2002.12.1(Sun)

空飛ぶモノ

 朝から上空を、何度も轟音が通過していった。それをウッドデッキから、みこりんを抱っこして見上げている。鈍色の空に、機体のシルエットはやけにはっきりと見て取れた。雨が近いのかも知れなかった。

 最寄りの航空自衛隊で、基地祭が行われているのだ。去年は例のテロ事件の影響で中止となった。今回は、みこりんに飛行服を着せてやれる最後のチャンス。こんな時のためにと買ってきたのが去年の初夏のことなので、来年になってしまうとみこりんには小さくなってしまうだろう。
 みこりんもオレンジ色のツナギを、とても気に入ってくれたらしい。行く気満々で待機している。
 出発だ。

 機体の地上展示場所付近が、今回の観覧ポイントだった。みこりんに、より多くの機体を見せてやるにはここしかない。
 急速上昇してゆくF-2の轟音に、全身がびりびりと震える。腹の底から揺さぶられる感触だ。みこりんも最初こそ、その雰囲気にびびっていたが、やがて興味がそれを上回り、次第に自らカメラを構える余裕も見せるようになってきた。保育園のお友達に見せてあげるのだと言いつつシャッターを切ってるみこりんだが、上空を飛び去ってゆく機体を上手にフィルムに収めることができただろうか。

F-15 異機種編隊飛行の間、コックピットが公開されていたF-15の長蛇の列に加わってみる。みこりんは上空に飛来した編隊を指差し、「あれがおかーさんでー、あとのがこどもたちー」と評してくれた。もちろんC-1(輸送機)が“おかーさん”で、小型の練習機やら戦闘機が“こどもたち”である。
 F-15のコックピットは、結局、みこりんの写真を撮るのにかまけて全く見る暇なし。一瞬で終わってしまった。でも、F-15の背中を拝めたのは、収穫だった。大きさがじつにリアルに伝わってきた。子供の頃、作ったプラモデルで想像していたのよりも、随分と広い。みこりんサイズならば、両翼の上で存分に駆け回れるスペースだった。

 さて、昼食後はいよいよブルーインパルスの演技である。ところが、ここにきてみこりんの様子がおかしくなってきた。緊張の糸が徐々に切れつつあるらしい。幼児の集中力ではこのへんが限界か。それでも、スモークで上空に図形を描くあたりは興味を持って見つめていたようだが、半分以上は眠そうにしていたような。たぶんジェット機ではなく、ロック岩崎氏が以前披露してくれたようなアクロ機による演技であったならば、みこりんの集中力も続いていたような気もしないではない。みこりんはとにかく動いているものに興味を示す。行ったきりなかなか戻ってこないジェット機よりは、おそらく違った傾向を示すのではなかろうか。

 ブルーインパルスが着陸すると、祭りはフィナーレを迎える。徐々に引いてゆく人波と逆行するように、地上展示の機体の前にみこりんを立たせて、ここぞとシャッターを切ってゆく。人波が切れつつある今が、撮影には絶好のチャンスだった。
 F-4のグラマラスなボディを背景に、ばしばしと撮りまくっていると、みこりんも徐々に気分が乗ってきたのか、自ら立ち位置を定めてポーズを決めたりなんかしてくれるようになった。基本的にみこりんは飛行機が好きなので、眠い気分が去ってしまうと、まさにコワイものなし。中でもお気に入りの機体はT-4だったらしく、指定しないでもT-4の前に立ち、撮ってくれとせがむのであった。コンパクトなところがみこりんのツボにはまったのだろうか。

 結局、固定翼機に時間を食われて、回転翼機の方はちょろっと眺めただけになってしまった。こちらの方は、いずれまた航空宇宙博物館の方で埋め合わせようと思う。
 雨は、途中ぽつりぽつりと落ちてきたが、本降りになることはなかった。じつはみこりん、晴れ女だったりして…、と最近ちょっと思っているのである。


2002.12.2(Mon)

みこりんとコンピュータ

 これまでもみこりんは、コンピュータには“ももんがクラブ”等で親しんでいたのだが、最近我が家にやってきた新型には、別の興味を惹かれているらしい。DVコンバータ経由でSkyPerfecTV!の画像を映していたのが、その発端のようである。つまり、コンピュータとテレビが、この時点で融合してイメージされてしまったのだと思われる。その時のみこりんの驚きの言葉が「コンピュータでもテレビみれるの?」だったことからも、それが強くうかがえる。

