーモニカコンサート』と題されたパンフだった。横座り、やや上向き加減なカメラ目線……微妙に違和感を感じつつも、ハーモニカコンサートというのにちょっと惹かれてしまった。
クロマチック・ハーモニカというらしい。それが奏でる“ホワイトクリスマス”の音色は、なかなか想像することは難しいけれど、どんなものなのか一度聴いてみたいものだ。