ひみつ日記（2005年2月分）

　普通に歩道を歩いている女の子が、突如ローラーダッシュをかまして驚いたのは３年くらい前のことだったろうか。私が受けた衝撃を、やはりみこりんも同じように感じたらしく、以来、ふっと思い出したように「つるーっとすべるくつほしいなー」と言っていた。そして一週間前のことだ。近所の女の子が、颯爽とローラーダッシュで駆け抜けてゆくのを目の当たりにしたみこりんは、ため息とともに「ほしいなー」と改めて呟いたのだった。
　ふむ。そろそろいいかもしれないなぁ。幼稚園の頃は、あまりに危なそうだったので却下してきたが、そんなみこりんもこの春から２年生、こけても少々のことでは壊れないだろう。
　というわけで、先週から靴屋さんめぐりをしてみてわかったことがある。ローラーシューズによっていろいろ事故が起きたので、靴屋さんにはもう置いていないらしい。あるとしたら、おもちゃ屋さんとか。まぁたしかに人込みとか危険な場所で、ローラーダッシュかませば、事故も起きるだろう。なんにでもいえることだが、TPOはわきまえないといかん。

　がっかりした様子のみこりんだったが、こういうときこそググッてみればよい。遠くのおもちゃ屋さんまで足をのばすことなく、よりどりみどり。
　吟味した結果、Mathy Mathyに決定。みこりんの足のサイズ“１９”の在庫があったのがポイント高い。「どの色がいい？」と、画面を見せると、みこりんは真剣な表情でホイールを回して品定め。３０秒ほど悩んだあとで、「これがいい」と指差した。

　オレンジ色のローラーシューズ、結構いい値段してるが、まぁ何年も欲しがっていたやつなので、よしとする。サイズは１９を選んで、買い物かごに入れた。

　そして待つこと２日、いよいよローラーシューズが我が家にやってきた。箱を持ってみると、ずしっと重い。これで歩けば、いい運動になるかもしれないな、と思いつつ、みこりんに箱を渡す。
　べりべりべりっと包装をはがし、いよいよ開封。お、ビデオテープが入ってる。なるほど、たしかにこれは“おもちゃ”かもしれない。テープを再生し、遊び方の解説を、みこりんと共に見る。１回見て、だいたいの感触はつかめたので、さっそく外の駐車場へと向かう。車を移動させれば、ほどよい広さの空間ができあがり。ここなら安全だ。

　私の腕に、みこりんを掴まらせて、しゅるるるる〜。おぉっと、行き過ぎ。かなりふらついている。もう少し速度を抑えて慎重に慎重に。
　そぉっとそぉっと駐車場を行ったり来たり。やがて街灯がつき、いつのまにやら辺りはすっかり夜の気配。みこりんはまだ私の手につかまったままだが、３０分ほどの間にずいぶんとコツをつかんだような気がする。体が左右にぶれることも少なくなった。みこりん憧れのローラーダッシュまであとわずか。

　布団の中でまどろんでいると、がららら〜という微かな音が聞こえてくるのに気が付いた。窓の外からだ。その音は寝ぼけ頭に心地よく、軽やかに行ったり来たりを繰り返している。いったい何の音なのだろう？ようやくそんな考えにたどりついた私は、傍らに寝ていたはずのみこりんの姿がないことに気づき、一瞬で目覚めたのであった。

　玄関のドアを開けると、黄色いヘルメットを装着したみこりんが、するるる〜っと歩道を移動してゆくのが見えた。それにともない、がらららら〜という音も、左から右へと移ってゆく。
　しばし呆然。ローラーシューズが届いたのは昨日のこと。夕方ちょびっと練習した時点では、まだ一人での走行は無理っぽかったのに、いつのまにやらみこりんはローラーダッシュのコツを身に付けてしまったらしい。もはや補助など不要なほどに、しっかりと滑走していた。恐るべし、子供の適応能力。

　みこりんが手を引っ張ってというので、じわじわっと引いてみた。もっと速く、と言うので、中速ダッシュ。これでもまだ足りないらしい。というわけで、全力ダッシュ。しかものぼり坂。急に負荷をかけすぎた私の心臓が、どっくんどっくん怖い音をたてている。でもみこりんがきゃっきゃと喜んでいるので、次は下り坂を駆け下りる。おぉぉ、すごいスピード。というか、なぜか私よりみこりんの方が先いってるし。と、とめねば。
　急ブレーキにならないように、じわじわっと足を遅く。でもみこりんは、平気な様子で、すぱっとつま先立ちして停止した。止まり方も上手だ。もはや私が手助けすることもないらしい。

　心ゆくまでみこりんはローラーダッシュし、私はそれを傍らで見守ったのであった。