 逆に言えば、コンピュータとは何をするものなのかという明確なイメージが、その時のみこりんにはあったということにもなる。おそらくそれは“ももんがクラブ”のような遊びのソフトであったり、ゲームであったりというレベルだと想像できるが、みこりんなりにコンピュータとは何者かというのを定義していたことに、私は驚きを禁じ得ないのである。これが人間の素晴らしき能力の一端なのであろう。得たいの知れないものとして曖昧なままにしておくのではなく、判る範囲で識別し、定義し、納得する。そしてそれは常にダイナミックに更新されてゆくのだろう。みこりんのコンピュータに対する定義には、今後“テレビも見ることが出来る”というのが追加され、そのうち“電話もできて、楽器にもなって……”と、どんどん機能が加わってゆくことになる。そのうちLicがエレクトーンとMIDI経由で繋いでくれるだろうから、さらにみこりんの定義は他の装置との境界線が曖昧になってゆくことだろう。

 みこりんが小学生になるころ、いったいどんな定義に膨れあがっているのか、私もとても興味があるところだ。1年先でも、この分野の想像はじつに難しいのだから。


2002.12.3(Tue)

みこりんの料理

 最近みこりんは料理づいている。すでにみこりん専用包丁とまな板を持っているほどなので、基本的に加熱以外のことは大抵できるようになっているというのも、理由として挙げられるだろう。
 そんなみこりんが今はまっているのは、リンゴのサラダだったりする。リンゴを薄くスライスして、それを抜き型でいろんな形に抜き、皿に盛りつけ、ヨーグルトをかけると出来上がり。じつにシンプルだが、これはいろんな応用が利きそうで、今後の発展が楽しみでもある。

 踏み台に乗らなくても流し台が使えるようになる日が、じつに待ち遠しい。そうなれば、もっともっといろんなことを教えてやれるのに。
 おそらくみこりんが最初に加熱する料理で覚えるのは、“ハヤシライス”だろうと私は思っている。なぜならば、みこりんはハヤシライスが何よりも好きだから。「何食べたい?」との問いに返ってくる答えは、それが例え朝であっても「はやしらいすー」のみこりんなれば、きっとそうなるにちがいない。


2002.12.4(Wed)

ぶるるん

 最近みこりんは“ぶるるん”づいている。何が“ぶるるん”なのかといえば、パイである。つまり、乳だ。

 保育園で行われているリズム体操時、体を激しく縦揺れさせる場面で、みこりんはつい先生の胸元に注目してしまったらしい。そこで目撃された光景が、今もみこりんの脳裏に焼き付いて離れないのだろう。
 もちろんみこりんは女の子なので、この時期の男の子に見られるような「でへへへへ〜」といった感情はたぶんない。がしかし、パイを見たい、触ってみたい、という欲求は、結構あるらしい。あの“ぶるるん”する物体を、自ら確認したいとでも言うように、その気持ちは強まる一方のようである。

 興味深いのは、その対象が保育園の先生にしか今のところ向けられていないところだろう。その動機が何であるのか、それが気になっているところである。


2002.12.5(Thr)

Iris

 MPEG2の動画を作成するために使用を決心したmpEGG!DVD Encoderに、DV type-2 のAVIファイルを読み込ませるには、DVコーデックが必要になる。が、カノープスのADVC-1394はMircosoft DV Codecを使うタイプのため、それがない。そこでカノープスのサイトで公開されている再生専用のDVコーデックをインストールしてみたのだが、ここで重要なことを思い出していた。

 ADVC-1394に付属するWinProducer3DVDの操作性は、いまひとつよろしくないのだ。私がやりたいのは、映像の頭とお尻にくっついた余分な部分をカットしたいだけなのだが、その範囲選択の使い勝手が私の感性に合致しない。そしてこれがもっとも重要なことだったが、編集後にDV type-2で保存した時の映像が、明らかに劣化しているのだった。Mircosoft DV Codecを使う以上、これは避けては通れないらしい。やはりこういう用途にはAviUtlと合わせて、別のDVコーデックを使うに限る。インターレース解除とか、その他諸々の機能を考えても、こちらを選択するのが後々幸せになれそうな気がするし。
 いちおうDVコーデックを探す前に、とりあえず無圧縮出力を試みたのだが……

