2003.6.1(Sun)
展望台
目覚しのアラームが鳴る前に、目が覚めた。2つのベッドの間に挟んだベンチチェアのおかげか、寝相の激しいみこりんが一度も落下しなかったのは幸いだった。
朝食はバイキング。みこりんのもっとも得意とする食事形態だ。本当に食べきれるのかと思うほどに皿に盛っているので、ちょっと心配になったが、なんとか無事に片付きそう。特にアメリカンチェリーはヒットだったようで、二度三度と追加したほどである。
さて、これからの予定は特に決めていなかった。太陽のあるうちには家に帰り着きたいので、お昼過ぎにはここを発たねばならない。となると、残り2時間ちょい。とりあえず無難なところで展望台に登ってみた。
みこりんは双眼鏡が気になるらしく、しきりと覗いてみたそうに全身で訴えかけていた。普通の双眼鏡は1回100円。モニタ画面に表示するタイプのは1回200円。財布の中には残念ながら100円玉は1つしかない。みこりん的にはモニタ画面のついたやつをやりたそうだったが、ここは我慢である。
レンズを覗き込んで、なにやらきゃっきゃと喜んでいるみこりん。いったい何が見えているのだろう。とっても気になったので、ちょこっと覗かせてもらったが、海に浮かんだブイが視界の中央にでかでかと映っていただけだった。
展望台に、なぜか猿回しがいた。みこりんと同じくらいの背格好の猿だ。怖がるかと思ったが、意外にみこりんは平気そうだったので、最後まで見てしまった。しかしなぜゆえに展望台に猿回しなのか。見るべき物は“外”にあるはずなのに。謎だ。
帰りの新幹線では、行きと同様、お弁当を堪能するみこりんであった。
2003.6.2(Mon)
謎の生物
保育園まで車で3分少々の道程である。みこりんを送っていく途中、その口からは絶え間なく言葉が紡ぎ出されるか、ずっと沈黙したままか、その両極端であることが多い。今日のみこりんは、静かにしたい気分だったらしい。おしとやかに助手席に座っている。
ちょうど道程の半分ほどにさしかかったときである。目の前を、突然何かが横切っていった。もこもこの毛並みが、波打つようにさささささっと山の中へと消え去ってゆく。「今の見た?」と、みこりんに聞くと、みこりんも気付いていたようで「あれなぁに?」とさっそく質問が始まった。
明るい茶色というか黄色というか、そんな毛色をしていた。そして顔はやや黒っぽかったような。でももしかしたら白だったかも…。だんだん記憶があやしくなってくる。ついさっき見たばかりなのに。動きからしてイタチのような気もしたが、イタチにしては体高があり、胴も短かったような。しかも毛がふさふさだった。イタチではない可能性が高い。かといって犬とか猫とかのありふれた生物ではあり得ず、やはり野生の何かであろう。
「きつね?」という私に、みこりんは「きつねさんじゃなかった」と断言する。おそるべき自信。みこりんには何か確証があるのだろうか。キツネの子と言われれば、なんとなくそんな風に見えなくもなかったが…
結局、なんだったのかわからないまま保育園に到着した。ふと気になったので、みこりんに聞いてみる。保育園の体育館の床下に住んでいたアライグマはどうなったのだろう。すると、みこりんはあっさりと「いなくなったよ」と言う。どこか別の場所に引越したらしい。あるいは捕獲されたか。みこりんの記憶では、捕獲されたことが封印されている可能性もある。
タヌキ、アライグマ、ハクビシン、イタチ、そしてさっきの謎の生物。この付近には様々な哺乳類が暮らしているようだ。昆虫図鑑だけでなく、動物図鑑も必要かもしれない。
2003.6.3(Tue)
ダブルスタンダード
6月3日付けの朝日新聞の社説は、例の麻生発言に対するものである。氏の発言内容の是非はともかく、社説の一節にこんな言葉があったので引用しておこう。
“まず、自分に都合のいい事実だけを取り出し、それが歴史の全体像であるかのようにいいくるめようとしていることだ。”
6月3日付けの朝日新聞の社説より
氏の発言が誤りであるとして、述べた下りである。
が、その言葉、そっくりそのまま朝日新聞自らにも言えるというあたりが、じつに滑稽である。北朝鮮への帰還事業の煽り然り、南京事件然り、慰安婦問題然り、etc...
