2001.5.1(Tue)

今日の園芸

 カレンダーでは平日なので、みこりんを保育園に送っていく。着いてみるとウサギが脱走したとかで、広い園庭を先生と子ども達が駆けずり回っていた。追いかけると泥沼のような……と思いつつ、帰宅。ウサギの捕獲、絶好の教材だ。先生と子どもの創意工夫が試されるところ。

 さて、恐いくらい静かな午前中である。昨日までの雨で湿気た空気が、いかにも春っぽくて心地よい。でも気温はさほど上がらず、肌寒いくらい。室内気温は17度。…何をしよう。しばらくぼんやり考えてから、プラグトレイで窮屈そうに育っている苗の一部を定植することにした。本葉が2枚展開している黒葉小松菜、チンゲンサイ、大根、白菜、カブ、かつお菜の6種類、23本。

 チンゲンサイと小松菜は、それほど生育に期間はいらないのでお手軽にプランタへ。ここまでは良かったのだが、残る大物でハタと困ってしまった。うっかり菜園の準備を忘れてしまっていて、即座に植えられるところがない。石灰やら堆肥やらを今から施しても、そこにこの苗をそのまま植えては障害が出てしまう。そこで探しに探して、ようやく見つけた庭のちょっとしたスペースに、それぞれ分散して植えてやることにした。またしても無節操な庭になってしまった……花壇の向こうにカブとか、ウッドデッキ周囲にかつお菜とか…。白菜だけは野菜用の大型プランタで事なきを得たが、根張りのことを考えると、ほんとうは地植えにしたかった。次回、こういう心配をしなくていいように、さっそく菜園に石灰を播き、堆肥をすき混んでおいた。

 そうこうするうち、すっかりお天道様は頭上に来てしまっていた。
 午後、市民農園へLicと向かう。二人がかりで前回やり残した左半分へのボカシ肥投入と、畝作りを完成させるべく作業開始。昨日まで雨が降っていたので、土がほどよく軟化し、最初ほどには労せず土をいじることができたようだ。予定よりもかなり早く畝作りまで終了した。畝の数は全部で10本。多品種少量生産は今年も健在。

学習するみこりん

 風呂上がり、みこりんと一緒にカラダをタオルで拭いていると、何気にみこりんがたすき掛けにし始めた。そしてそのまま、胸のところでタオルの両端を器用に結わえてしまったので、驚く。ながーぃものならともかく、長さぎりぎりの、しかも湿気たタオルを、これほどあっさりと結わえてしまうとは、意外だった。日夜特訓を重ねていたのかみこりん。少し気になったので誰に教えてもらったのかと聞いてみたところ、保育園の先生の名前が上がった。そ、そうか…やはり。
 さっきもやはり保育園で教わったとかで15まで完璧に数え上げてるし、こいつはうかうかしてられない。いちおう私も20までみこりんに教えていたのだが、14あたりでいつもぐちゃぐちゃになってしまってた。もっとうまいこと教えてやらないと、気がついたときには教えるべきことがほとんど残ってなかったなんてことになってたりしそうで恐ろしい。


2001.5.2(Wed)

寄せ植え

 雨…

 昨日定植した苗に、プリンケースをかぶせて保護してやった。予報によれば、かなり激しい雨になりそうだったから。窒息しないかちょっと心配。

 小雨のうちに、庭で寄せ植えなぞやってみる。水槽統廃合の結果、玄関の靴箱の上が空いたので、そこに飾ってみるつもり。あちこちに分散していたミニ観葉植物を、ひとまとめにして見栄え良く植え込んで……。でもあんまりぎゅうぎゅうにはしないでおこう。どうせすぐに大きくなる。

 ミリオンバンブーも寄せ植えに加えてやった。竹なので、もしかすると土に植えたりしたらとんでもなく巨大になりそうな気もしたが、冬の寒さで受けた傷を癒してやるにはこいつが一番。なにしろ2本あるうちの1本が枯死してしまうほどのダメージだ。いくら強靱な生命力を誇るミリオンバンブーとはいえ、再生には時間がかかるはず。

 出来上がり。今回はLicの感想聞けず。またしても失敗したのか、ひょっとして。

気になる小物たち

 夕方、買い物に出かけて見つけた和食器屋さんで、思いがけず小物に見とれてしまった。陶製の時計とか、障子紙を使ったスタンドとか、梟の香炉とか、そういった土系な置物に、なぜか心惹かれてしまったのだった。

 和室をちゃんとするのもいいかもしれないなぁ…とか、つい思い始めてしまう。長い道のりになりそうだ。


2001.5.3(Thr)

植物の絵

 “激しく降るでしょう”と予想されていた雨だったが、明け方には止んだらしい。清々しい雨上がりの朝だ。さっそくプリンキャップで保護した苗達の安否を確かめるべく庭に出る。
 ナメクジにぺったりとまとわりつかれたプリン容器もあったが、いずれもどっしりと微動だにせずその目的を果たしてくれたようだ。苗は皆、無事だった。

 お昼前、市民農園の定植祭に向かう。この日は予約苗の配布も兼ねていたが、我が家ではすべて自家製の苗を用いる予定だったので“定植祭”とはいっても植えるものはない。懇親会だけの参加のつもりだったが、改めてLicにそれを指摘されると、たしかにちょっと寂しい気もしたのでジフィーポットで育苗中のベビーコーン(中華丼などによく入ってるトウモロコシの若い実を食べる種類のやつ)を3つばかり持っていくことにする。まだ定植には少々早いのだが、トウモロコシのタフさに期待したい。

 現場ではすでに大勢が農作業の真っ最中だった。元が田圃なので、ものすごいぬかるみようだ。とりあえず持ってきた苗を割り当て区画に置いて、懇親会会場に向かう。参加費オトナ一人300円だったが、食事内容はどう見てもそれ以上の品のような…。昼間から発泡酒で真っ赤になったところで、午後、定植作業に取り掛かる。

 うっかりみこりん用の長靴を持ってきていなかったのでLicのを履かせてみたが、脚がすっぽり長靴に吸い込まれてしまったような具合になってしまった。いかにも歩きづらそうだが、みこりんはこの状況をそれほど不幸とは思ってないようだ。なにしろ大好きな泥んこと一緒なのだから。

 広い畝に苗3つ、みこりんと共に定植する。土はかなり粘土質。こいつを畑に適したものにするには、あと数年はかかりそうだ。契約期間は2年間だが、更新時期に応募人数が区画数を上回れば、すべての区画割り当てが再抽選ということになる。なかなかにスリリング…

 帰宅後、我が家の菜園2号のほうも始動させることにした。今年はもっと計画的に余裕をもって作業を進める予定だったのに、なぜゆえにこうもぎりぎりになってしまうのか。でもまぁ土のほうは、ぶっといミミズなんかがごろごろするようになってきたので、大丈夫そうではあるけれど。

 菜園の隅で、ひっそりとレタスが葉っぱをにょきにょき生やしているのを発見。去年、花を咲かせた記憶はないのだが…。踏んでしまわないうちに、別の場所へと移植する。最近レタスの消費量が増えているので、こういう予定外は大歓迎だ。

 *

 夜、みこりんに絵本を読んでやっていたときのこと。その絵本は田圃で稲を育てるというストーリーで、2種類の稲を使って田圃に絵を描くというオチがついていた。これがみこりんには好評で、「こういうのやってみたい」と言わしめるほどだった。そして私に「やって!」とお願いされてしまったのだが、たしかにこいつは面白そうではある。もちろん稲でやるのは難しいので、別の植物を使うことになろうが、市民農園の割り当て区画を使えば楽勝のような……と、ここでハタと気がついた。絵を鑑賞するには、上から見る必要があるじゃないか。それには市民農園の立地条件はいかにも不向きだ。気球を上げて上空から映像を送るという案も考えたが、やはり直接見るのとレンズを通した映像とでは、迫力が違う。却下だ。…となれば、やはり庭でどうにかするしかあるまい。庭ならば、二階から自由自在に鑑賞できるだろう。
 さて、また1つ課題ができてしまったようである。物量にモノを言わせて花壇にお絵描きっていうのは、できれば避けたい。しばらく悩んでみるとしよう。


2001.5.4(Fri)

塗り塗りパート2

 よく晴れた朝だった。予報でも、今日一日雨は降りそうにない。というわけで、ペンキ塗り第二弾の開始である。

 ウッドデッキのサンルーム内を塗り替えるには、まずそこに置いてある雑多なものたちを撤去することから始めなければならない。とりあえず庭の空いたところに仮置きしておく。そしてデッキ部分の大掃除。まず箒で大まかにゴミを取って、と……。って「なんじゃこりゃ?」思わず手が止まっていた。ワーディアンケースを置いてたあたりに、黒い小さな塊がばらばらと落ちているのだ。米粒の2倍もしくは3倍ほどはありそうな、炭のように黒い物体。私の記憶が即座にそいつの正体を教えてくれていた。

 「ネズミの糞…」

 そう、それはまさしくネズミの糞であった。学生時代、下宿していたアパートで、夜な夜な天井で大運動会を繰り広げてくれた愉快な奴ら。彼らがこっそり住処にしていたのは、冷蔵庫の裏側だった。そのことに気づいたのは卒業して、就職のために部屋を引き払う大掃除の最中のこと。冷蔵庫を運び出そうと動かした途端……畳の上にざらざらとこぼれ出てきたのが、今目の前にしているソレと同じものだった。忘れようがない思い出だ。

 だがネズミの巣にしては糞の量が少ないような?せいぜい片手一杯分くらいしかない。これはひょっとすると、別荘なのかも。本宅はどこか別の場所にあって……ここで少し嫌な予感。でも我が家では今のところ夜間大運動会は開催されていないようだが、でも、しかし、真夜中、たまーに無人のはずの二階の部屋あたりで物音がするようなしないような…。

 さらにここで重要なコトを思い出していた。例の豆消失事件、あの犯人は、もしやコイツなのではなかろうか。ネズミと豆、取り合わせ的にはまったく不都合はない。いや、それどころか最適解のような気さえする。やはりあのときビデオカメラをセットしておくべきであったか。

 さてデッキの大掃除はブラシでの丸洗いへと移っていた。みこりんも雑巾かけのお手伝い。がしがし擦っていると、だんだん塗装皮膜が剥がれて、まるで赤土が飛び散っているかのようになってしまった。かなりばっちい。固まらないうちにホースの水で洗い流しておく。そこへみこりんが立ち塞がり、すっかり水遊びモードへと。たっぷりの水で滑りやすくなったデッキ上を腹這いに泳ぐ真似をしてみたり、実際に「しゅぅぅぅぅ」と滑走したり、ずぶ濡れになりながら遊ぶみこりん。まさに水を得た魚である。とはいえ自分も随分昔には似たような覚えもあるので、好きなように遊ばせておく。
 そうこうするうち、丸洗い完了。あとは乾燥するのを待つばかり。