 ハードディスクの容量が足りない!わずか30分の動画なのだが、50GB少々が必要らしい。80GBのハードディスクに、しかもすでに30分×4本分の動画(DV type-2形式のAVIファイルなので、1本あたり6G少々になる)を格納した状況では、とてもそんな余裕はなかった。むぅぅ、動画恐るべし。
 やはりDVコーデックを探さねばならないらしい。しかもフリーで、画質もそこそこよいやつを(どうしても有償のしか見つからなかったら仕方ないけど)。

 見つけたのはSoftware DV Codec "Iris"。さっそくインストールしてみたのだが、なぜかAviUtlでDV type-2形式のAVIファイルを再生できない。きっと何か闇の設定が必要なのだ。それがなんなのか、調べなければならない。

 最初、それがあまりにさり気なく書かれてあったので、意味を掴むのに少々時間を要してしまった。が、Irisの添付文書との合わせ技で、内容を理解することができた。つまり、こうすればよかったのだ。

\HKEY_LOCAL_MACHINE\Software\Microsoft\Windows NT\CurrentVersion\Drivers32
これに文字列キー「vidc.dvsd」を、その値を「DVIris.dll」にして追加。

 以上の操作で、めでたくAviUtlにて、DV type-2のAVIファイルの再生・保存が可能となった(ちなみに Windows XP Pro sp1 での結果である)。
 これでようやくmpEGG!DVD Encoderを正式にレジストする準備が整ったわけだ。すでにブツの発注も済ませてある。我が家の映像・音声デジタル化計画は、ようやく始動を始めることとなった。


2002.12.6(Fri)

みこりんの語彙力

 たとえば送り迎えのクルマの中とか、ちょっとした時間ができると、みこりんはよく“しりとり”を始める。みこりんは“リンゴ”とか“ラッパ”とか“ウサギ”とか、オーソドックスな単語で攻めてくるのだが、対する私は“カモノハシ”や“ミンダナオ島”、はては“リサ・ステッグマイヤー”などといった、単語で返すのである。
 そのたびに、「わからんこというな〜」と、みこりんはうろたえるのだが、こうして未知の単語を発してやることで、みこりんの語彙力は確実にアップするはずである(ほんまか?)。そのうちみこりん自ら「えりあごじゅういち」とか言いだし始めるだろう。そうなったらこっちのものだ。意味はあとからついてくる。とにかく今は、いろんな言葉を覚え込ませてやろう。
 なんていいつつ、そんな意味不明なしりとりよりも、ちゃんとした図鑑買ってやったほうがなんぼかマシのような気も…。そう、図鑑だ。PCで再生するマルチメディア図鑑でもいいけど、とにかくいろんな事象を知ることのできる本を、絵本とは別に用意してやらねばなぁと、思っているところだ。


2002.12.7(Sat)

コマにはまる

 去年みこりんに買ってやった鉄ゴマを、回してくれとせがまれることが多くなった。ベイブレードも捨てがたいが、鉄ゴマにも何か魅力を感じているらしい。ひょっとすると2種類のコマでケンカさせてみたいだけなのかもしれないが、とにかくそういう時には何をおいてもコマを回してやることにしている。興味を持ってる時に教え込むのが、一番効率がよいと思うからだ。
 案の定、みこりんは自分でも鉄ゴマを回すことに挑戦しはじめる。紐を巻くのは私が手伝ってやるが、投げる動作はみこりん単独だ。二度三度、四度五度、鉄ゴマは激しく横倒しになって、ガツンと壁にぶちあたっている。それでもみこりんは諦めない。私のフォームをみこりんなりに真似てみて、べしっとサイドスローで床に投じた。

 ごつっ、という鈍い音がした。みこりんが、はっとしてこっちを振り向く。私も床上の鉄ゴマに視線を吸い寄せられていた。ついに、コマは自立して回ったのだ。記念すべき、鉄ゴマ初回転。それが昨日の夜の出来事であった。
 その後も、連続して3回ほど成功させたみこりんだったが、成功率は2:8といったところ。まだまだ安定しているとは言い難い。でも、みこりんの語ってくれたところによれば、同じクラスの女の子で、鉄ゴマを回せるのは誰もいないらしい。つまり、みこりんが一番乗りというわけだ。そのことがよほどうれしいのか、今日もまた、鉄ゴマ回しに余念のないみこりんである。