朝日新聞の場合には、自分に都合が良ければそれが“事実”ではなく“推測”であっても、さも“事実”であるかのようにして報道するのでよけいタチが悪いとも言える。朝日新聞のこうした体質は徐々に改善されつつあるという噂もあるが、まだまだ社内改革は不十分らしい。
2003.6.4(Wed)
傾いた額縁
明日の会議に備えて、前泊である。定時まで仕事をしてからの東京への移動のため、今回はノートPCは持参しなかった。しかも明日は荷物が増えそうな予感だし。
午後9時過ぎ、ホテル着。静かに夜は更けてゆく。
明日のために早めにベッドに入った。
何かの夢を見ている途中で、いきなり現実に意識を引き戻されていた。ねばつく瞼を無理やりこじ開け、枕元の時計を確認すると、まだ午前3時前。甲高い音に起こされたような気がするが…。
傍らに置いたケータイに、メールが着信していることに気が付いた。アラーム設定を有効にしておいたので、着信と同時に電子音が発生したのだろう。おかげで目覚めてしまったというわけだ。
メールを確認してみる。真夜中のメールは、なんだか心が騒ぐ。もっとも、真に急用であれば直接電話がかかってくるだろうけれど。
ただの広告メールだった。どっと脱力。
起きるべき時間までは、まだたっぷりと時間がある。寝直すことにしたが、熟睡には至らず。奇妙な夢と現実の狭間で、意識がふらついているのがわかる。まずい、このまま朝を迎えてしまうのではないか。焦りがますます睡魔を追い払う。
暗がりの中、枕の反対方向にある壁に、絵が掛かっているのが気になった。額縁が、なぜか左に30度ほど傾いているのだ。もしかして、裏側に何か……。恐い想像になってしまいそうになったが、幸いにしてようやくここで意識は薄れ、眠りの世界へと落ちていったのだった。
2003.6.5(Thr)
情報漏洩
出張から戻り、ほどよい疲労感をほぐすためにニュースなぞつけてみる。さて、今日の世界情勢は、と。
ニュース23に櫻井よし子氏が出演していたので、しばらく聞き耳を立ててみる。ふむ、住基ネットはインターネットに繋がってるから危険とな?インターネットにつながっていたら、いますぐにでも情報が盗まれるかのような口調に、いささかげんなり。そら住基ネットの端末でWebアプリケーションが作動して情報のやりとりをしているってんならまだしも、そうじゃない場合に、外部から侵入して情報を盗むのは結構難しいと思うんだが。インターネットに繋がってるから情報だだ漏れなんだとしたら、世界中の主要企業の社員情報なんかもだだ漏れってことになるけど(企業のイントラネットは、普通、インターネットにもつながってる)、そんなことは通常ありえない。あり得るとすれば、内部犯行があった場合でしょう。
インターネットに繋がってて情報が危険にさらされる場合というのは、Webサービスとして情報をインターネット経由で授受できるように最初から設計している場合とか、Webサーバのどこかに隠しファイルとして情報が置かれている場合とか、そういう状況になってない限り、外部から住基ネットのデータを盗むのは、かなり難しいのではないか?そんな困難なことをせずとも、ちょいと職員を丸め込んでしまえば、いくらでも持ち出し可能って方が恐いな。まぁこの問題は住基ネットに限らず、あらゆる情報漏洩に関して言えることではあるけれど。そういう意味では住基ネットの情報より、一般企業のアンケートとかの方がよっぽど価値有り。
櫻井氏も、住基ネットの問題点を指摘するならインターネットにつながってるから危険なんてあやふやなこと言ってないで、もっと別の切り口にしないとダメでしょう。技術に疎いヒトはだませるかもしれんが…
たとえば住基ネットの運営企業と政治家官僚との癒着とか、そういう現実味のある話の方がよっぽど説得力あると思うのだけど。それをあまり表だって言い出さないということは、証拠を掴んでないんだろうなぁ。
たとえば住基ネットへのアクセス時、情報の取得先に対して毎回“取得確認”みたいな通知が行くようにできると、なお安心。ケータイにメールでも入って(ハガキでもいいけど)、それにOKとかNGとか返信すると、実行されたり拒否されたりするシステム。そうしておけば知らせたくない情報を、他人が勝手に覗き見ることはできなくなるはず。もともとお役所仕事なんだし、少々のタイムラグがあったって平気ではなかろうか。
2003.6.6(Fri)
うっかり
MUSES-C打ち上げに関連して、「星の王子さまに会いに行きませんか」というキャンペーンが実施されていた。簡単に概要を述べると、探査機に申し込んだ人の名前を刻んだプレートを乗っけて、目的地である小惑星1998SF36に置いてこようというもの。もちろん我が家も家族の名前で申し込んでおいた。
探査機そのものは先月の9日に打ち上げが無事成功して、“はやぶさ”と命名され順調に飛行している。ところで、このキャンペーンに連動して、メモリアルプレートの販売も行われることになっている。もちろんこちらも申し込んでおいたのだが、先日確認のメールが届いていた。
曰く「仮申し込みを本申し込みと勘違いしている人が多い」らしいとのこと。ほー、そんなうっかり者がいるとはねぇ…、なんて思っていたのだが、ここで気付く。そういやうちも仮申し込みしかしてなかったような。
すでに締め切りは過ぎていたのだが、そのようなうっかりした人のために期限が延長されていた。ありがたやありがたや。さっそく本申し込みをして、本日振込も無事に済ませることが出来た。あとは届くのを待つばかり。
次はぜひとも月か火星に挑戦したいものである。いや、本当は本人が行けると一番いいんだけど…
2003.6.7(Sat)
ゴボウ・ジャングル
裏庭を、覆い尽くさんばかりに葉を茂らせているゴボウ達。もはや足を踏み入れることもままならぬほどに、その巨大な葉っぱは複雑に入り組んでいた。しかし、このままでは菜園1号&2号が使えない。そろそろ土の準備をしなくてはならないというのに、今はニンジンが花盛りである。ニンジンといえども、背丈は1.7mはある。こちらも侮り難し。