 Licに塗料を買ってきてもらってる間に、サンルームに置いていたワーディアンケースを丸洗い。これは今後2階へと移動だ。保温設備を付加していないワーディアンケースは、サンルームではあまり意味がないことに、今更ながら気がついたのであった。これはもっと有効に使う方法がいくらでもある。たとえばプラグトレイを夜間室内で保管しておくときの、ラックとか。

 Lic帰還。デッキ部分はすっかり乾いて真っ白になっている。家族揃って塗り替え作業開始。今回はみこりん用に小さな刷毛も買ってきて貰った。細かな部分には、それが役に立つだろうし。
 さすがに3人でやると塗るのも早い。ただ今回はサンルーム内ということもあり、古い塗装が残った部分と、完全に剥がれた部分との落差が大きく、色の乗りがかなり違ってきてしまった。ちょっと気になって二度塗りしてみたが、それがかえって悪い結果になってしまったような気もして少々心配。果たして乾いてくれるだろうか。休暇も残りあと二日。乾いてくれますように。


2001.5.5(Sat)

記憶違い

 朝起きて、まっさきに確認したのは昨日塗ったデッキの上。どうみても濡れているように見える。他の部分はまだマシだったが、最後の仕上げに二度塗りした部分だけが、ヤケに生々しい。そぉっと指で触れてみると、“にゅるっ”と滑った。……ぜんっぜん乾いてないじゃん。

 気を取り直して庭に出る。プラグトレイでは狭くなりすぎたレモンキュウリなどをポットに植え替えしていると、みこりん登場。“ままごと遊び”を始めたいようなのだが、なぜか庭ではなく、ガレージでやろうと言う。庭仕事しながらだったら付き合ってもよいと妥協案を示すも、みこりんはなかなかOKしない。ガレージのどこがそんなに気に入ったのか不思議に思ったので、どうして庭ではダメなのか理由を聞いてみたところ、眉間に皺を寄せて片眉上げの渋い表情で答えてくれた。「あれとかそれとかこれとかがいっぱいあってせまいからいや。」なんて贅沢な。

 あれとかそれとかこれとかの大部分はみこりんの庭用おもちゃなのだが、もう何ヶ月もそうして雨に打たれるまま、風に吹かれるまま、雪に埋もれるままに放置してあったというのに、今頃になって気になりだしたらしい。それなら片づければいいのにと思うのだが、わざと散らかるように片づけてくれたりする。まったく、片づけ下手なのは両親譲りらしい。

 結局、「庭でなら、一緒にお料理できるのに」という私のコトバに負けて、みこりんはガレージから“ままごとセット”を引き上げてきたのだった。
 これで落ち着いて庭仕事ができる。みこりんの相手をしつつ、花壇に敷き詰めた雑草をどかしてみたら、見慣れぬ赤っぽい苗を発見。本葉がやっとこさ見えてきたくらいの幼苗だ。はたしてこいつの正体は何だろうかと、該当しそうな候補を順に上げていくうち思い出していた。赤紫蘇だ。

 去年の夏、赤紫蘇をこの場所で育てていたので、こぼれ種が芽吹いてきたのだろう。きちんとプラグトレイに種を播いた方のは、さっぱり音沙汰無しだというのに。紫蘇みたいに野性味溢れたやつは、ヘンにお上品に育てようとするよりも、こうして放任栽培したほうがいい結果が出るのかもしれない。数えてみると、赤紫蘇の苗は全部で7〜8本はあるようだった。さらに視線を移動させてゆくと、色違いで緑の同じカタチをした苗を無数に見つけてしまった。するとこいつは青紫蘇ということになろうか。去年植えた場所もだいたい合ってるようだし。

 このまま花壇の一等地で大きく育ってもらっても困るので、もう少し日陰のほうに移動させることにした。特に赤紫蘇は梅干し漬ける用に欠かせないので見落としの無いように。青は……まぁ2〜3本もあれば十分なのでそれなりに。
 ところがLicに重要な点を指摘されてしまった。青紫蘇だと思ってるヤツのほとんどが、じつはレモンバームなのではないか、ということだった。それが証拠に葉っぱを少々手に擦りつけてみると……青臭いレモンバームの香りがした。これもあれもそれも、まさかみんなレモンバーム、なのか?たしかにレモンバームも青紫蘇も、どちらも紫蘇科で苗のカタチもたいへんよく似てるとは思うのだが。

 幸い、4本くらいは青紫蘇だということがわかった。本葉の表面にトゲトゲがないヤツが青紫蘇らしい。これでこの夏も素麺の薬味に困ることはなさそうだ。移植完了。

 紫蘇苗のあった場所は、今一度耕し直して、キバナコスモスの苗をプラグトレイから定植した。指で穴をぷすっと開け、そこに根鉢を崩さぬようにすっぽりと収める。これがたいへん楽しい作業に見えたようで、すかさずみこりんがお手伝いを申し出てくれた。都合5株を花壇に定植。

 もうじきお昼のチャイムが鳴る。ふと見れば、Licが庭で開花中の白菜の種(菜の花の種を思い浮かべて欲しい)をもぐもぐと食べていた。豆みたいな味がするらしい。そのまま莢ごと何本か摘んで部屋の中へと消えてゆく。……しばらくして昼食を乗せたトレイを手にLicが戻ってきた。だが、そこにさきほどの白菜の種は見あたらず。結局、茹でてもスジが多くて食べられなかったんだそうな。この日はオーソドックスに冷麺を食すことになった。庭で食べるときには、なぜか冷麺が多い…ような気がする。

 ジャーマンアイリス開花。でも、なぜか黄色。黄色なんてあったっけ?としばらく悩む。他の蕾はみんな紺色で、こちらのほうは記憶通り。でもLicに言わせると、我が家のジャーマンアイリスはもともと2種類あったはずという。最初からあったやつと、途中でもらったやつと。私の記憶では、もらったやつのことしか覚えていないのだが。でも記憶力でLicに勝ったことがない私としては、ひょっとするとそうなのかも、と思い始めていた。そう言われてみれば、最初は黄土色というか金色の花を咲かせるやつが咲いていたような…。すると、金色、紺色、黄色の3種類あるってことになるなぁ。ジャーマンアイリスって、途中で色変わりしたりするんだろうか。謎…だ。とりあえず隣家にはみ出してた蕾を茎ごと切り花にして、リビングに飾ってみた。まだ固い蕾だ。咲いてくれといいんだけれど。


2001.5.6(Sun)

向日葵のこと

 向日葵が花を咲かせる方角は、その名の通り、東〜南東方向、すなわち午前中の太陽の方向らしい。少なくとも我が家では、そのような傾向にあったように思う。そのことをあまり意識せずにうっかり南東の隅に向日葵を育ててしまうと、皆、そっぽを向いたようになってしまってじつに哀しい思いをすることになる。

 昨年は、ついうっかり南東に種を播いてしまったが、今年は違う。庭から眺めてもっとも向日葵を美しく観賞するためには……西に植えねばなるまい。そこならば、向日葵たちは常に庭の中心を向いていてくれるだろう。西側のガレージとの境界線に並べて植えれば、表通りからの目隠しにも具合がよい。ただ1つ難点があるとすれば、それは青空をバックにできないことだった。今年育てる予定の“ゴーギャンの向日葵”は、背の高さ1m20cm〜1m50cmになるらしい。ちょうどガレージの屋根とかぶってしまうのだった。

 澄みわたる碧を背景に咲く向日葵の花……というのは、真夏の情景には欠かせないものだが、今年は諦めるしかないか。いやいや、向日葵の種ならばハムスターの食事に供せるほど余っているのだ、こいつを有効に使わない手はない。全部が全部そっぽを向かなければいいのだから、昨年種をとった“ゴッホの向日葵”は、青空を背負えるところに播くとしよう。開花時期を互いにずらせておけばさらに申し分あるまい。

 私は西側の境界付近を軽く耕し、みこりんを呼んだ。向日葵ほど生長著しい植物は、子供と育てるにはうってつけだ。私が植え穴を開け、みこりんがそこに種を1つ1つ入れてゆく。
 発芽適温25度…今日の気温は、22度…。無事発芽してくれますように。

 午後、いつのまにか大きく育っていた野バラを抜いた。6年くらい前からそこにあったような気もするが、どういういきさつでここに根を下ろしたのかはわからない(たぶん小鳥か動物に種が運ばれてきたのだろう)。最初のうちは、懐かしさも手伝って(小さいころにはよくこいつでひっかき傷をこしらえたものだ)大きくなるに任せていたのだが、さすがに場所を取りすぎた。

 野バラを撤去したあとには、大のウズラの卵好きなみこりんのために、ウズラ小屋を作るという案もあるのだが、さて、どうしたものか。『完璧な防壁』が完成したおかげで、庭の自由度は比較にならないほど大きくなった。なにしろ土をふかふかのままにしておいても、まったく心配無用なのだ。苗を定植しても、猫避けのことを考えなくてもいいのだ。小鳥を飼っても、もはや猫に襲われる恐れもない。じつに長い道のりであったことよ…

湯の中の棒

 みこりんと共に風呂に肩まで浸かる。今夜の入浴剤は、透明度2cmほどという濃い乳白色タイプだった。そのため湯の下のようすはまったく窺い知ることができない。

 ふと、手に触れるものがあった。硬い。金属製の棒のようなもの。拾い上げてみると、それはみこりんがおもちゃにしてた棒だった。それを確認すると、もう一度そいつを沈めてみる。水面下ぎりぎりに、ぼんやり姿が見える程度にしてみたところ、古い池の縁から濁りきった水面をのぞき込んでいるような気になってくる。

 見えない池の底には、得体の知れないものがいる。その棒をゆるゆると上下に揺らしてみたり、左右に振ってみたり、みこりんの興味をかき立てる動きをしてやると、思った通り、食いついてきた。
 みこりんは棒をつかもうと手を伸ばしてくるものの、なぜか湯の中までは追ってこない。本能的に見えない空間への進入を拒んでいるかのように。そのかわり、棒を持っている私の腕を押さえにかかった。腕の先には棒がある……この瞬間、私は手に持っていた棒を、みこりんに悟られぬように右足の指に挟んでいた。そして、両腕を小さく万歳させて、持っていないことをアッピールしてみせたのである。みこりんの動きが止まった。