 一応それなりに回せるようになったみこりんのために、今度は回転中のコマを手のひらに乗っける技を披露してやった。これもみこりんの好奇心を鷲掴みにしたらしい。我流でコマを持ち上げようと必死である。でも、これにはコツがあるのだ。できるだけみこりんの好奇心を維持したまま、さりげなく手本を見せてやる。するとますます一生懸命にコマをすくおうと、果敢に挑戦するみこりん。しかし何度やってもコマは倒れるか、持ち上げすぎて転ぶか、になってしまうのだった。もう少し練習が必要だ。そのためにも、屋外のコンクリートの上でコマ回しするのがいい。広い場所ならば回転も十分だし、少々触っても倒れることはあるまい。それに直接手のひらの上で、コマを受ける技も使える。
 ただし気をつけておかねばならないのは、この団地が傾斜地であるということだった。いったん転がりだしたら、麓まで転がり落ちてしまうことだろう。ボール遊びと同じく、コマ遊びでも、傾斜地であることの罠が潜んでいようとは。ドリームジャンボでにも当たったら、だだっぴろい平坦地を所有してみたいものである。

双六にはまる

 ちょっと気が早いような気もするが、我が家に双六がやってきた。さっそくみこりんがサイコロを作って(幼児用なので紙の組み立て式サイコロがついている)、やろうと誘ってくれた。といっても、この時点で双六とはどんなものなのか、みこりんはまだ知らない。

 遊び方を実地で教えつつ、双六を進めてゆく。動物の双六で、止まったマスに書かれている動物の物まね等をしないといけないところが、みこりんのツボにはまったようだ。片足立ちのフラミンゴのマスに止まりたいがために、サイコロをわざとちょこっとしか転がさずに、指定の目を出してみたりしてる。しかも“1回休み”になると、「いぇー!」とご機嫌だ。何か勘違いしてそうな気もしたが、本人が喜んでいるのでよしとする。

 結局、この夜、双六で連続6回ほど遊ばされたのであった。みこりんの興味は底なしである。止めようといわなければ、たぶん10回や20回は連続で双六する羽目になっていたにちがいあるまい。みこりんの新しい発見は、こうして日々発生するのである。


2002.12.8(Sun)

ハリエンジュ箒の製作

 昨夜遅くに降ったらしい雨のせいか、玄関先の歩道には落ち葉で描かれた幾何学模様が点々と付いていた。落ち葉とはいっても、大部分がハリエンジュの枝である。ハリエンジュは、主枝から伸びたたくさんの小さな枝に、左右対称に10対ほどの小さな葉がつくという性質をもっているため、落葉のあとには、落枝もあるのだった。
 さっそく竹箒で掃き掃除をする。これらの有機物は土に還せば資源だが、ゴミにしてしまえばエネルギーの浪費である。すべてかき集めて庭土に戻すとしよう。
 みこりんも一緒にお手伝いしたいらしい。庭掃き用の小さな箒で、かさこそとやってくれている。でも、そのうち、ヒラメキがあったらしい。私の集めたハリエンジュの枝を、束ねようと言い出したのだ。

 ハリエンジュの枝は、結構な弾力がある。しかも色は明るい茶色と、一見して竹箒の素材に思えたとしても、不思議ではない。私もみこりんの思いつきは、割と良い考えのように思えた。資源の有効利用のカタチは、こういうのも悪くはない。
 さっそく枝を集め始めたみこりんだったが、徐々にいつもの悪い癖が出てきてしまった。そう、だんだん飽き始めたのだ。なにしろ集めるべき枝はかなり多い。少なくとも箒のカタチにするには、100本以上は要る。途中で投げ出してしまっては元も子もないので、私もちょいと手伝ってやって、どうにか数を揃えることが出来た。

 持ち手となる棒は、裏庭の薪置き場から手頃な枝振りのやつを抜いてきた。ここからどうやって箒のカタチにするのか、しばらく黙ってみていると、みこりんは私の竹箒の一部を指差して「これなぁに?」と問うた。その指先に示されているのは、竹を束ねた針金である。幼児なりになかなか良いところに目を付けるものだと感心しつつ、それが針金であることを教えてやる。みこりんは、竹箒と同じように針金で縛ることを私に提案した。

 棒の先端に集めたハリエンジュの枝を巻き付け、針金で二重に縛る。なんだか予想以上に雰囲気が竹箒っぽくなってゆく。これなら子供のオモチャどころか、十分実用になりそうな予感。
 縛り終えると、さっそくみこりんが歩道のお掃除を始めてくれた。でも、最後の仕上げがまだなので、ちょっと掃きにくそう。やはり箒の先端は切りそろえないとね。剪定バサミでじゃきじゃきと切ってやると、ハリエンジュ箒の出来上がり。
 こうして2本の箒で、歩道の上は美しく掃き清められたのであった。