みこりんを保育園に送っていったあと、ついに私はゴボウ&ニンジンの撤去を決意したのである。
長靴と軍手を装着し、右手に剪定バサミをつかむと、まず手近な1本を切断にかかる。直径にして5cm以上。一刀両断とはいかず、3度ほど刃を入れて、どうにか根元から切り離しに成功した。ゴボウの背丈は約2m。私が余裕で隠れられるほどの巨大さである。座布団のような葉っぱもそのままに、通路にどうと横倒し。先はまだまだ奥深い。
左手で上を押さえ、右手で根元を切断してゆく作業を、黙々とひたすらに続けていた。ゴボウのジャングルも、だいぶ開けてきており、それに比例して通路は切断されたゴボウが積み上げられ、引き返すことも容易ではない。
ようやくゴボウをすべて切断し終え、続いて菜園で花盛りの巨大ニンジンを引っこ抜く。土がふかふかなので、こっちはいとも簡単に抜けてきた。生白い根っこは、養分を吸われまくっているのかしなしなである。とても食べられたものではない。
同じく巨大化しつつあった雑草も撤去して、裏庭はきれいさっぱりと整えられた。しかし問題は、通路に積み上げられたゴボウとニンジンである。なにしろ2m近くのゴボウが少なくとも10本以上あり、ニンジンもそれに劣らず大量にある。どこに片付けるか考えているうちに、みこりんのお迎えタイム。思考を一時中断して、クルマに乗り込むのだった。
さて、帰宅したみこりんは、広々とした裏庭にしばし感激していたようである。みこりんの背丈は1mちょい。2mのゴボウジャングルは、とても怖い存在だったとみえる。足元に横たえられたゴボウの山に登り、踏み踏みと、感触を確かめているようだ。
これらをどこに片付けたらよいだろう?そう問い掛ける私に、みこりんはあっさりとこう答える。「あっちのすみっこがいい」
指差す先にあるのは、雑草堆肥の生成場所。我が家の鬼門で、1m四方ほどに、今も雑草などが地上50cmほど積み上がっている。やはりそこしかないのか。私もみこりんの考えに賛同せざるを得ないようだ。
ずるずると1本ずつ引きずって行き、ばさっと乗せる。これをひたすら繰り返し、通路もやっと平らになった。かわりに、鬼門がゴボウとニンジンの壁で塞がれたカタチだ。風通しも悪そうな…。葉っぱが適度に腐った頃に、ぶっとい茎を細切れにせねばなるまい。
*
午後、市民農園にてタマネギを収穫した。はや花が咲きつつあったのが3株ほど。花の着き具合が、ウミネギに似ていることに気付き、「なるほど」と思う。確かに名前も似ているわけだ(語源が本当にそこにあるのかは知らないけど)。
今年のタマネギも、そこそこに太っていた。冬の入り口くらいまでは、タマネギを買わずとも大丈夫だろう。ずしりと重いタマネギ袋を抱え、クルマまで3往復。トランクルームをタマネギで埋めて、帰宅する。タマネギは、しばらくガレージの縁台の上に乗せて乾燥させるとしよう。
畑でカエルを捕まえたがっていたみこりんは、途中で爆睡。静かに土曜の夜は更けて行く。
2003.6.8(Sun)
『化石展』にて
『化石展』が、博物館で行われているので出かけてみる事にした。博物館は、自然公園の中にあるので、散策も兼ねてのお出かけだ。
みこりんの化石に対する執着度合いは、昨年ほどではなかったものの、それなりに興味はあるらしい。でも、どっちかというと化石よりは公園の巨大遊具で遊ぶのを楽しみにしているようだ。先月、保育園の遠足で遊びにきた時の記憶が生々しく残っているのも影響しているのだろう。みこりんは朝から、行く気まんまんで待っていたのだった。
広い駐車場にクルマを停めて、ひたすら遊歩道を歩く。山を丸ごと公園にしてあるので、自然がいっぱいだ。今が旬の山の緑を全身で堪能しつつ、博物館を目指した。みこりんは谷あいにちらほらと見え隠れしている、赤い木いちごの実が気になる様子。食べたいのだが、手が届かない。深い下草に覆われた森の中には、今もひっそりとアライグマなんかが潜んでいそうな気がしてしまう。
木陰を選びつつ、道を歩いて歩いて、ようやく途中の展望台へと辿り着いた。みこりんが見たがったので、螺旋階段を上り、最上階へ。ぐるりと開けた視界に映るのは、山ばかり。稜線に沿って送電線が立ち並んでいるのが、少々興醒め。
展望台を下り、なだらかな山道を再び歩く。座れる場所を見つけて、小休止。みこりんの背負った小さなリュックからお弁当を取り出し、食べた。といっても、みこりんだけなのだが、まさかお茶碗二杯分はあるおにぎりを、一人で全部食べ切ってしまうとは予想してなかった。きっと半分残るに違いないと思って、それをあてにしていたのだが、こうなっては仕方がない。博物館で何か売ってることを期待しよう。
さてその博物館だが、小高い丘の上に建っていた。遊歩道から高低差にして約50mほどあるだろうか。歩いても1分かからない距離なのだが、なぜかその間をモノレールが走っていた。エレベータの箱みたいなのが斜めに上り下りするだけの、簡単な構造の無人車輌である。こういうものに目がないみこりんは、さっそく乗りたがった。
じわじわっと上って行くモノレール。きっと歩いた方が早いに違いない、ゆっくりとしたスピードだ。それでも窓の外を終始見ていたみこりんは、流れる景色に満足したらしい。
いよいよ『化石展』を、見る。イグアノドン等の全身骨格標本(レプリカ)が、ででんと並んでいた。ほほぅ、これがそうか。と思ったら、じつはこれは常設展示で『化石展』とはまた違うらしい。でもみこりんは、触れる骨格標本(本物)の大腿骨とか肋骨に触れて、えらく感激した様子であった。岩の中に骨が埋まっているのがポイントだったのかも。
今度こそ『化石展』の展示ルームへ。ふむふむ、たしかに化石だ。小さな生物の痕跡とか、糞化石とか、かなり通好みな化石がずら〜っと。逆に言えばあまり派手な展示ではないのだが、みこりんはそれら1つ1つがそれなりに気になるらしい。さすが博物館、幼児のツボをも心得ているとは。