 その小さな瞳は、じっと湯船のはしっこでゆーらゆらと揺れている棒に注がれている。私は足が攣りそうになるのをこらえて、いかにも生物的な動きに見えるように努力した。その甲斐あってか、みこりんは少し距離をとるように後方へと下がった。

 「なんで動いてるんやろう…」白々しくも私が呟くと、みこりんは囁くような声でこんなことをいった。「ういてるだけじゃないの?」
 少し前ならこれで十分騙せたものだが…と思いかけたものの、すぐに別の可能性に気がついた。みこりんは怖がっている。だから動いているのに、動いていないと思いこもうとしているにちがいない。ならば…

 棒を、はっきりと大きな動作で上下に揺らしてみた。そして、くくっと鋭角的に斜めに移動、さらに円弧を描いてもとに戻る。それを数回繰り返し。明らかに浮いてるだけではない動きを始めた棒から、みこりんは目が離せない。

 でも、唐突に棒は消えた。次の瞬間、ちゃぷっと私の手に握られて再登場。棒の恐怖は去ったのだった。
 ようやく緊張の解けたみこりんと、棒について互いの見解を述べあってみたのだが、やはりみこりんはあの棒が「ういていただけ」とする主張を崩さなかった。風呂の中に何かいる、あるいは、別の可能性を考慮するだけの余裕はなかったらしい。でも、あと二ヶ月もしたら、こんな子供だましのトリックは、即座に見破られてしまいそうな気もするのである。それを思うと、なんだか少しだけ、寂しくもあり…。子供だましではないトリックを考えておかねばなるまい。


2001.5.7(Mon)

ナメゴン捜索隊

 なぜに斜めに傾くのか。
 昨日からプラグトレイの置き場所を、二階の部屋へと移動させた。サンルームの塗装が完全に乾いていないことと、ワーディアンケースを二階にもってあがったからだ。日光浴させるのに、いちいち下まで持って下りて来なくても、ベランダに出してやればいい。でも、今日は雨。窓越しに日光浴させていたのだ。

 夜、苗は皆、急角度にお辞儀をしてた。しおれてそうなっているのではなく、光を追い求めるうちそうなってしまったらしい。この季節、太陽光線は冬ほど低くもなく、真夏ほど高くもない位置から差し込んでくる。だから窓の内側にあっても、日当たりはいい。…はずだった。にもかかわらず、この変化はなんとしたことだろう。外に出していたときには、こんなに倒れ込むことなく太陽を浴びていたというのに。

 雨模様で弱光線だったことが影響したのだろうか。光の絶対量が足りない場合、その受光効率を上げるために、光線に対して茎を平行に向かうように作用している……のかもしれない。

 夜も更けてきたが、小雨はなかなかやみそうにない。じめじめした日は、ナメゴンの天下である。今年初めてのナメゴン捜索隊出動。
 懐中電灯の光芒に浮かび上がる多数のぬめり。とってとってとってとってとってとって…………とってとってとりまくる。白菜が1本、危うく丸坊主にされるところであった。この分だと大根も安心できない。さっそく菜園方向へと向かう。
 目の前をよぎる小さな影。頭上から垂れてきてるヤツがいた。毛虫だ。あやうく突っ込んでしまうところだった。視界クリア。大根チェック。幸いにも無事であることを確認。帰投する。

 部屋に戻っても、なんだか頭の上とか、背中とかがむず痒い…ような気がして心落ち着かず。


2001.5.8(Tue)

すばらしき生命力

 ジャーマンアイリス開花。
 先日の土曜日に切り花として部屋に飾っていたやつだ。蕾は3つあり、そのうちもっとも大きかったのが開いていた。葉っぱはない。茎だけの、いったいどこにそんな生命力が隠されているのだろう。
 残り2つの蕾にも、なんとなく開花の気配が感じられて、心強い。

 発根…したりして(いくらなんでも無理か)。


2001.5.9(Wed)

慌ただしく日帰り

 始発列車で東京へと向かう。朝9時始まりといえば、バブル期ならば間違いなく前泊だったのだが、もはやそれは望むべくもない。

 車中、谷甲州の『巡洋艦サラマンダー』を読了。続いて、同じく航空宇宙軍史の『最後の戦闘航海』へと進む。ようやく90年代にたどり着くことが出来た。まだまだ先は長い。

 東京着。気のせいか、以前ほど人波に勢いがないような。
 桜田門、永田町。地下鉄駅から地上に抜けると、やはりこちらも人影まばら。目的地のセミナー会場となるホテルに到着しても、やはり、ほとんど人の気配がない。

 物音1つ聞こえてこないほどの静寂である。用意された部屋のほかにも、さまざまにイベントは催されているはずなのに。
 受付が始まると、少しだけ空気が和む。参加者は思ったほどには多くなかったこともあり、部屋に入ると、またしても静けさが戻ってくる。

 休憩時間、吹き抜けの回廊を下りてみたところ、やはりこの階にも人気がなかった。だだっ広いロビーには、まるで置物のように二人ほどの人影が認められたものの、永遠に時間が止まってしまったかのように背景に溶け込んでいた。

 そのとき、突然1つのドアが開いた。中の様子が一瞬垣間見える。吸音材でほとんどエネルギーを吸収されたようなさざめきと、和やかな雰囲気の人の群れ。目の前に突然現れた光景は、なんとも現実味がないものだった。まるでキューブリックの映画でも見ているような……。ところが開いた時と同じくらい唐突にドアは閉じられた。再び時間が凍り付く。もしも今、あのドアを再び開けたとしたら、さっきとはまったく違った光景がそこに待っていそうな雰囲気だった。無性に笑いの衝動がこみ上げてくる。今日はもうこの出来事だけで十分元をとったように思う(セミナーの内容もそれなりに有意義ではあったのだけど)。

 夕方5時、業務終了。東京駅周辺を久方ぶりに歩いてみた。せっかくなのでみこりん用に何か買っていってやろうと、10年ぶりくらいに『王様のアイディア』で物色。バッフクランの重機動メカのような形状をしたロボットに、かなり惹かれてしまった。が、こいつは少々みこりん向きではない。やはりこちらの“ころころもるもる”にしておこう。似たようなコンセプトの踊るモーラーも捨てがたいが、値段の違いで“もるもる”に決定。レジ前で3割引の札がついたミニサイズのオカリナを発見したので、ついでに購入。
 それにしても腹減った…。今日はなんだか異様にエネルギー消費が多いような気がする。このまま倒れ伏してしまいそうなほどにお腹と背中がくっつきかけていたので、予定よりも1時間早く列車に乗り込むことにした。うっかり空腹に負けてどこか適当なところで腹を満たしてしまうと、出張の帰りに新幹線で駅弁を食うというささやかな至福のひとときがおじゃんになってしまう。それだけは回避せねば。

 Licにお願いされていた“キティちゃんの人形焼き”は、あいにく売り切れ。今回も買って帰ることができなかった……。“ころころもるもる”は、みこりんに好評であった。よし合格。


2001.5.10(Thr)

もうおとーさんたら、という感じ

 みこりんと共に顎の下あたりまで湯に浸り、しばらく目を閉じてから、ゆるゆると瞼を開く。はぁ、脱力脱力。
 何気なく自分の左手を見る。手のひら、くるっと回して手の甲、そして指…。「な、なんじゃこりゃぁ!」とお約束のように叫んで、人差し指を凝視する。そこには、鮮血が…いや、鮮血のように見える鮮やかな朱色のミミズ腫れが、長さ1.5cmほどにわたって貼り付いていたのだった。

 朱色というよりは赤紫に近いかもしれない。いかにも体に悪そうな着色料べったりの菓子に、こんな感じの色があったような気もするが、なんにしても人体から発したとはとても思えない色彩だ。
 擦ってみてもびくともしない。異物が付着しているのではないらしい。でも、すこーし横向きに光にかざすようにすると、なんとなく中心線あたりに厚みを予感させる陰影があるようなないような。さらに見つめていると、なんとなく皮膚の下に赤黒い染みが広がって来つつあるような気になってくる。もっと悪いことに、その部分には得体の知れない生物が“ぴちぴち”と蠢いている……ような気がするのだった。でも、痛くも痒くもない。いったいこの指先で、何が起こっているのだろう。

 みこりんもこのミミズ腫れは気になるのか、つんつんとつついてみたりしていたのだが、やがて自分なりの結論を述べてくれた。それによると、このミミズ腫れは入浴剤の着色料が付着したものではないかというものだった。もちろん3歳9ヶ月のみこりんが、そんな難しい単語を並べ立てたわけではないのだけれど。ちなみに今夜の入浴剤は“薔薇”…だ。

 みこりんがあんまり心配してなさそうだったので、ふいに悶絶し、湯にぶくぶくと沈んでみることにした。温かな湯を通して、みこりんの私を呼ぶ声が数回聞こえた。さらに後頭部をぺしぺしと数回ノックされたのだが、反応はここまでだった。なおも水中で耳を澄ましていると、みこりんが一人で遊んでいるらしい音がする。すぐそばで私がうつぶせに沈んでいるというのに、全然平気なのか。以前なら、もっとしつこくしつこく私を起こそうと躍起になってくれたものだが。
 そろそろ息が苦しくなってきたので浮上する。みこりんは何事もなかったかのように、オモチャのカップにお湯を注いで私に手渡してくれた。

 その後、3回ほど悶絶をやり直し、湯にも沈み直したのだが、やはりみこりんはいたって平静を保ち続けたのだった。ハナからこれが私の芝居であることを見抜いているのだろう。私が説明口調で指先のミミズ腫れが原因で死にそうなのだと訴えても、やはり相手にしてもらえない。みこりん的には、このミミズ腫れの原因は入浴剤の色素であると結論付けられてしまっていて、もはやどんな状況説明も無意味なものと化しているのだろう。
 これが成長というものか。少々寂しくもあり…、複雑な思いを胸に、湯に浸かり直すのだった。


2001.5.11(Fri)

『ひめねずみのみーま』

 『ひめねずみのみーま』(作 白石 久美子)という絵本がある。これにみこりんはすっかり夢中だ。ネズミが主役というだけでもポイント高いところに、木イチゴを取りに行くという、木イチゴ好きのみこりんにはまさにあつらえたかのような話の展開。さらにヘビイチゴまで登場するので、少々恐いくらいである。どうしてこうもみこりんを鷲掴みにするようなネタを、これでもかと詰め込んでくれるのか。
 以前みこりんがハマっていた『14匹のあさごはん』という絵本でも、ネズミが朝ご飯用に木イチゴを摘みに行くお話だった。もしやネズミに木イチゴっていうのは、ウサギにニンジン、リスにドングリ、ラッコに貝、などと同じくらいには定番なのかな?