ハリエンジュ剪定

 歩道のお掃除が終わると、以前から気になっていたハリエンジュの剪定をやることにした。車道の方にちょいとはみ出し加減なのと、隣の敷地にもわりとかぶっているので、このまま放置していたら来春の新たな芽吹きと共に、事態はいっそう深刻なものとなってしまうだろう。やるには今しかない。いや、遅すぎたくらいかもしれん(いくら隣が空き地とはいえ…)。

 おにゅぅの高枝切りバサミの登場である。さらには新品のノコギリも使うとしよう。今回の剪定は、どっちかというと枝よりも不要な幹の伐採の方が作業量は多そうだし。
 こういう新しいアイテムを使用する場合、やはりみこりんは触りたがる。特に高枝切りバサミの紐を引っ張って先端のハサミを操作するところが、みこりんのツボにはまっているらしい。というわけで、一緒に紐を操作して、じょっきじょっきと不要な枝を落としてゆく。ハリエンジュに覆い被さられた格好になっていたコニファー達も、徐々に天が開けて気持ちよさそうに見える。

 横枝を落としたあとは、いよいよ幹の伐採にかかる。残すべき幹を見極めるのは、苦渋の選択であった。一度切ってしまったら二度と戻らないという緊張感が、ぴりぴりと頬にかすかな痙攣を引き起こす。しかしこれは木のためでもある。風通しを良くし、葉っぱの日当たりを改善することで、より健康的になるのだから、思い切ってやるしかない。

 ついにノコの真新しい刃を入れた。新品の切れ味は恐ろしい。あっというまに直径5cmはあろうかという幹は、両断される。ハリエンジュはもともとそれほど堅い木ではないのだが、それにしてもこんなに簡単に切れてしまっても良いものなのか。
 一端ノコが入ると、最初の緊張感は徐々に薄れていったらしい。次々に不要そうな幹に目が留まり、ばさっといく。ほぼ躊躇なく。お昼のチャイムが鳴り終わる頃には、さっきまでの姿とはうってかわって“さっぱりした”お姿のハリエンジュがそこにあった。…ただ、1つだけ心配なことがある。このハリエンジュ、新芽を出す枝と出さない枝とが、かなりはっきりと分かれるのだ。もしも残した幹&枝が、それに当たってしまったら…。恐ろしすぎる想像だが、こればっかりは春にならなければ判らない。できれば丸坊主なんてことは避けたいものだが、さて、どうなることやら。もしものときは、挿し木しよう。

 ところで伐採した幹には、くっきりと年輪が刻まれていた。当たり前のことだが、みこりんの年齢と一致する(この木はみこりんの誕生記念樹なので、新芽から伸びた幹の年輪は、みこりんと同じになるのである)。みこりんの身長はもう少しで1m、ハリエンジュの方は2階の窓に届きそう。みこりんにもその成長速度を、ちょっとだけ分けて欲しいな、とか思いつつ、伐採した枝を切りそろえ、まとめて縛って裏庭に運ぶのだった。


2002.12.9(Mon)

突破

 “柱の傷は一昨年の〜”と歌われとおり、我が家でも柱の1つにみこりんの背を刻んでいる。すくすくと伸びてゆく様を記録しておくというのも、なかなか感慨深いものである。
 ところで今日は保育園で身体測定があった。毎月恒例のやつだ。そして、そこでついにみこりんは達成したのだ。

 祝!身長100cm突破。

 永かった。この日が来るのを、じつはかなり待っていた。それがようやく現実のものとなる。あぁ100cm。100センチメートル。約1メートル。大きくなったものよ。

 そういえば近頃は抱っこしても、みこりんの頭がちょうど私の顔の前にだぶってしまって前が見えなくて苦労している。そろそろ抱っこも卒業なんだろうか。……それはちょっと寂しい、かな。なんて思ってるから伸びが遅くなってしまうんだろうか、などと、あれやこれやと悩みは多い。


2002.12.10(Tue)