琥珀に閉じ込められた虫化石や、ちっこい魚の化石を実体顕微鏡で観察できるコーナーもあり、みこりんはしばらく釘付けであった。みこりんは特に小さいものには目がないのだ。
『化石展』だけでなく、通常の郷土の展示物コーナーでも、キツネやらホンドテン、さらには魚の剥製に興味津々のみこりん。キツネが小さなネズミの剥製を咥えているのも気になるらしい。おそらくすべての展示物を見てまわろうと思ったら、一日はかかりそうなほどの物量である。さすがにそんな時間はなかったので、適当なところで切り上げた。
いずれまた、ゆっくりと時間をとって訪れてみたいものである。
ホタル
夜、21時を回った頃、みこりんを連れて団地の下の川まで、ホタルを見に出かけた。この川にホタルが復活していることは、昨夜、Licと確認済みである。
現場では、ギャラリーがすでに5〜6人おり、今宵もホタルが群れていることが予想できた。
小さな橋の上から川を覗き込んだみこりんは、眼前に広がる光景に、思わず歓声を上げていた。まっすぐに続いた暗い闇の中を、無数の光点がゆらめいている。おそらく100匹以上はいるだろう。川の輪郭に沿って、ホタルの軌跡ができているのがわかる。まさに光のトンネルであった。
近くの田んぼのあぜ道にも小さな輝きを見つけたみこりんが、さっそく近寄ってみている。そっと手を伸ばし、触ろうとしていた。真っ暗闇で、ホタルの緑色した光だけが頼りである。なかなか捕まえられないみこりん。でも、気付いたらホタルは手に乗っかっていたのだった。
ホタルに触った感触を、みこりんは「とってもやわらかかった」と評してくれた。「そぉっとさわらないとつぶれてしまいそう」と、みこりんは言った。その感覚を、大きくなっても忘れないでいて欲しい。そう思わずにはいられなかった。
川の工事から一年。ホタル達は、無事に戻ってきてくれたらしい。
2003.6.9(Mon)
雑感
PSC(ポートステートコントロール)が厳しくなったから、と思われても仕方のない万景峰号の入港中止。やっぱり調べられては困ることをやっていたんでは、と多くの国民は思ったことだろう。
まぁそれはともかく、「もっと以前からこうした体制で臨むべきだった」といった論調が各メディア(驚くべき事に朝日系とか毎日系からも)から流れてくるあたり、変わり身の早さに改めて恐れ入る。日朝首脳会談で拉致の事実が決定的に明らかになるまでは、こぞってだんまりを決め込んでいたくせに。
大勢に流されやすいメディアというのは、じつに恐ろしいものだ。北朝鮮への帰還事業が行われ始めた当時、北朝鮮を地上の楽園と持ち上げた連中は、一回でも謝罪したことがあるのか?そうした基本的なことをすぱっと忘れて、今頃、北朝鮮批判とは片腹痛い。
2003.6.10(Tue)
移動する卵
冷蔵庫の中程の棚に、卵が1つ、落ちていた。割れもせず、ころんと横たわった卵ちゃん。扉上部に備わった卵入れから落ちたのだろう。その時、Licはそう思ったそうである。そのまま卵を手に取り、卵入れに戻したLic。しかし、その卵は、生卵ではなかった。私が昼間、ぐらぐらとゆでて作ったゆで卵なのである。
卵入れから卵が落ちる、なんてことがあり得るのだろうか。しかも、割れもせず。そう問いかける私に、Licは頭を抱えていた。
しかしこれで生卵とゆで卵の見分け方を、みこりんに教えるいい機会ができたと考えればLicの勘違いも有効に生かせるというものだ。みこりんに卵を注目させておいて、テーブルの上でくるくるっと回し、ぴたっと止めた。ここで手を放しても回転するようならば生卵、静止したままならばゆで卵。そうやって、ぴたりとゆで卵を当ててみせる私に、みこりんは魔法を目撃したような表情をしていた。
詳しい原理を説明しても、まだみこりんには理解不能であろう。というわけで、この場は、そういうものなのだということで覚えておいてもらうことにする。いずれまた、みこりんが大きくなったとき、冷蔵庫の棚に卵が落ちているかもしれない。そいつをうっかり生卵に混ぜてしまった時にでも、役立つことだろう。
2003.6.11(Wed)
枯れ葉のようなもの
朝、リビングの網戸に枯れ葉がくっついているのに気がついたみこりんは、揺すってそれを落とそうと試みていた。が、なかなか枯れ葉は落ちてはくれない。さすがに不思議に思ったみこりんは、枯れ葉をじぃっと観察し始めるのだった。
やがてみこりんは気づく。その枯れ葉には、小さな黒い目があったのだ。つまり生き物ということになる。驚愕するみこりん。
そして夕方、網戸には、まだ例の枯れ葉そっくりな生物がいた。さっそく図鑑で調べてみようと言い出すみこりん。よい兆候だ。
ところで図鑑の1ページ目から調べていっていたのでは、さずがに膨大な時間がかかってしまいそうだったので、蛾の仲間ではないかとヒントを与えてやった。目次で蛾を調べ、該当ページへとジャンプするみこりん。蛾の仲間だけでも数ページにわたっているため、調べるのはなかなか大変だ。
目の前の生物と、図鑑の写真とを見比べるみこりんだったが、どうにも該当するものが見つからないらしい。私も確認してみたが、そのものズバリな写真は載っていないようだ。そんなにマイナーな蛾なんだろうか。脚にもヒレのように枯れ葉の痕跡が擬態されている蛾ともなれば、わりと図鑑では取り上げてそうに思うのだが。
とりあえずデジカメで証拠写真を残しておくことにする。あとでもっと詳しい図鑑で調べてみよう。
枯れ葉のような蛾は、深夜にはいずこかへと消えていた。もしかしてサナギから羽化したばかりだったのかも(それにしてはサナギの殻が見あたらなかったが)。
2003.6.12(Thr)
抱っこ
スーパーにて、熟睡するみこりんを抱っこしてみた。ずしりと重い。くたっと肩にもたれかかる頭も、ずいぶんと大きくなった。ふわふわの髪の毛で、視界の大半を覆い隠されてしまう。