 ところで『ひめねずみのみーま』には、みーまの他に、“もぐり”という男の子が登場する(みーまは女の子)。その男の子は、ヒメネズミではなく、カワネズミとして描かれているのだが、このカワネズミなる動物を私は知らなかった。小さいころから動物図鑑やら昆虫図鑑を読むのが大好きだった私にとって、この事実はかなり意外でもあった。いったいカワネズミってどんな生き物なのだろう。絵本では、川の中を自在に泳ぐ、少し鼻の尖った生物として描かれている。その姿には、まるで覚えがなかった。

 困ったときのサーチエンジン。というわけで、カワネズミ発見。

 ヒメネズミとは生息域が近いらしい(渓流付近、森林地帯など)。しかもヒメネズミは日本固有種。ということは絵本の舞台は日本ということになる。なぜかヨーロッパあたりの森林地帯を想像してたので、少々意外。この絵本には続編がありそうな気もするのだが、発見できていない。“みーま”と“もぐり”のその後が気になるところである。


2001.5.12(Sat)

メタルラック登場

 玄関脇に3本並んでいるゴールドクレストを剪定した。6年前ほど前に小さな鉢植えで買ってきたときには、高さ15cmほどのいかにも寄せ植えに似合いそうな可愛いサイズだったが、それがいまでは私よりも大きくなってしまっている。当時、かなり間隔を空けて植えたつもりだったが、それでも不十分らしい。込み入った下枝をカットしても、隣りと触れ合う枝葉は少々窮屈そうだ。
 ところで通勤途中に気になる庭がある。気になっているのは道路との境界線に植えられているゴールドクレストの幼苗で、全部で6本くらい並んでいた。まだ高さは15cmほどなのだが、その植わっている間隔が、今でもちょっとそれは狭すぎないかなと思うほどなのだった。あと5年もすれば、びっちりと詰まってしまうのではないだろうか。それではせっかくの美しい樹形が台無しのような気もするのだが、もしかすると生け垣などでよく見られる箱形に整えられた緑の壁を、ゴールドクレストで目指しているのかもしれない。それはそれで斬新かも……特に今の季節は、新芽が素晴らしい色彩になることだし。

 さて、剪定した枝は、ハリエンジュの根元に並べておいた。このハリエンジュもゴールドクレスト以上の生長力を見せてくれていたのだが、今年はなんだか様子がおかしい。新芽が数えるほどしか見られず、ほとんど枯れ木のような印象である。だが地下茎で増殖した方の2本は、それとは対照的に葉っぱもよく茂り、早くも花が咲きつつあった。不思議なのはその花色だ。何故に白なのか。親木は桃色の花を咲かせるというのに。……桃色というのは固定されている花色ではないのだろうか。あるいは、接ぎ木苗だったんだろうか。植えたときにはそう見えなかったけれども。
 いずれにしてもこのままでは、みこりんの誕生記念樹であるモモイロニセアカシア(ハリエンジュ)は消滅し、普通種だけになってしまう。な、なんとかせねば。

 *

 午後、買い物から戻ってきたLicが、大きな段ボール箱をクルマから降ろしている。“メタルラック”の到着であった。ワーディアンケース(室内温室)を2階に移動させたので、サンルームには現在、棚がまったくない。そこで“メタルラック”の登場となったのであった。
 メタルラックの棚は全部で5つ。高さ1m50cm、幅60cm、奥行き30cmといった具合。ワーディアンケースよりも一回り小さいが、昨年多くのセントポーリアを溶かしてしまったのでこれでも十分余裕がある。
 組み立て用にドライバーなど工具箱から引っ張り出してきたのだが、なんとこいつには工具の類は不要なのだった(唯一、オプションで装着可能なキャスターを取り付ける場合に、付属のレンチを使うくらい)。支柱となる4本の丸い金属棒に、棚をつけたい高さに合わせて小さな部品を取り付ければOK。これが棚を支える留め具となるわけだが、その構造はじつにシンプルで驚かされる。
 単5の乾電池くらいの円筒形をしていて、縦半分に分割可能となっており、それで丸い支柱を挟み込むように取り付けるのである。円筒の直径が、下のほうが若干広くなっているのがポイントだ。
 これを4本すべての支柱にセットしたあと、上から棚板を穴にそって滑り降ろす。棚板の四隅には、支柱を通す穴が開いていて、この穴の直径がさきほどの円筒部品の上側よりは大きく、下側よりは小さくなっているのだった。つまり、円筒部品のところで棚板はすっぽりとはまりこみ、身動きとれない状態になる。
 ネジを使わない棚板の固定方法としては、おそろしく単純で効果的だ。

 無事完成したメタルラックに、これまで部屋の中で保護していたストレプトカーパスを乗っけてやる。こんがらがった茎が、鉢よりも長く長く下に垂れ下がっていて、しかも折れやすいとあって安定させるのには苦労した。つい力が入りすぎて犠牲になった枝も5本6本7本…。あとは生き残りのセントポーリア2鉢に、例の玉の植物2鉢、子玉の鉢1つで終了。以前ワーディアンケースを置いていたときよりも、ずいぶんすっきりとコンパクトにまとまった感じがする。サンルームにそれほど圧迫感がない。メタルラックが基本的に丸く細い金属棒で構成されているのが、開放感につながっているのかも。値段もほどほどに安いし、もっと活用できそうな気がしてきた。

理想の歯医者

 床屋以上に苦手なものが1つある。それは歯医者だ。もちろん歯科医師が苦手なのではなく、歯の治療が苦手という意味である。
 苦手といっても、ドリルの音とか痛みとか薬品のニオイとかがダメなのではない。むしろ痛みには強いほうだと思う。では何がいけないかといえば、“口の中が敏感すぎる”ことによる、こみあげてくる“気持ち悪さ”に尽きる。痛みは耐えることが出来るが、この“気持ち悪さ”だけはどうにもならない。だからできることなら虫歯を抱えたままでも、だましだまし寿命が尽きるまでいこうかと思っていたが、最近は頭痛も伴うようになってきてしまったのでついに治療を決意した。昔、虫歯の毒が脳にまわると死ぬとか聞いたような気がするのだ(ほんとかどうかはわからないけど)。

 以前なら、歯医者に予約を入れた時から緊張しっぱなしで、飯もろくに喉を通らなかったものだが、今回はそういうこともなく当日を迎えることが出来た。幸先はいい。1時間前、念のために酔い止めの薬を規定量の1.5倍服用する。そして10分前、愛用の水筒を持参して、クルマに乗り込み、エンジンキーを回した。そのとき、唐突にそいつはやってきた。猛烈な吐き気だ。何十年にわたって蓄積された条件反射は、やはり侮りがたし。それでもなんとかクルマを乗り付け、深く深く深く深呼吸を繰り返す。
 多少落ち着いてきたので受け付けを済ませ、待合室のソファに深く腰を埋める。他に患者は一人きり。なんという幸運。人混みでごった返す歯医者の待合室ほど気分の滅入るものはなかったが、今回はそれがないのだ。しかもその一人の患者というのが、老若男女の組み合わせでいうところの最良のカード“若”&“女”、しかもけっこう可愛いというのがますます高得点である。これがやかましく駆けずり回るガキんちょであったなら、これほど気を鎮めることはできなかったにちがいない。「今日はいけるかもしれない…」思わずそう呟きそうになった。

 やがて名前を呼ばれた。シーンと静まりかえった治療室には、椅子が4つ並んでいた。照明は適度に落とされ、向かいの大きな窓の向こうは深い山の緑が広がっている。これまでで最高のロケーションだ。さきほど待合室にいた女性も、同時に治療が施されるらしい。しかしここのパーティションは素晴らしく、隣に誰がいようと気にする必要はなかった。か、完璧だ。このような歯医者にもっと以前から出会えていたら…。いや、もはや何も言うまい。今、ここにこうしていられる事実を有り難く受け入れるのだ。

 椅子に寄りかかるように乗り込むと、背もたれがゆるやかに倒されて、看護婦さん(歯科衛生士かも)による簡単なチェックが始まった。例のミラーが口の中に入ってきたところで、さすがに悪夢が蘇り、少々タイムを要請せねばならなかったものの、30分ほどで復活(以前ならば二度と復活はあり得ないところなのだが)、酔い止め薬も効き始め、かなりハイ状態になってゆく。こうなってしまえばもはや何の心配もない。あとの治療は夢のように終わった。
 これから何回か通うことになったが、ここならば大丈夫なような気がする。たとえそれが、もっとも危険な奥の奥の奥歯の治療であっても。


2001.5.13(Sun)

不快害虫発生前夜

 日がな一日、庭で土と戯れて過ごす。この季節はなんといっても蚊が出ないのがいい。唯一気を付けねばならないのが、桜やプラムの木にくっついている毛虫だが、滅多には降ってこないので昼間はそれほど気にしなくても問題ない。ただし夜は別だ。真っ暗闇だとうっかり触れてしまったり、糸を垂らしてぶら下がってるところに突撃してしまう危険がある。実際、夜のナメクジチェックのときには少なからず触ってしまって痒い思いを味わった。あやうく顔面に貼り付けてしまうそうになった危機もあった。だが昼間の彼らはたいした脅威ではない。

 午後、母の日のプレゼントを物色しに出かけた帰り、久々に園芸専門店に立ち寄ってみた。市民農園に植えるサツマイモの苗を探してのことだったが、さすがに専門店だけあって紫芋の苗が2種類ほど置いてあった。さっそく1ポット買い物カゴにキープする。これで秋にはみこりんと一緒に芋掘りを楽しむことが出来るだろう。
 Licがどうしてもサトウキビの苗が欲しいというので、これもカゴへ。たしかこれってかなりでかくなったような記憶があるのだが、畑に1本だけサトウキビがすくすくと育つ図というのもなかなか愉快でいいかもしれない。
 モロヘイヤの苗が安かったのでコレも1ポットキープ。この夏は自家製のモロヘイヤスープを堪能しよう。あとはついに発芽しなかったキンレンカ(ナスタチウム)と百日草の苗を2ポットずつ。みこりんがまだずっと小さかったころ、庭で育てていたキンレンカの花と葉っぱなどを使ったサラダが夕飯に登場したことがある。鮮やかな花色がたいそう好評だったものだが(でも葉っぱはスパイシーすぎたみたいだったが)、4歳を目前にした現在、ふたたびキンレンカサラダを食べさせてみたいと思う。どんな感想が聞けるのか興味津々(1999年当時のみこりんのキンレンカ初体験の様子)。