カメラ、といっても

 仕事を終え、建物を出ると鼻の頭に何やら冷たいモノが…。夜空を見上げると、ちらちらと無数の点が落ちてくる。ま、まさか。
 Licとみこりんの待つクルマのところまでたどり着く頃には、はっきりと雪だと判るほどに降っていた。初雪である。日曜日にスタッドレスタイヤに交換しておいて正解だったらしい。
 Licによれば、夕方はもっと激しく降っていたのだという。もしかすると積もるかもしれない。

 家に帰り着き、リビングに入っても冷気は追い掛けてきていた。とても寒い。今夜は氷点下にまで下がるかも知れなかった。外の観葉植物のことが、かなり気に掛かる。

 石油ファンヒーターの熱で徐々に温まってゆく部屋の中で、みこりんがさっそく遊びを始めている。手に何か紙切れを持っているようだ。指先で何かを押すポーズをしたあと、それを私に見せにやってきた。自作の本のようにも思えるソレは、も、もしや…。

 「これ、にゃんちくんとったの」と、手帳のように広げて見せてくれた紙は、やはりどうみてもカメラ付きケータイのようである。少なくとも我が家のケータイはすべてカメラはついていない。いったいこんな技をどこで覚えてくるのだろう。保育園というのもちょっと考えにくいのだが、しかし、そこしか可能性はなさそうだ。先生が写メールか何かで撮ってくれたりしてるんだろうか。先生がケータイ持ってることは、以前みこりんから報告を受けていたのだが、たぶんそれがカメラ付きなのだろう。まさか幼児がマイ・ケータイを持ってるとも思えないし…(近頃じゃ油断できないが)

 思い起こせば私が幼少の頃、みこりんよりも2歳くらい大きいくらいの時だ。初めてカメラを紙で作った記憶がある。そのモデルとなったのは、当時家にあったカメラだった。それを真似てフィルムの巻き取り機構と、中のフィルムも工作したように覚えている。…あれから三十有余年。フィルムのないカメラが当たり前となり、あまつさえ携帯電話に組み込まれてしまうとは、児童SFの世界にも登場してなかったはず。たしかに今が21世紀なのだと感じた出来事であった。


2002.12.11(Wed)

今は昔

 人の姿を見れば、わたわたと大騒ぎでケージの中を駆け回っていたあの頃。もこもこで、手のひらにすっぽり収まるほどに愛らしかった、雛雛時代だ。ヒメウズラの“ぴーちゃん”と“さっちゃん”は、このまま少しも人に慣れなかったらどうしよう、そんな心配までした平穏な時代。それも今は昔。遠い遠い過去の出来事になってしまった。

 現在の彼等は、人を恐れるどころか、あまつさへ人に襲いかかってくるほどに気が強い。ケージの中に手を入れれば、分厚い胸板でアタックをかけられ、それでもこっちが引かないと分かると、クチバシ攻撃が降り注ぐ。でも、血が出るほどには本気じゃないのが、ちょっとだけ可愛らしい。
 これが二羽同士のケンカになると、もうすさまじいまでのどつきあい、つつきあいになってしまう。ケージを2つに仕切ってはいるものの、仕切の金網はヒーターをまたぐ格好になっているので、ちょうど下の方に2cmくらいの隙間ができている。そのほとんどを餌入れと、水入れで隠しているのだが、時にそれらが動いてしまって、首を伸ばせば届いてしまう事態が発生することもあるのだった。

 じつに危険である。かといってケージを今更2つにするのも、部屋の中が狭くなりすぎるため却下だ。彼等がヒメウズラではなく、ただのウズラなのであれば、屋外飼育に移行するのが正解かもしれない。だいたいどうみてもヒメウズラのサイズじゃないし…、でかすぎる。
 ただその場合の心配事は、彼等の雄叫びである。鶏ほどではないにしろ、結構な音量で鳴きあげるため、夜などは特に気にかかるところ。一度外に出してみて、どの程度響くものなのか調査してみよう。
 しかし本当にヒメウズラだったら………、厳冬期の屋外は厳しすぎる。あぁ、なんとかしてウズラである証明はできないものか。


2002.12.12(Thr)

HRP-2 Promet

ロボット研究所”が成果を公開――産総研「オープンハウス2002」”(ZDNet Japan 2002.12.10)