じっとしていては、すぐ腰に来てしまいそうだったので、しばらく周囲をゆっくりと巡ってみた。ぶらんと垂れ下がったみこりんの両足が、こつこつと膝横に当たる。じつに歩きにくい。
あぁ、もう抱っこする時期もおしまいなのだと、しみじみと感じた夜のことであった。
2003.6.13(Fri)
神出鬼没
梅雨も本格的になり始めた今日この頃、風呂場にナメクジがよく出没するようになった。湯を溜める時に、気をつけて風呂場中を観察しているのだが、この警戒網を突破するヤツが結構いるので、油断できない。
いったいどこに潜んでいたのかと思うほどに、神出鬼没だ。
幸いにも、湯をはった湯船の中にいたことはないが、蓋の上で寝そべっているヤツは何度か目撃した。あぶなかっしいことこの上ない。発見したナメクジは、すぐさまティッシュでつまんで、窓から、ぽぃっ。多いときには5匹ほど、少なくても1匹は必ずいる。
いったい彼らはどこからやってくるのだろうか。外部とつながっているところといえば…、排水溝くらいしか心当たりはないが、常時水がある場所を、どうやって移動するのだろう。あるいは延々と玄関あたりから這い進んできているのか…。ひっそりと静まりかえった夜、家の中をぬめぬめと這うナメクジという想像はかなり怖い。私はカタツムリは好きだが、ナメクジはとても苦手なのだ。どうせ出るならカタツムリにして欲しいのに、なぜだか最近はカタツムリの姿をほとんど見かけなくなってしまった。カタツムリ、どこにいってしまったのか。
そういえば、遠い昔、まだ私が小学生の頃。カタツムリが何かの病気を媒介するとかで、虐殺されていた時期があったような。今とは住む地域が全然違うのでなんともいえないが、カタツムリの恋しい季節である。
2003.6.14(Sat)
猫の予防接種
にゃんちくんを予防接種に連れて行こうと、キャリングボックスを用意した。にゃんちくんはすぐに捕まったものの、なかなか入ってはくれない。抱っこして頭から入れようと試みるも、両手をついて踏ん張って踏ん張って、さっぱりである。両手両足を掴んで入れようともしてみたが、これはいくらなんでも無理があった。
これまでキャリングボックスに入れるのに苦労した記憶はない。たしかにゃんちくんは、自分から入っていってくれるほどなじんでいたはずだ。それがなぜ…
ふと思い立って、にゃんちくんと抱き上げ、後ろ向きに入れてみた。「すぽっ」という感じに、あっさりと中におさまるにゃんちくん。…最初からこうしておけば。
さて、病院はいつになく空いていた。待ち時間ゼロである。診察台にキャリングボックスを置いて、今度は中から出す番だ。爪を立てて抵抗するにゃんちくん。さっきはあれほど入るのを拒んでいたのに、今度は出たがらない。やはり動物病院は苦手とみえる。
中敷きのペットシーツと共に引っ張り出して、いよいよ診察である。まず体重測定。2.8kg、昨年より0.8kgくらい増加している。避妊手術の影響ではないかと獣医さんは言った。
次にいよいよ注射となった。診察台の上で、なにやら警戒しているにゃんちくん。尻尾が終始、棒タワシのようにまぁるく膨らんでいる。ぶすっと針がささっても、意外ににゃんちくんは動じなかった(緊張でそれどころではなかったかのかもしれないが)。注入されている間も、にゃんちくんは身動き1つしない。最後に消毒して、終了。そそくさとキャリングボックスに戻ってゆくにゃんちくん。その姿が、妙に人間っぽいと思ったのは、ちょっと肩を落とした哀愁のせいだったろうか。
クルマの中で、にゃんちくんは虚空を見つめていた。名前を呼んでも目を合わせてくれない。にゃんちくんが普段どおりに戻ったのは、家に帰り着いて1時間ほどたってからのことだった。繊細な猫、にゃんちくんである。
2003.6.15(Sun)
風呂掃除
久しぶりに水槽の水換えをやっていると、みこりんがおもむろに風呂場の掃除を始めた。ビニール袋を加工した自作の割烹着のようなものを着用しているのが、妙に似合っている。私が風呂場付近の水槽をいじっているので、みこりんも傍にいたいのかなと思ってみたり。
タイルの目地をがしがしとこすっているみこりん。何でこすっているかといえば、入浴材の入れ物の蓋にくっついていたスポンジのようなもの。とても掃除に適しているとはいえないのだが、みこりんは一生懸命こすっていた。
3つ目の水槽にとりかかっても、みこりんはまだがしがしとやっていた。すぐに飽きるかと思ったのに、意外に長続きしている。それならばと、Licが本格的なお掃除ブラシを手渡してやった。一気に作業効率は10倍ほどにアップしたらしく、みこりんのお掃除スピードも本格的に。みるみるぴかぴかになってゆくタイルと浴槽。しかも以前から掃除しなきゃと思っていた浴槽の蓋まで、きれいにしてくれている。なかなか役に立っているではないか。
割烹着のようなものは、いつのまにか脱ぎ捨てられていて、みこりんはパンツ一丁になっていた。暑かったらしい。
私が水換えを終えようとしていた頃、みこりんの掃除も一段落したようだ。磨き終った湯船の中で、シャワーを楽しみ始めるみこりん。もしやこれが狙いだったのか?水浴びは、みこりんのもっとも得意とする遊びだ。
やがて、さっぱりした表情で風呂場から戻ってきたみこりん。満足げである。その調子で自分の部屋もきれいにしてくれるといいのだが、こちらはオモチャやらガラクタ(でもみこりんの宝モノ)でごちゃっと埋まっているのであった。
2003.6.16(Mon)
シメジ嫌い
夕食に、シメジが出た。キノコはみこりんも得意なはずなので、大丈夫だろうと思っていると、さっき口に入れたばかりのシメジが、ちゅるんと滑り落ちてくる。
偶然かと思ったが、その後も何度か同じような光景を目にしてしまった。どうもみこりんは意図的にシメジを滑らせているようだ。しかし、何故…
食事もいよいよ終盤にさしかかった頃、みこりんは何やらもぎゅもぎゅと苦労していた。口の中に、ずぅっと残っているものがあるらしい。ちょっと固い肉では、こういうことはよくあるのだが、今回はどうも肉ではないような。