 ゴーギャンのひまわり発芽!がしかし、なんか数が随分足りないような?数えてみると、半分ほどしか双葉が確認できなかった。あとのは発芽に失敗したのだろうか……と思って丹念に土を観察してみたところ、理由が判明。ナメゴンだ。やつらは発芽したての若芽を食ってしまったらしい。残ったのは小さく棒のように突きだした茎ばかり。やられた…、残りが無事大きくなってくれますように。


2001.5.14(Mon)

黒いゾウムシ

 昨夜遅く、久しぶりにみこりんが発熱してしまったので、今日は一日休暇をとることにした。幸か不幸か、みこりんの体温は朝には微熱程度に下がっていたので、おとなしく寝ているはずもなく、ちょっと目を離すとすぐに起き出してくる。無理もあるまい。なにしろ今朝の陽気は“死体”でも目覚めそうなくらいに爽快なのだ。しばらく庭でも散策してみるとしよう。

 みこりんが気になっているのはサクランボ。枝垂れ桜の実がはたして美味いのかどうかはわからないのだが、今年はたくさん花が咲いたので、そこかしこに小さな青い実が成っているのだった。そのうちの1つに、みこりんが手を伸ばす。もう少しで手が届く…その時、私はヤツの存在に気がついた。そっとみこりんの手を押さえ、指さして見せる。数センチ上の葉っぱの裏には、毛虫が貼り付いていたのだ。

 サクランボへの通路(というか空間)の安全を確保すべく、割り箸片手に毛虫退治。こうやって目に付いたときにやっておくのが肝要だ。それにしてもこの毛虫に天敵はいないのか。彼らが捕食されているのは見たことがない。ヤマアラシのごとく全身を覆った無数の針には、鳥もトカゲも蜂も太刀打ちできないのかもしれない。
 数分後、ひととおりの安全を確保したと思われるので、みこりんにサクランボへのタッチを許可してやる。そぉっと小さな玉に触れるみこりん。強くやったらたちまち落果してしまうのを知っているかのよう(たぶん何度か失敗したにちがいあるまい)。おいしく熟れますように。

 枝垂れ桜の向かいには、ラティスに絡んだ木イチゴがある。だいぶ蕾も大きくなってきていて、その数も昨年とは比較にならないくらい多い(昨年はわずかに3個だった)。全部で何個あるかな〜と、みこりんと共に数えていると、くたっと首を折るように萎れたヤツを発見。その萎れ方には見覚えがあった。つい最近、バラの蕾もこうして突然萎れてしまっていたのだ。折れ曲がった花茎には、螺旋状に小さな針で突いたような穴が連続的に開いており、まるでゴムのようにぐにゃぐにゃになってしまっていた。
 萎れた木イチゴの蕾にも、同じように無数の螺旋状の穴が開いている。同一犯の仕業である可能性は非常に高い。

 バラに穴を開けていたのは小さなゾウムシだった。米粒よりも小さく、黒光りするメタリックな外観をもったその虫には、ゾウムシの特徴である長い口先があって、そいつを茎に差し込み汁をすすっていたのだ。しかも2匹、仲良く寄り添うように。おそらく彼らはペアなのだろう。だからその時には見逃してやった。私は甲虫にはかなり甘い。
 だが、木イチゴの被害は予想以上に深刻だった。このまま放置すれば今年の収穫は絶望的かと思われるほどにやられてしまっていた。やはりやるしかない。みこりんにゾウムシの姿を説明し、二人で捜索を開始する。

 やがてみこりんが“発見”を伝えてきた。確認する。体長1mm、黒光りする甲虫……だが、そいつはゾウムシではなかった。みこりんに再度ゾウムシの特徴である“長い鼻先”のことを教えてやった。
 必ずここに彼らはいる。なぜかそんな確信があった。

 ついに見つけた。萎れた花茎に吸い付いているところを捕獲。そのまま土に“還して”やった。残るは1匹。みこりんそろそろ飽きてきたらしい。ゾウムシ捜索より、アリさんを捕まえるのに集中しだした。
 ほどなくもう1匹も発見。同様に処置をする。
 それにしても、どうして彼らは蕾を枯らすほどに穴を開けてしまうのだろう。まるでミシンで縫い込んだかのように立て続けに穴を開ける必要があるんだろうか。もっと植物と共生する道もありそうなものだが。

 午後、みこりんと昼寝。あまりの心地よさに、ついうっかり一緒になって寝入ってしまい、気がついたときには夜だった。明日はちゃんと水槽の水換えしなくちゃ。


2001.5.15(Tue)

まーぜてまーぜて

 本日も休暇。木曜日にはみこりん待望の遠足が控えているので、無理はさせられない。
 ところで今朝みこりんにLicが着せてやった洋服は、カントリー調のめちゃめちゃプリティなものだった。ぱっと見には、とても風邪ひいてるとは思えない。

 昨日やる予定だった海水魚水槽の水換えを始める。まずは残り少ない人工海水の素をバケツに移して、と。さらさらの白い粉がバケツ一杯に溜まるのを見て、みこりんも「しお、ほしい。みこりんもしおつかいたい」と主張しはじめてしまった。なんでも真似したがる年頃だ。妥協案の庭のサラ粉土をママゴトに使ってもよいというのも拒否されてしまったので、いったん水換え作業を中断して、みこりんと共にプリンを作ることにする。あれも一応粉使うし。案の定、これにはみこりん、即座に賛同してくれたのだった。

 ふりひらエプロンを装着したみこりんは、ますます風邪っぴきには見えなくなった。なんだかエプロンドレスのような感じ。
 カスタードプリンは、みこりんの協力もあり、あっというまに出来上がり。思ったよりも上手に卵を割るし、シェイクしてくれた。なかなか鍛え甲斐がある。

 夕方、おやつの時間を少し過ぎて冷やしておいたプリンを食す。食後、電池が切れたようにみこりん爆睡。この分だと、明日にはすっかり元気になってることだろう。


2001.5.16(Wed)

HTMLによる報告書

 2年ほどまえから、社内向けの報告書の類はHTMLで作成している。こういった文書類は自グループのWebサイトで公開することになっているので、いちいち変換しなくてもそのまま使えるという利点は大きい。HTMLの利便性については、説明の必要もないことと思う。もはやワープロは他人の文書を閲覧するためだけに残してあるような状況だ。
 とはいえまだまだワープロ派のほうが圧倒的なのだけれど。

 今朝出社してみると、先日の出張報告がコメントとともに返信されてきていた。そこには、HTMLで作成した報告書を、社内で受け入れやすくするためには点検&承認のためのツールが必要なのではないかとの指摘が記されていたのだった。いうまでもなくHTMLで記述されたファイルはただのテキストファイルなので、エディタで該当部分に氏名を入力してもらえればそれで“仕舞い”なのだが、やはりそれなりのツールを用いた方が間違いもないし、社内受けもいいだろうという理屈はよくわかる。私自身もいずれはそういうツールを作ろうと思っていたので、少々予定を切り上げて、午後さっそくプロトタイプを作成してみた。今はまだ、ただの点検承認だけの機能しかないが、点検承認者の認証とか、電子署名などの文書改ざんチェック機能、ワークフローへの対応(点検終了時、承認者へメッセージ通達とか、経過保存など)とか、必要な機能はいろいろある。暇を見つけておいおい追加していくこととしよう。


2001.5.17(Thr)

バスの悪夢

 みこりん待望の遠足の日である。いつもは着替えるのも10分以上かかったりしてるのに、今日は何も言わなくても、いつもは履かない靴下まできっちり履いて、半分以下の時間で着替えを完了してた。
 目的地まではバス。もしこれが電車とかならば、例年参加しているLicのかわりに私が行きたいところだが、バスではなぁ。

 どうしてバスがダメなのかと言えば、たぶんあの狭さに原因がある。まだ私が小さかった頃、地区の行事で海水浴に行ったのだが、その移動手段がバスだった。田舎のことゆえ豪華なサロンバスなどではなく、いわゆる普通のバスで、しかもぎゅう詰め、補助座席全開、まったく身動きとれないほどの窮屈さであった。もはやどこにも逃げられない圧迫感が、ひしひしと全身を覆い……、そして私は盛大に酔った。

 以来、バスに乗るたび、あの時の光景がフラッシュバックしてしまうのである。
 でもひょっとすると最近の観光バスというやつは進化しているのかもしれない。そう思うことはある。一度確認してみるべきなのかも。


2001.5.18(Fri)

『完璧な防壁』突破される

 入念にネットの“穴”の存在をチェックしたが、特に不審な部分は見つからず。だが、ヤツは侵入した。どこかに抜け道があることは間違いない。

 今回の被害は、花壇のもっとも軟らかい部分だった。猫はトイレのあと、土を大きく掘り起こし、山に盛る。あやうくヒナゲシの苗達も巻き添えを食ってしまうところだったが、幸い花苗に影響はなかった。しかし、いい具合に土中微生物の繁殖した“最良の土”は、かなり広範囲に廃棄となる。猫の糞尿で一度でも汚染された土は、二度と使えない。花への被害より、むしろ土が使えなくなることのほうが深刻だ。ここまで土を作るのには年単位の時間がかかっている。おそらく飼い猫を放し飼いにして平気な人は、ここのところが分かっていないのだろう。まさに無知は罪である。

 夜、懐中電灯片手に猫糞チェック。やはりあった。やつらは『完璧な防壁』の突破ルートを確立したようである。味をしめた猫共は、明日も、明後日も、そのまた次の日も、押し寄せることだろう。以前の悪夢のような日々が一瞬脳裏によぎった。
 とにかく突破ルートを見つけだすのが先決だ。そこさえ塞げば安心できる。以前とは違うのだ。

 改めて突破ルートの調査をしてみた結果、その可能性がありそうな箇所を3箇所ほど見つけだすことが出来た。
 1つは南から西にかけてのフェンスの下だ。もちろんそこにはネットが張られているのだが、アンカーで下側を固定してる間隔はそれほど密ではない。猫がその気で体当たりすれば、なんとか隙間を空けることができるかもしれない。
 もう1つはアーチの扉の上だ。高さ1.3m。もしかするとここを飛び越えたのかもしれない。
 最後の1つが東の崖方面へと続く空間だ。我が家の敷地は、その下側よりも3m以上高い位置にある。これまで菜園1号2号には、『完璧な防壁』とは別にネットで囲っていたのだが、崖方面だけは開けていた。それでも一度も侵入されたことはなかったため、今回もこちらには手をつけていなかった。もしかすると新たなルートを構築した猫がいるのかもしれない。