 ROBODEX2002で実物を見たHRP-2プロトタイプとは、さすがにえらい違いのHRP-2 Prometである。特に外観は、ようやく出渕裕氏のイメージ画に近くなって、プロトタイプでは貧弱そうに見えた脚部も、なんだかそれっぽい仕上がりになっていて、そのままオモチャ屋の店頭に並んでいてもおかしくない程度になったように思う。
 しかも人間との協調動作が可能なあたりに(ロボットと二人で荷物を運べたりする)、ASIMOとは違った方面での活動の場が期待できそう。とはいえ、レイバーのように大型化させることは無理だろうから(無理でなかったら面白いけど)、どっちかというと“マリオ66”とか“アップルシード”あたりの世界に登場してくる人型ロボットのような使われ方をしそうである(労働機械とか戦闘用とか…)。というわけで、次に登場するであろうHRP-3のデザインは、士郎正宗氏にぜひともお願いして欲しいところだ。

 ところで今回のHRP-2の特徴ある頭部の突起は、ただのハリボテらしい。じつにもったいない。ちょこっとアンテナを仕込んで無線LANに接続可能とか、そういう技を見せて欲しかった。無意味な装飾はあまり美しいとは思えないので、ぜひとも次回作には改善を期待したい。


2002.12.13(Fri)

初クリスマス・コンサート

 Licが前売り券を買った当時は、まだ席は余りまくっていたという地元のクリスマス・コンサートに出かけた。もしやほぼ貸し切り状態なのではという不安は、会場を目前にするまであったのだが、満杯の駐車場を見て妙に安心したりして。おかげでクルマを止めるのに手間取り、開始時間まであとわずかとなってしまった。みこりんの手を引き、早足でホールに急ぐ。

 人で埋まったホール内に、空席は残りわずか。指定席にしておいて正解だった。みこりんを真ん中にして着席、ステージにほど近い場所で、目線も高からず低からずちょうどよい。ピアノが中央にででんと置かれているのを見つけたみこりんが、さっそく興味を引かれているようす。“コンサート”と“ピアノ”が結びつき、昨年度、自らも出場した音楽教室の発表会を思い出したようである。
 待つことしばし、やがて楽団の面々が入場してきた。手に手に様々な楽器を持っているところも、みこりんの好奇心を刺激しているようだ。

 演奏が始まった。オーケストラの生演奏は、みこりんにとって初めての経験である。しかし、曲目がみこりんの知らないクラシック系なもので始まったのが災いしたのか、徐々に飽き始めてきたらしい。じつは私も途中の記憶が1分ほど途切れた箇所はあったのだけれど、これは秘密だ。
 それにしてもピアノ奏者の手の動きは、よくもまぁこんがらがって絡まないものだと感心してしまうほどに、なめらかに動いていた。みこりんには少し高度過ぎただろうか。思ったほどにはピアノに注目していないようだ。

 みこりんの反応も気になるところだが、私にはもっと気になることができていた。それはステージ左側奥に3人ほど並んだおじさん達である。彼等も楽器を担当しているのだが、バイオリンやフルートなどと違って、固有の楽器をやってるわけではないらしい。大太鼓だったり、シンバルだったり、トライアングルだったり(これはみこりんも興味を示してくれた)、タンバリンだったり(これもみこりんは興味を示してくれた)、鉄琴だったり、木琴だったり、名前もわからないような打楽器だったり、様々だ。なんでも屋さんなんだろうか。
 ようやくクリスマスっぽい楽曲が演奏され始めた時、私は彼等の技に驚嘆することになる。トウモロコシのように鈴がびっしりと取り付けられた楽器を使っていたのだが、両手で捧げ持ち、全身をバネと化してリズミカルに振るっているのだ。激しく、激しく、時にはソフトに…。やや頭部が薄くなりつつあるおじさんが、必死に鈴を振るう姿には、そこはかとなく哀愁漂うものがあったが、疲れをみじんも感じさせないその演奏に、私は感動していた。おそらく想像以上に激しい運動量のはず。人知れず、黙々とトレーニングに励んでいるに違いあるまい。
 みこりんもこの曲だけは知っていたらしく、ちょっとだけ目の輝きが違って見えた。すべての演奏が終わって、会場を出てから気づいたのだが、なんと2時間も経っていたらしい。みこりんの集中力を持続させるには、ちょっと長過ぎたか。

 こうしてみこりんの初コンサート体験は終了した。はたしてどんな感想を持ってくれたのか気になるところだが、この日、詳しい話をみこりんの口からは、結局、聞くことはできなかったのであった。ちょっと心配。もうコンサートはこりごりとか言い出さなければよいのだが。


2002.12.14(Sat)