もぎゅもぎゅもぎゅもぎゅもぎゅもぎゅもぎゅもぎゅ
おそらくこのまま放っておいたら、一時間でも噛んでいそうな雰囲気である。あーん、と口を開けさせてみると、中に入っていたのは、シメジだった。シメジの軸の部分で苦労しているようだ。以前は全然平気そうにシメジを食べていたはずなのに、と不思議に思ったが、みこりんにも徐々に嗜好の変化が出てきたのかもしれないと思い直す。好き嫌いはほとんどないみこりんだったが、ついに苦手なものができてしまったらしい。
そういや私も子供時代、シイタケが駄目だった記憶がある。あの妙にふにゃっとした食感と、薄切りにしたやつの色彩がナメクジっぽくて、どうにも口に入らなかったものだ。
しかし困った。シメジは私(たぶんLicも)の得意分野なので、おそらく今後も食卓に上ることは多かろう。みこりんの苦難は続く(でもマッシュルームは大好きらしい)。
2003.6.17(Tue)
導通ペン
導通すると、“びびっ”とアラームの鳴るペンタイプのオモチャを、みこりんは持っている。英語教材にくっついてきたやつで、本に印刷された正解をなぞると、“びびっ”と鳴るという仕掛けだ(たぶんインクに金属か何かを混ぜてあるのだろう)。そのペンは、とにかく導通すれば鳴るようになっているので、例えばみこりんの皮膚でもOKである。それが面白いらしくて、みこりんは最近よく己の手や足は顔にペンを当てては、“びびっびびっ”と楽しんでいるのだった。
しかしそのペンは、私の皮膚ではぴくりとも鳴らない。不思議そうにみこりんは何度も何度も押し付けてくれるのだが、やっぱり鳴らない。…、これが若さというものか。
2003.6.18(Wed)
不運
みこりんにも出来るゲームは、それほど多くはない。そんな中でも、『ギャラクシアン3』はひたすら撃つだけという容易な操作で、みこりんと共に楽しめる数少ないゲームの1つだ。
先週の土曜日から、みこりんは『ギャラクシアン3』をやりたがっていたのだが、時間の都合がつかずに延び延びになっていた。今宵は私のお迎えに来てくれるまでに、歯も磨いてすっかり寝る準備が整っていたので、いよいよひと勝負…、と思ったら、帰りのクルマの中でみこりん熟睡。貴重なチャンスを逃してしまったのであった。なんという不運。
きっと、明日の朝起きてみこりんは呟くに違いない。「また、できんかった…」と。
2003.6.19(Thr)
巣立ちの季節
午前中、仕事でちょいと別の建屋に出かける用事があったので、自転車で5分の場所まで移動した。その帰り、自転車置き場に戻ろうとしたところ、アスファルトの上に、ちっこくて茶色いものが落ちているのを見つけたのだった。
じぃっと顔を近づけてみると、スズメの雛であることがわかった。嘴のはしっこがまだ黄色い、巣立ったばかりのような雛だ。
しかしなんだか様子がおかしい。体全体を丸めて、目を閉じている。しかも頭が、くたっとしたような感じに斜めに傾いでいるような。いったいどうしたのか。よく調べてみようと手を差し伸べたその瞬間、雛は“はっ”としたように目を開け、ばたばたと小さな翼を広げて大空へ…、飛ぶつもりだったらしいが、そのまま地面を転がっていった。
巣立ったばかりでうまく飛べないというより、どこか怪我してるっぽい感じ。弱々しく閉じられている目が、とても痛々しい。巣から落ちてしまったのかもしれない。頭でも強く打ったのではあるまいか。
再度、手を出そうとしたが、今度も雛は逃げようと地面を転がって行く。
完全なる保護か、諦めか。10秒ほど、私は迷った。迷った挙げ句、そのまま雛を置いていく事に決めた。今は、いかんともしがたい。
そして午後、今度は屋外の非常階段のところで別の雛に遭遇した。今度の雛は、さきほどのとは違って少しオトナに近い姿だ。スタイルもかなりスリムに絞り込まれている。でも、まだ飛ぶ事には不慣れなようで、ばたばたと床の上を転がっていった。こちらも巣立ったばかりらしい。
無事に大きくなれるのは、全体の何パーセントなのか。そんな考えがちらと脳裏をよぎったのだった。
2003.6.20(Fri)
昆虫図鑑
近頃、寝る前に歯磨きを終えたみこりんは、決まって昆虫図鑑を手にするようになった。世界の珍しい昆虫のページを開いて、「これ、なんのむし?」と質問してくる姿は、なかなか頼もしい。
よくよく聞いてみると、保育園にも昆虫図鑑が置いてあるらしく、昼間調べた虫を、家に帰ってから再確認していることもあるようだ。ついにみこりんも、見つけた虫の素性を図鑑で調べるという癖が付き始めたとみえる。昆虫図鑑だけでなく、鳥図鑑やら獣図鑑やら魚図鑑なんかも買ってこなくては。
ところでみこりんには、昆虫図鑑の中でも特に気になるページがある。それは、“ムカデ、ヤスデ、ダンゴムシなどのなかま”のページだ。みこりんにも触れるダンゴムシが載ってたのがポイント高いのかもしれない。が、ダンゴムシ以上にゲジとかムカデの方に熱い視線を送っているようにも見える。あの独特の形態、脚が無数に生えている姿が、みこりんの何かを刺激しているのだろうか。
でも、クモは大の苦手なみこりんである。脚の数は少ないのに…
2003.6.21(Sat)
骨を埋める
生ゴミを、生ゴミ堆肥置き場に持っていき、土に埋める。この作業をやっている間、みこりんはその様子をそばでじぃっと眺めていた。そして、ふと見つけたのが、小さな芽だった。生ゴミ堆肥の中には、様々なものが混じっているのだ。
「これなぁに?」と言いながら、さっそく手にするみこりん。その手に乗せられた芽は、黄色く、どことなくひょろひょろっとした感じに弱々しい。双葉の形からすると、キュウリとかゴーヤといった雰囲気である。が、何なのかは私にもわからない。
みこりんは、それが何の芽なのかどうしても知りたかったらしい。「うえてみてもいい?」と言うので、許可してやった。私もその芽の行く末が気になるし。芽は、そのまま菜園2号に植え込まれたのだった。さて、どんな植物に育つだろう。