 原因追及のためには1つ1つ潰していくのが確実だ。まずはもっとも可能性のありそうなフェンス下の補強を、明日さっそくやっておこうと思う。

白い糸

 ふと目の端になにか白い影が走ったので顔を上げると、顔面20cmほどの至近距離に細長い白い糸のようなものが横切っていた。長さにして30cmほど。蜘蛛の糸よりも太い…と思った瞬間、そいつは“ふわっ”と顔に貼り付いていた。

 明らかに異物が付着した感触があったというのに、手でいくら触ってみても、なにもない。まるでその瞬間、糸が消失してしまったかのようだ。
 仕事場は100人以上が机を並べるだだっ広いオフィスであり、もちろん禁煙。この場所を含め、過去に類似の現象に遭遇したことは一度もなかった。
 いったいアレは何だったのか…。


2001.5.19(Sat)

『完璧な防壁』第一次改修

 午前3時起床。外はまだ真っ暗闇だ。雑用など片づけているうちに、やがて白々と夜明けがやってきた。さっそく庭のチェックを開始する。幸い、猫どもの荒らした形跡はなかった。だが油断は禁物だ。『完璧な防壁』の“穴”を塞ぐべく、すぐさま作業に取りかかる。

 フェンス下の“ネット押さえ”について、昨日Licから有用な案が提示されていた。その案とは、園芸用の金属製の支柱を使って、フェンス基礎部のコンクリートとの間に、ネットを挟み込めばよいというものだった。これならばアンカーを使った“点”による固定ではなく、“線”で押さえることができるため、“穴”は開きにくいのではないか。しかも材料を新規に調達せずとも、我が家のストック分で事足りる。フェンスは1.5m間隔くらいで基礎部に固定されているため、この固定部部の間に園芸用支柱を横に渡して縛り付ければ、目的は達せられるだろう。ネットと園芸用支柱との接合は、布に糸を縫いつけるように、互い違いに園芸用支柱を通していけばいい。

 一通り頭の中でシミュレーションを繰り返してみてから、実行に移す。ふむふむ、結構簡単にできそうな感じ。1箇所終わったところで、試しに外側から押してみる。…び、びくともしない。アンカーだけの部分とは比較にならない強靱さだ。さらに体重をかけて本格的に「ぐぐっ」とやってみても、少したわむくらいで猫がくぐれそうな隙間はできず。うむ、よろしい。

 順調に作業は進んでいたが、結び目ができるあたりに木とか花とかが植わっていると、作業能率は極端に低下してしまった。植物を痛めないように、限界まで手をのばして紐を結ぼうとするものだから、腕とか腰のあたりが攣りそうになってしまうのだ。だんだん植物のことにも構っていられなくなってくる。
 途中、みこりんとLicを保育園に送っていくため作業を中断。それにしても“親子遠足”に“参観日(ウォークラリー含む)”と、同じ週にイベントを2つも持ってくるとは、なかなか保育園も忙しいらしい。

 結局、午前中いっぱいかけてフェンス下の補強は完了した。
 これでしばらく様子見だ。これでもなお突破されるようなら、別の可能性を潰していけばよい。

芋虫コロニー

 桜の枝に、蜘蛛の巣がからみついたようにところどころ固まりになっているのを見つけた。その糸に無数の小さな黒い点々が付着しているのを知り、いやな予感がする。糸でからまった箇所に沿って、視線をつつーっと枝の根元まで移動してゆくと、はたしてそこには予想通りの生物群があった。
 蠢く無数の芋虫たち。私のもっとも苦手とするもの。思わず後ずさりしそうになるが、このまま放っておくのはもっと恐い。しかしどうする。枝の先に奴らが固まってれば、火炎放射で一気に殲滅することもたやすいが、これだけ幹に近いとそんな技は使えそうにない。殺虫剤を使うと木の下でたわわに実を付けている苺に被害が及ぶ。…やはり捕殺しかないのか。この数十、いや、ひょっとすると100を超えるかもしれない芋虫どもを、一匹残らず捕まえるしかないのか。

 さらに問題がある。芋虫コロニーに接近するには、例の毛虫どもをなんとかしなければならない。ぱっと見ただけでも、あちらこちらに潜んでいるようだ。まずは毛虫から撤去しよう。
 Licとみこりんも加わって、6つの目で毛虫を探す。どうせならこの際、目に付くやつはすべてとってしまおうと考えていた。苺をとるために、みこりんが木の下に入り込むことも多くなってくるので、その予防も兼ねてだ。

 毛虫はただでさえ輪郭がぼんやりとあいまいなのに、体表に描かれた模様が絶妙の迷彩色となって、発見はなかなか難しい。葉っぱにいるやつはまだしも、枝にとまってるやつは目の前にいてもすぐにはそれと気がつかないほどである。こういうとき、みこりんの低い目線は役に立つ。我々の気がつきにくいポイントを、うまいぐあいにカバーしてくれていた。

 ビニール袋一杯に毛虫が捕れた。いちいち殺していては気色悪いし時間もかかるので、こうして袋に詰めることにしたのだが、やつらはすぐに上ってこようとするので気が抜けない。捕まえるのと、袋を持つのと、二人で分担するのが最良だ。

 こうしてあらかた毛虫を撤去したあと、ようやく本命の芋虫コロニーへと接近する。近くでみると、毛がないだけにやけに生々しく軟らかそうで、毛虫よりも“恐い”。とにかく割り箸で蜘蛛の巣状の糸をとっぱらおう。それから1匹残らず袋詰めだ。
 そう思って綿飴を割り箸でとるような感じにくるくる糸を巻いていると、糸にからまって芋虫たちも一網打尽に出来てしまった。コロニーを形成するという彼らの性質のおかげらしい。
 コロニーは結局2つあった。だが、いずれも糸で丸めてあっさりと捕獲することができた。Licが言う。毛虫も、こうなってた時に捕まえておけば…と。そう、毛虫もやはり孵化直後からしばらくはこうしてコロニーで生活する。たしか去年はそういうコロニーごと撤去して事なきを得たのだ。来年忘れないようにカレンダーにメモっておこう。

庭にいたもの

 アーチを抜けて、玄関に向かっていると、地面の上を「しゅるるるるっ」と何かが横切っていった。細くて黄土色したもの。かなり速い。カナヘビ君にしては、サイズが大きい。長さにして20cmくらいはあったような気がする。
 そいつが逃げ込んだのは門柱の脇で、植木鉢を積み上げておいた場所。そぉっと近より、上から覗き込むと……ナースのように金色っぽいヘビが、小さな鎌首をもたげてこちらをじっと見上げているのがわかった。
 ヘビが庭にいる。しかもベビーサイズ。漠然と、こんな情景に憧れていた。それがいま、現実に。

 Licとみこりんを呼ぶ。二人は今日のウォークラリーの道中、山の中でヘビを見たとか言っていた。本日2匹目のヘビということになる。
 みこりんは庭のヘビを見て「かわいい!」と言った。よしよしそうこなくては。それにしてもこのヘビ、なんていう種類だろう。記憶にあるシマヘビとはかなり模様が違うし、アオダイショウとも違うような……。マムシの姿を必死に思い出そうとしたが、焼酎漬けになってるものしか記憶になくて照合できず。こいつは要確認だ。

1つ消えた

 今日も夕方から歯の治療。酔い止め薬が効き始めるまで1時間半かかることが前回確認できたので、今回は最初から不安はまったくなかった。

 以前からみこりんに指摘されていた前歯の黒い染みを、きれいさっぱり落としてもらったので、帰宅してからみこりんに「いー」して見せびらかしてやった。はじめきょとんと見ていたみこりんだったが、やがて「みがいてもらったの!」とうれしそうに言ってくれた。これでみこりんの心配ごとの1つは消えたことになる。あとはサクランボさえ大きくなってくれれば…


2001.5.20(Sun)

初夏のよう

 市民農園にポット苗の定植に行くつもりだったのだが、Licが寝込んでしまったので来週にまわす。当面の処置としてジフィーポットやプラグトレイで大きくなりすぎたやつを、ポリポットに移植した。ついでに、こぼれ種で発芽していたトマトもポリポットへ移す。双葉がどうみても3本あるやつは、たぶん“カゴメ77”。それ以外のは黄色いレモンボーイ。トマトはこうしてこぼれ種でいくらでも出てくるが、シシトウやらナスやらが発芽してるのは見たことがない。そういうものなんだろうか。

 そうやって作業してるそばでは、みこりんが遊んでいたはずなのだが、さっきから妙に静かになったような気がする。一区切りついたところで、ふっと顔を上げると、こんなことになっていたのだった。

バケツ風呂でくつろぐみこりん

バケツ風呂でくつろぐみこりん

 涼しそうだ…
 今日は暑い。気温30度を少し上回ったところ。

 盛大に色づいたイチゴを収穫。美味そうなヤツだと思ってつかみ上げると、裏側の穴からミミズがうねりながら出てきたのには、かなりビビる。

 菜園2号にニンジン、太葱、大根の種をまいた。ダンゴムシが大量に蠢いている。それをみこりんがせっせと捕まえては、虫かごに入れていた。触っても大丈夫なムシは、いまのところダンゴムシ、アリ、イモムシ…なぜか大好きなバッタやテントウムシには触れないらしい。摩訶不思議。


2001.5.21(Mon)

変わった洋服を来た動物の話

栗のイガにくるまれたちゅーちゃん 朝、こんな動物が表紙に載った冊子を読んでいたところ、それを指差したみこりんが重大な秘密を打ち明けるような口調で、こういった。

 「ちくちくのなかに、ちゅーちゃんがはいっとる」

 “ちくちく”とは、栗のイガのことである。「かおのところを、こうやってちょきちょきして、ちくちくにはいってるんだよ」と、さらにみこりんは熱く語ってくれたのだった。そう言われてみると、そんなふうに見えなくもない。みこりんはすっかりこれが栗のイガを身に纏ったネズミだと信じて疑っていないようだ。面白いのでしばらく話を合わすことにする。

 “栗のイガを着ている”という想像は、みこりんの好奇心をいたく刺激したらしく、我が家で飼っているジャンガリアンハムスターの“ことりさん”やら猫の“にゃんちくん”にも着せてあげたらどうだろうという話題にまで及んだ。例の顔を出す部分の切り方まで、身振りを交えて細かく指定する念の入れようだった。
 そんなみこりんに、動物園で“ハリネズミ”を見せてやったらいったいどんな反応を示すのか、じつに興味深い。

肉団子を作ってみた

 高熱で寝込んでいるLicのために、夕食は肉団子スープを作ってみることにした。ニンジン、タマネギ、キャベツをベースとして肉団子を加え、コンソメで味付けしたのち、春雨を加えるというレシピは、学生時代からほとんど変わっていない。ただ今回は、団子に少し工夫がいった。

 いつもはすでに団子に丸めてあって、あとは煮るなり焼くなりするだけでOKな既製品を買ってくるのだが、今日に限ってスーパーの陳列棚に該当商品を見つけることが出来なかった。仕方がないので、豚&牛の合い挽き肉を購入。自力で団子に加工することに。
 冷蔵庫に消費期限が今日になってるササミが残っていたのを思い出し、そいつも粗挽き状態に包丁で刻んで、団子に混ぜてみることにした。3種類の肉の食感と味が、どんな具合に溶け合うのか期待したい。

 鍋でことこと煮ること40分。いざ、実食。
 ……か、固い…。やはりつなぎにはパン粉と卵だけでなく、炒めたタマネギを混入すべきだったか。次回試してみよう。


2001.5.22(Tue)

『完璧な防壁』第二次改修

 本日も休業。リビングでくつろいでいたところ、ガラス戸の向こうに信じられないものを発見。猫だ。ありえない光景に、一瞬思考回路がパニックしかけたが、即座に回復。庭へと駆け下りていた。

 猫は2匹いた。どれも同じような毛並み。たぶん今年生まれた若猫だろう。体格はそれほどデブってはいなかった。猫は私の姿に驚き、北側へと逃げていった。だがそちらのネットは完璧だ。何度か体当たりを食らわせていたが、びくともせず。ペット用ゲージで補強したネットを、猫ごときが突破できるものではない。
 やがて1匹がUターンして戻ってきた。私は靴下のまま庭を走り、猫の逃走経路の確認に移る。第一次改修を終えた『完璧な防壁』の、いったいどこに穴があるのか、それを知ることが最優先事項である。

 猫はまっすぐアーチに向かっていった。そして、助走スピードを殺すことなく素晴らしい跳躍で、扉とアーチとの間を抜けた。やはりそうか。130cmという高さは、猫にとっては障害物とはなり得ないようだ。それを確認すると、残りの1匹を追い払いに北側へと戻る。やつらをとっとと追い出し、さらなる改修を加えなければ。
 2匹目の猫も、同じ経路をたどって一目散に逃げていった。これでどこを塞げばよいのか明白になった。

 改修を始める前に、花壇への被害をチェックする。花も盛りのミニバラ“オーバーナイトセンセーション”の根本が大きくえぐられ、糞が埋まっていた。根が露出するほどの穴だ。大事に至らねば良いが。
 菜園のほうでタマネギが4本、大根1本が、なぎ倒されていた。ゆ、ゆるさん…。さっきのやつをただで追い払ったのを少々後悔する。

 とにかく第二次改修作業を進めよう。今日やっておかねば、やつらは明日も明後日もそのまた次の日も、庭を荒らしにやってくる。
 改修内容はこうだ。扉の高さよりもやや低めに金属支柱を1本横にわたす。そして、そこから上をすべてネットで覆うのだ。こうすることで他の部分と同じく、アーチのところにも高さ2mの遮蔽ネットが出来上がる。欠点は扉をくぐるときに、いちいち屈まないと頭をぶつけてしまうこと。できれば、扉そのものに遮蔽用のネットを付加したいところだが、緊急のため当面はこれでいくことにする。

 結局、午後いっぱいその作業におわれてしまったが、これで先日の改修ポイントの2つ目までを完了したことになる。これで再び様子を見よう。3つ目のポイントは、昨年まで崖下に犬が飼われていたので、これまで猫が近寄ることはなかった箇所だ。しかし今は隣家が空き屋となり、犬も消えた。今年生まれの仔猫にとっては、犬の脅威は最初から存在しない。突破されるのも時間の問題のような気がする。早めに手を打っておいた方がいいのかもしれない。

ぎゃらんどぅ

 夕方、みこりんを迎えに保育園に行く。再び降り始めた雨のため、ほとんどの子供は、未満児クラスの部屋で遊んでいた。わらわらと駆け回っている子供らの中に、みこりんの姿を見つけた私は、声をかけようとテラスにあがる。……って、「うわぁ!」

 踏み出した脚に、さっきからテラスで友達数人と遊んでいた女の子たちが突然まとわりついてきたのだった。どうやら私の格好がまずかったらしい。この日はバミューダをはいていたのだが、それが彼女達のツボにはまったようである。
 いつもみこりんがやってるように、両手で脚にかきつきぶら下がる。お、重い…。みこりんと遊ぶのと同じ要領で、私もそのままの状態で歩を進めてやる。

 ず、ずるずる…ずるずるずる。

 どうにか部屋の入り口まで到着。みこりんを呼ぶ。
 ふっと足元を見ると、一人の子が「はむぅ」とむしゃぶりついているのがわかった。くくく、くすぐったい。きっと家ではこの子もお父さん相手にこうやって遊んでもらってるんだろうなぁ。それにしても“大人の半ズボン”がこれほど受けるとは意外だった。やはりスネ毛に興味を惹かれるんだろうか。なかなか頼もしいことである。


2001.5.23(Wed)

雑感

 今日は出勤。でもみこりんを受け取りに行かねばならないので、4時あがり。裁量労働制だったらこんな面倒な思いをしなくてもいいのに…
 雨は降り止まず。肌寒い日が続いている。

 決断すべき立場の人が、きちんとその責任を果たさず漫然と事なかれ主義で来てしまうことがあまりに多すぎた。だから今夜の“決断”には、久々に震えが来るほど心地よかったことを、ここに記す。


2001.5.24(Thr)

水生昆虫

 午後から休暇。ようやく雨があがりそうな気配を感じつつ、ひとしきり昼寝を楽しむ。
 夕方、みこりんを迎えに保育園へ。私の姿を見つけて駆けてくるみこりんの手には、紙コップのようなものが大事そうに握られていた。「何が入ってるの?」と覗き込むと、そこには泥水の中、アメンボが1匹、半分沈みかけた状態で浮いていたのだった。

 家につくなり、みこりんはアメンボの新居を要求した。それならばぴったりの場所がある。と、みこりんを庭へと誘い、その場所へと案内する。去年までメダカを飼っていた睡蓮鉢が、ちょうどいま、空いているのだ。ここならば泥水ごと移してもまったく問題はない。アメンボにとっても、元気になったらいつでも飛んでいけるので好都合ではなかろうか。みこりんは少しだけ考えていたようだったが、すぐにOKしてくれた。そして投入。ざばっと泥水ごとアメンボは睡蓮鉢に没していった。

 どうやらアメンボは脚を一本失っているようで、浮力が十分には得られないらしい。まるで“溺れている”かのように、大急ぎで鉢の縁に取り付き、這い上がろうとしていた。それをみこりんは指でちょんと弾いて水に戻す。そして睡蓮鉢にカップで水を注ぎ込み、水量を足してやっていた。そんなことを2〜3回繰り返していたので、アメンボは水中では生きられないのだと教えてやった。水中ではなく、水面の上にいるでしょう?と指さしてみたが、アメンボは半ば身体を没している状態だったので、いまいち説得力に欠けたことは否めない。

 みこりんが水生昆虫に興味を惹かれている現在、タイコウチやらミズカマキリやらも飼ってみたいものだが、はたして彼らは今でも普通に見られるものなんだろうかと心配になってきた。今度川にでも行ったときには、魚だけでなく水生昆虫にも注意を払っておくとしよう。


2001.5.25(Fri)

広がる広がる

 “惑星間インターネット”か……語呂はそれほど悪くない。でも、その前に“地球圏どこでもインターネット”が実現して欲しい気もするが。

 Interplanetary Internet (IPN): Architectural Definition

 参考記事:火星からメール――徐々に近づく「惑星間インターネット」


2001.5.26(Sat)

ナメゴンを防いだのは…

 今朝は、やけにモンシロチョウの数が多い。今までいったいどこに潜んでいたのやら。去年はもっと早くから飛んでたような気がする……と思って過去の日記を探ってみたところ、それほど違いはないことを知って驚く。逆に、今年の方が1週間ほど早いくらいだった。わずか1年前の記憶だというのに、なんてことだ。

 うるさいくらいにたかってくるモンシロチョウを手で追い払いつつ、キャベツやらコールラビやらといったアブラナ科の苗を、入念に葉っぱの裏までチェックしてみたところ、やはり卵が産み付けられていた。このままでは昨年のように青虫どもに丸坊主にされてしまう。隔離だ隔離。

 鳥篭の中ならば、モンシロチョウは入れまい。網をわざわざ張るよりも、鳥篭をすぽっと被せた方がお手軽でいい。これまで鳥篭の上で育ててきたキュウリやスイカの苗たちは、改めて空いてるハムスターケージを引っ張り出してきて、その上に乗せた。なぜ針金系の台にこだわっているかといえば、それなりの理由があった。

 鳥篭とかハムスターケージは、細い針金(剥き出しの金属)で構成されている。しかも間隔はほどよく広い。この特長が、どうやらナメクジの訪問を防いでくれているらしいのだ。昨年は、ナメクジにかなりの数の苗を食害されてしまったが、今年は鳥篭の上に乗せていた苗については被害ゼロというのが、その主たる根拠となっている。雨の日などは、鉢植えとかプランタは言うに及ばず、花壇の植物のほとんどはナメクジによってたかって囓られているのだが、鳥篭の上だけは、まるでそこが彼らの聖地であるかのように、一切の侵入が見られない。

 鳥篭のおかげで今年は1つの被害もなく、順調に苗たちは育ってくれている。いよいよ明日は市民農園に定植の予定。


2001.5.27(Sun)

初めての美容院

 3歳と約9ヶ月、みこりんの髪もずいぶんと伸びた。前髪は眉にかからない程度にカットしていたが、後ろ髪は生まれてから一度も切ったことがない。ちょいと前までは腰に届くくらいだったものが、今ではお尻付近にまで到達しようとしている。髪を洗うときはともかく、お風呂上がりにドライヤーしてやるのもけっこう大変になってきたし、もうじき保育園ではプールが始まるので(プールのあと、年少組さんは髪を自分で拭かねばならないため)、ついに散髪を決意したのであった。

 散髪といっても、前髪でさえまっすぐカットしてやれないのに、大量の後ろ髪をキレイに切りそろえるなど、素人の我々にはあまりに無謀である。というわけで、本日みこりんは、初めての“散髪屋さん体験”をしてきたのだった。