続いてみこりんの目にとまったのが、骨だった。鶏の大腿骨と思われる骨は、長らく土の中にあったので、褐色に変色していてどことなく化石のようにも見える。それを手にしてみこりんは言った。「これうえたら、“にく”ができる?」
さっきの芽の隣に、みこりんは骨を埋め始めた。はたして骨は肉を実らせることができるのか。じつに気になるところだ。
午後、骨やら芽やらが植え込まれた菜園に、トマトの苗3種を定植した。ちょっと出遅れたような気もするが、夏には収穫できることを期待しようと思う。
2003.6.22(Sun)
移動
出張のため、午後イチで移動。せっかくの日曜日なのに、どうにも落ち着かない。なにしろ今日のは普通の出張ではないのだから。
着いた先は、自衛隊のとある駐屯地。今日から3日間、ここで過ごすことになる。といっても、ありがちな自衛隊研修といった類のものではない。ある行事を見学させてもらうのが、主な任務だ。
案内された宿舎は、想像とは違い2段ベッドではなかった。1段ベッドが8つほど並んだ部屋である。なんとなく病室のような印象だ。調度品は、ほとんどない。小さなTVと、ソファが1つ。それにロッカーがベッドの数と同じだけ。そしてこれは意外だったが冷蔵庫が1つあった。ロッカーさへない部屋を想像していたので、ある意味驚きであった。やはり研修で泊まるのと、仕事で泊まるのとでは、立場が違うということだろう。
部屋の確認が終わったところで、各自、濃緑の戦闘服に着替える。会社からの同行者は他に2人。自衛官が1人付き添ってくれていて、ブーツの履き方や、袖まくりの仕方などを教わった。駐屯地内でスーツ姿はかえって目立つということでの着替えである。やがて即席の新兵さんのできあがり。
食堂で晩飯を食ったあとは、さっそく一仕事。入念に見学を行った。ぴりぴりした緊張感がこちらにも伝わってきて、ついつい背筋も伸びてしまう。
駐屯地の夜は早い。消灯になる午後10時、風呂から上がってベッドに横たわっていた私は、ラッパの音を遠くに聞きながら眠りについた。普段よりも2時間も早い就寝時刻だが、今宵はいとも簡単に睡魔は訪れてくれた。明日のことを思うと、幸いだ。
2003.6.23(Mon)
自衛隊二日目
起床ラッパで、一気に意識は覚醒した。昨夜横になった姿勢のまま、目ざめたようだ。夢を見た記憶もない。午前6時15分、これまたいつもよりも2時間は早い目ざめである。
朝から、夜まで、ひたすら見学。気づき事項をメモにとり、必要事項を目に焼き付け、デジカメで記憶の補完。ずっと立っていたので、徐々に脚が“棒”になりつつあった。
昼休み、とある部屋の扉が開いていたので、そっと中を覗いてみると、ずらっと並んだ自動小銃。なるほど、道理でカギがやたらと厳重だったわけだ。ちょっと触ってみたい誘惑にかられつつ、そんなことは無理に決まっているので視線を元に戻し、部屋へと引き上げるのだった。
消灯時間。昨夜と違って今宵は目が冴えて眠れない。傾いだ網戸の隙間から入り込んでくる蚊のせいもあるだろう。何度も狭いベッドの上で寝返りをうちながら、眠ろうと努力した。が、ついに本格的な睡魔はやってはこなかったのである。
2003.6.24(Tue)
自衛隊三日目
ようやくうとうととし始めた頃、起床ラッパが鳴り響く。眠い。じつに眠い。
幸い、今日の仕事は午前中までだ。それまで辛抱すれば、あとは帰りの電車で心ゆくまで眠ることもできる。
見学も大詰めを迎え、お昼前、ようやく終了。いったい何を見学していたのか最後まで言えないところがアレだが、何事にも秘密はあるということで…
任務完了。戦闘服を脱ぎ、スーツに戻る。なんだかとても懐かしいような、落ち着いた気持ちになれるのが不思議だ。普段スーツなんて滅多に着ないのに。まぁ、戦闘服よりはスーツの方が、より着慣れてはいるけれど。
こうして三日間の駐屯地生活は終わりを迎えた。外は土砂降りの雨。梅雨はまだまだ終わりそうにない。
2003.6.25(Wed)
絞り込み
この夏のキャンプ場候補を、ついに絞り込む事に成功した。狙うは新鹿海水浴場キャンプ場。オートキャンプ不可、テント持ち込みのフリーサイトのみというのがポイント高い。しかもテントサイトは砂浜だ。つまり、目の前は海。波の音をBGMに、満天の星空を堪能するには絶好のロケーションといえる。
ただ1つ問題があるとすれば、少々距離があることくらい。
果たして一日で移動できる距離なのだろうか。心配になってきたので、地図ソフトを起動し、ルートをなぞって距離を計測してみた。すると…、約300kmと出た。半分ほどは高速道路を利用できるので、朝出発して午後には到着できる距離ではある。あとは体力がもつかどうかだ。
20代ならば、この程度の移動はまったく問題にはならなかったであろう。大学時代は、毎年のように300km以上をバイクで移動してキャンプに出かけたものである。しかし今、自分でも自覚できるほどに体力は落ちている。
自分を試すにも、今年の夏はいい機会になりそうだ。
2003.6.26(Thr)
紙すき
みこりんが紙を作っている。雑誌の付録についてきた、紙すきセットを試しているのだ。
紙の元となる紙片と、糊を含んだ紙、そして色紙、きらきら糸をボトルに入れて混ぜて混ぜてひたすら混ぜて、均等に溶かしたものを、型にどばどばとかけ、押さえて水気をとったら出来上がり。型は、ハガキやウチワとかがあり、みこりんは、ばぁばに手紙を出す事をもくろんでいるらしい。
この手の紙すき実験は、私が子供の頃からあった(もっと昔からあったのかもしれない)。牛乳なんかの紙パックを溶かすというのがポピュラーだったような記憶もある。でも、当時からしっくりこなかったのは、紙を溶かして紙をつくっても、「あたりまえじゃん」ということに尽きる。どうせならパピルスを栽培するところから始めて、古代エジプトで使われた紙の再現とかだと、もっと面白かっただろうに。どこかの付録でこういうのやらないかな。
2003.6.27(Fri)
始祖