 いつも行ってるスーパーが改装したおり、テナントとして理容院と美容院が入ったことはLicから聞いていた。なんでもお子さま用の椅子も用意されていたらしく、みこりんはそれが気になって仕方がなかったという。それだけ興味を惹かれているところならば、きっとおとなしくしてくれるだろう。そういう期待を込めて、スーパーに出撃。まずは理容院へと向かう。

 3階の一番奥まったところにその店はあった。ウインドウ越しに中を覗くと、お客が一人、散髪されていた。男の子である。みこりんよりも、2歳くらい上のように見えた。店内はすっきりと空いており、わりと感じもよい。ここならば落ち着いてカットしてもらえるだろう……ただ1つ問題だったのは、その男の子が半狂乱に泣き叫んでいたことだった。
 別に変わった器具とか、特別な手法でカットされているわけではない。ごく普通のハサミによるカッティングなのだが、どういうわけか男の子は激しく身をよじり、耳の先まで真っ赤にして泣いている。彼も散髪屋さん初体験なのかもしれない。みこりんは明らかに動揺していた。

 入るのを躊躇しているのがありありだったので、美容院のほうも見てくることにした。こちらは1階、店舗面積は3倍以上。かなり広い。しかし先客がかなりいた。見るからに待ち時間多そうである。みこりんはこっちのほうに入りたがっていたが、もう一度3階の理容院へと戻る。男の子は、どうにかこうにか際剃りが終わり、最後のドライヤーへと突入していた。椅子からずり落ちんばかりに泣いている。さっきよりも一段と泣きが激しくなったような。
 とりあえずLicが待ち時間を聞くために店内へと入った。恐怖に引きつった男の子の絶叫が、突然リアルに届いてくる。みこりんの顔が、ささっとこわばってゆくのを、私はスローモーション映像を見るかのように観察してる。こりゃダメかな…と思ってると、Licが待ち時間「2時間半」というのを告げていた。やっぱ、だめだ。みこりんラッキー。

 1階へと舞い戻る。Licがカウンターに向かうと、そのあとから後続客が3組ほど並んだ。繁盛しているようだ。待ち時間30分、とLicがこちらを向く。OKだ。後ろの客は、なんと待ち時間2時間以上と宣告されている。タッチの差で、ちょうど空きに飛び込めたらしい。みこりん、かなりラッキーかもしれない。

 時間までスーパー内をぶらつき、美容院に戻る。店内で少し待ったあと、いよいよみこりんが呼ばれた。椅子の上に“お子さま用スペーサー”を装着し、その上にみこりんが座る。目の前の壁にはポケモンを上映中のTVが配置されていて、お子さま仕様としては申し分ない。美容師の兄ちゃんに、肩胛骨あたりまでばっさりやっておくんなさいとお願いし、さらに、今回が初めての散髪なので毛先を一房もらえないだろうかと問うてみたところ、快くOKしてもらうことができた。
 そしていよいよカットが始まる。

 ずっとみこりんは神妙な面もちだった。緊張しているのだろうか。そうしているうちにも、髪はどんどんカットされてゆく。だが、床に散らばる黒髪は、思ったほどには多くない。なにしろみこりんの頭なんて、まだ大玉スイカよりも小さいのだから、無理もないか。
 あんまりみこりんの顔が固まったままなので、もしかして眠いのでは…と思い始めた頃、カットは終了していた。続いてシャンプーへと移る。椅子が移動となり、我々の視界からみこりんが消えた。はたしてみこりんは大丈夫だろうか。

 なんとかして見えないかなと首をにゅぅぅっと動かしていると、Licが鏡を見るように言った。おぉっ!みこりんが写ってるじゃないか。こいつはラッキー。食い入るようにそちらを見つめる。みこりんはおっきなタオルを体に被せられ、さらに顔の上にもタオルが乗って、椅子ごと仰向けに寝た状態だったので、表情どころか、あらかじめ知っていないとそれがみこりんであることさえわからないだろうと思われた。でも雰囲気から、おとなしく髪を洗われているらしいことはわかる。顔にさえ水がかからなければ、大丈夫。タオルが顔を隠しているので、その点は大丈夫そうだ。

 やがてシャンプー終了。ドライヤーは、再び目の前の椅子で。さっぱりした表情のみこりん。あのシャンプー係りのお姉さんにならば、この父も洗ってもらいたかったぞ、と目で合図を送る。満足げにみこりんは椅子に深々と腰掛け、ドライヤーをあててもらっている。ずいぶんと丁寧な作業だ。

 すべてが終わり、みこりんが戻ってくる。うん、合格。髪は指定よりもやや長めだったが、ばっさりと短くなったことに変わりはなく、これでプールの日でも大丈夫。料金は1800円(税別)。さすがに子供は安い。
 最後に店の人が写真を撮ってくれた。初めてのお客にはこうしたサービスをやってるらしい。でもみこりん、カメラを向けられると表情が固まる。家で撮ってやるときにはこうはならないのになぁ…。

 この日、みこりんは何度も散髪屋さんに行って来たことを、まるで確認するかのように我々に話し、明日も保育園の先生に話してあげるのだと意気込んでいる。よほど美容院が気に入ったとみえる。めでたしめでたし。

定植

 夕方から市民農園にポット苗の定植に向かう。日没以降は作業をしてはならないという掟があるため、あと2時間ほどしか余裕はない。定植するポット数は19。キュウリ系、トマト系、カボチャ系がメインだ。定植するだけだから間に合うだろうと踏んでいたが、着いてみてびっくり、我々の区画はびっしりと緑の絨毯に覆われていたのだった。

 雑草だった。芽吹いたばかりの小さなものがほとんどだが、放置しておけばいずれ手に負えなくなるのは必至。定植の前に、雑草取りだ。…とはいえ、ちまちま手でやってたんでは、すぐに日が暮れてしまうだろう。ここは一気に、こいつでやってしまうに限る。持参してきたホーで、畝を半ば崩しながら土ごと雑草を根こそぎにした。
 雑草の中から、ぴょんと飛び出して来たのはカエル。ツチガエルあるいはトノサマガエルの茶色タイプだ。さっそくみこりんに教えてやる。最近みこりんはカエルに興味を惹かれているらしいから。
 みこりんはうれしそうにカエルを追いかけてたが、捕まえるつもりはないようだった。まだ触れないらしい。

 ようやくあらからの畝が土色に戻った頃、日没まであと1時間を切っていた。1ポット3分がタイムリミットだが、どの畝に何を植えるか現地で考えるつもりだったので、ほとんど余裕はない。ゆっくり考えてる暇はなさそうだ。思いついたやつから、とっとと植え込みを開始する。
 今日持ってきた苗は、大部分が連作できないタイプなので、本当はもっと慎重にやらないといけないのだが仕方ない。今日を逃すと、時期を逸してしまうのだ。週末ガーデナーの辛いところ。カエルを追いかけるのに飽きたみこりんが、せっせと植えた苗にジョウロで水をやってくれている。うまく根付きますように。

 GW中に定植していたベビーコーンは、50cmほどの高さに育っていた。思ったほどには伸びていない。もしや土が合わないのだろうか。今日定植したものは、いわば主力、彼らの今後に期待したい。


2001.5.28(Mon)

ライフサイクル

 最近のみこりんは食欲魔神である。今夜だけでも茶碗3杯くらいを、ぺろりと平らげたという。そのあおりを食らって、私の分がほとんどなくなってしまっていた。…す、素晴らしい。
 この傾向は丼モノに顕著に現れるようだ。ちなみに今夜は牛丼である。具がなくなったあとは、生卵をぶっかけて食べていた。1歳くらいの頃から卵かけご飯(白身込み)を得意としていたみこりんらしい。
 お腹がぽっこり膨れて見るからに満腹状態になると、歯を磨いて、床につき、絵本を読んでもらって、眠る。平穏無事な一日の終わり。


2001.5.29(Tue)

めるまが

 『小泉内閣メールマガジン 創刊準備号

 をぉ、“広告”が入っていない(当たり前か)。
 ひらがなの割合が多いのは意図的なのだろう。柔らかなイメージだ。各大臣担当のところで、このバランスがぐぐっと変わってくるのが、なんだかリアル。
 ほんとうに総理自らキーボードをたたいて入力してたら面白いのだが、そこまではさすがに無理かな。でもまぁ面白そうなので購読(っても無料なんだが)する予定。


2001.5.30(Wed)

秋の園芸

 サカタとタキイから“秋&来春用”の園芸カタログが届いた。さっそくチェックだ。
 まずは水仙水仙、と。
 例年になくピンク系水仙が数多く登場している。でも、どこやらのカタログとは違って“ドぴんく”な画像にはなっていない。あぁよかった。やはりこうでなくちゃな。やはりピンク系とはいいつつ、とてもピンクには見えない色彩というのが正解のようだ。やはり手を出さないでおこう。それよりも、“プロフェッサー・アインシュタイン”と名付けられたカップ咲水仙は、なかなかいい。白い花弁に先端紅色のカップというコントラスト豊かな色もさることながら、名前にまいった。よしよし、こいつを1セット。そしてバラフライ咲の“カサタ”と“カムタウデ”、それぞれレモンイエローと杏色のパステルカラーってところが素晴らしい。それぞれ1セットいこう。あとはジョンキル交配種の“ピピット”で締め。……って想像で太っ腹な買いものを楽しむのも、また楽し。

 1本の木に、2種類のサクランボを接ぎ木したのはなかなか便利そう(通常サクランボは、2種類植えないと実をつけない)。場所とらなくていいし。あとはカタクリと西洋カタクリ、そろそろ買い時かもしれない。庭のプラムの下なんか、カタクリには最適な夏半日陰で、冬日当たり良好なポジションだし。もっとも、そうしようと思えば、はびこってるイチゴをなんとかしないといけないのだけど。ハンギングに移動させるのが吉かな、やっぱり。そうすりゃナメゴンに舐められる心配もないし、ミミズがのたくりながら飛び出てくることもあるまい。それがいい、そうしよう、そうに決まった。


2001.5.31(Thr)

いつのまにか希少種に

 トノサマガエルか…このへんにはまだ普通に見られるのでわからなかったが、すでに存在が確認されている都道府県は、数カ所にまで減ってしまっているらしい。なんてこった。実家のある県も、トノサマガエルが見られない方に入ってしまってる。昔は道ばたの水たまりにさえオタマジャクシが無数に泳いでいたものだが、そういう光景はもはやすっかり過去のモノになってしまったのだろうか。雨の日や、雨上がりには、道路に無数のトノサマガエル煎餅が出来上がっていたものだが、それすらも見られなくなってしまったのか。

 まだこちらにはトノサマガエルがいるとはいっても、来年どうなってるかわかったものじゃない。これから雨の日が多くなる。踏まないように気をつけよう。


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