就寝前、布団にみこりんと並んで寝転んでいると、突然こんなことをみこりんが言い始めた。曰く「にんげんのはじめはだれだったのか?」
難問であった。みこりんは、ヒトの始祖を問うているのだ。どうやって説明したものかしばらく薄暗い天井を見上げて考えてみたが、やはり猿から進化したのだと言うしかあるまいと結論付けて、語り始める。
むかし、むかし、とぉぃむかし、猿の中にとっても賢い猿が生まれました、と。
みこりんは言った。「そのひとは、おばあちゃんくらい?」
おばあちゃんのおばあちゃんのおばあちゃんよりも、もっともっともっともっと昔のことだよと教えてやった。でも、こんなに長いタイムスケールは、みこりんの想像の範疇をはるかに超えてしまっていたらしい。ヒトの始祖は、まだ生きていると、みこりんは思っているようだ。それはそれで興味深い想像ではある。
私にも正直、ヒトの始まりがどうだったのか正確なところはわからない。もしかすると、何者かに遺伝子操作されて云々という古典的SFネタが真相に一番近いのかもしれないし、じつは始祖は異星人だったという線も捨て難い。みこりんにもおおいに悩んでもらうとしよう。考える事がいずれ何かの糧となることだろう。
2003.6.28(Sat)
ペットショップにて
大型ペットショップに、ウズラ達の餌を買いに行った。ラウディ・ブッシュ社のペレットは、この辺りではここにしか見かけないので、ちょっと遠いのだが定期的に買い出しに行っているのだ。
まず、店内をぐるりと巡って動物の観察。小動物コーナーには、前回来たときのままアルマジロが売られていた。やはり体を丸めて眠っているようだ。みこりんに「これなーんだ?」と聞いてみると、「メロン?」とやっぱり同じ答えが返ってきた。たしかに見れば見るほどメロンに似ている(メロンというよりは、ウリのほうがより似ているけど)。
でも今回はみこりん、ケージに貼られた名札を目敏く読み取っていた。「あ…るまじろ?」みこりんはアルマジロがどんな生物なのかわからないものの、それがメロンではないことに気付いたようだ。ちょっと照れくさいみこりんであった。
さて、ペレットを3袋抱えてレジへと向かう。レジ係の女性に、「どんな鳥を飼っているのですか?」と質問された。このタイプのペレットをまとめ買いするので興味を引いてしまったのだろうか。「ウズラです」と答えると、効果のほどをさらに質問されてしまった。でも我が家では雛の時から、いわゆるウズラの餌はやってないので、比較できない。そのように答えると、ちょっと残念そうな表情を見せた。
でも、売ってるウズラの羽根の色と比べると、うちのウズラ達は模様がよりくっきりしているような気がする。艶があるというか、ぱっと見、ちょっと派手っぽい印象である。これがペレットの効果なのかどうかは不明だが、違いといえばそんなところだ。
支払いを終え、最後にトリマーさんたちにトリミングされている犬達を見学した。ガラスで仕切られた部屋の中で、小型犬が3匹ほど、おとなしくカットされている。顎の下を、くっと持上げられて前髪(?)を切り揃えてもらってる姿は、なんだかとても人間っぽい気がした。みこりんも興味深そうに見入っている。
ふと、にゃんちくんもここでカットしてもらいたい、という思いが湧き起こったが、短毛のにゃんちくんではカットのしようがないことを思い出し、ちょっとがっかり。というかそれ以前に、人見知りの激しいにゃんちくんが、ここの犬達のようにおとなしく洗われたりカットされたりするとは思えない。にゃんちくんには、これまでどおり自分でなんとかしてもらうしかあるまい。
2003.6.29(Sun)
虫いろいろ
庭のクローバーがものすごいことになっていたので、少し草引きすることにした。みこりんが「あんまりぬかないで」と訴えているので、真ん中へんを残しておくことにする。みこりんは、雑草にバッタ等の虫達が多く潜んでいることを知っているのだ。
長い茎を“ぶちっ”と引っ張ったら、土の中から“ぬるん”とミミズが飛び出してきた。最近ミミズにはまっているらしいみこりんに教えてやると、さっそく触ってみている。冷たい肌触りが気持ちいいのか、みこりんはミミズに触るのは全然平気なのだ。ところが、「わっ」と言ってみこりんが急に手を引っ込めた。何かと思って見てみると、地面の上に短いミミズが1匹のたくっている。ミミズにしてはなんか形状が変かな?…そいつは、切断されたミミズの後部だったのだ。
みこりんによれば、触ってたら突然切れたのだという。もしやさっきの草引きの時に、茎で切れ目を入れてしまったのかも…。まぁそれはともかく、このぴくついているミミズの切れ端をなんとかせねば。このままプラナリアのように復活するといいのだが、と思いつつ、とりあえず土の中に戻しておいた。
続いて土の中から転がり出てきたのは、何かの蛹だった。体長約1.5cmほど。まだ幼虫時代の皮がくっついている鮮度抜群の蛹である。そのせいか、蛹のくせに、やたら腹部をひくつかせていてちょっと怖い。でも、その動きがみこりんの好奇心を刺激しまくったとみえる。さっそく飼いたいと言い始めた。
私もこの蛹がいったい何になるのか興味があったので、みこりんに飼ってもらうことにする。昨日捕まえたバッタの赤ちゃんは逃がしてやって、虫かごに土を入れ、蛹をそこに置くみこりん。はたしてこの蛹、何になるだろう。私の予想ではコガネムシなのだが、羽根が甲虫っぽくないのが気になる。
草引きも一段落したころ、みこりんはダンゴムシを見つけていた。昨夜、ダンゴムシの絵本を読んで聞かせてやっていたので、さらに興味を引かれているらしい。なにしろダンゴムシは石やコンクリートも食べるというのだ。みこりんは、さっそくダンゴムシを入れた缶の中に、石を置いてやっている。石だけじゃなくて、ちゃんと主食であるところの落ち葉も入れてやらなきゃ、と指摘するまで、みこりんは石のことしか頭にないほどであった。
庭にバッタも徐々に増え始め、蝶も飛来するようになってきた。夏が、待ち遠しい今日この頃。