汗と餅つき

 我が家にとっては早朝といえる午前7時、起床。今朝はみこりんの保育園で餅つき会がある。役員はもちろん餅つきの支援作業ということで駆り出されることになっており、今回はLicが参加することとなった。私はみこりんのお守りである。

 この辺りでは皆自宅で餅つきをするのか、異様に手際がよい。むろん餅つき器ではなく、ホンモノの臼と杵を使った餅つきである。ぺったんぺったんと、かなり高速に仕上がってゆくのを、支援のお母さんと先生達とで人数分、小さくちぎって丸めてゆく。そしていよいよ分配である。きな粉にあんこ、大根おろしに、みかんに芋と、様々な餅が順繰りに回ってくる。みこりんはあんこが苦手なくせに、ついついあんこ餅をいっぱいもらってしまって苦労していた。でもお餅は得意なので、なんとかなりそうだ。それよりも、私の不安は新たに加わったつき手のほうにあった。

 ちょっと小太りなお父さんだったが、ひどく汗かき体質のようで、ぺったんぺったんとやる度に、なんだか汗飛沫が飛び散らかっているような気がする。しかもかなり大粒のやつが。そいつがもろに臼の中に飛び込んでいくのを目撃するに至り、私の食欲はへなへなと萎えしぼんでいくのがわかった。おっちゃんの汗入り餅は、できれば食いたくない。でも、つきあがった餅は、運ばれていってしまうとどれがどれやらわからなくなるので、選択の余地はないのであった。以後、どの餅を食べても汗の味がしてくるような気がして、なんだか腹の中が気色悪い。食べるんじゃなかった…。
 それにしても、汗入り餅、誰も気にならなかったんだろうか。それがとっても不思議。もしや餅つきとは、汗やら小石が少々入ったとしても問題にしてはならないのかもしれん。謎だ。

はやにえ

 先週に引き続き、庭木の剪定を行う。今日のターゲットは、ウッドデッキ脇のプラムの木2本だ。かなり枝が込み入っていて、複雑なあみだくじみたいになってしまっているので、こちらも大胆にばっさりといこう。道理で今年は花はいっぱい咲いたのに、実があまり大きくならなかったわけだ。枝が重なりあいすぎて、日光を十分に浴びられなかったのだろう。

 ノコギリと剪定バサミで次々に不要な枝を、落としてゆく。とその時、1本の枝に、何かがくっついているのが見えた。「む?何やつ?」
 それは棘のような短い枝にささったバッタだった。こんな芸当をするのはヤツしかいない。モズだ。
 さっそくみこりんを呼んで、モズのハヤニエを見せてやる。なんだか不安そうにバッタを見つめるみこりん。いったい何者の仕業だろう?そう問いかけると、みこりんはじっと考え込み、やがて「どうぶつ!」と言った。木に登る動物がバッタを挿したのだと、みこりんは答えてくれた。ふむふむなるほど。でも、まだここでは正解は教えない。もうちょっとみこりんにも考えておいて貰おう。

 剪定は結局夕暮れまで続いて、ようやく終わった。モズのハヤニエは都合2つ見つかった。いずれもバッタである。もしもひな鳥とか、モグラとかが刺さってたらどうしようという心配は杞憂に終わった。モズの姿をこの付近で見かけたことはなかったのだが、どうやら縄張りに入っているらしい。

 *

 お風呂タイム。みこりんと肩まで湯につかりながら、ハヤニエの話を聞かせてやった。この時はじめてモズという名の鳥のことを、みこりんは知ることになったのである。
 モズ、その姿をいったいどんな風に想像したのか、自分もハヤニエにされるかどうかをすごく心配していた。“はやにえ”という言葉の響きも、みこりんにはとても不気味に聞こえているのかも知れない。何しろ幼児には意味不明な言葉の羅列だ。いや、たとえ漢字で書いたとしても、不気味さはいや増すだけかもしれないのだが。ちなみに漢字では“速贄”と書くらしい。“贄”という言葉には、贈り物とかおみやげという意味があるようなのだが、どうしても“生贄”という言葉を連想してしまって、どっちかというとずるずるどろどろな血なまぐさい印象が…

 みこりんがハヤニエにされるのをあまりに怖がって、一人で庭に出られなくなっても困るので、100cmを超えたら大丈夫だよと言っておいた。今週、みこりんは100cmを突破した。だからハヤニエの対象外なのだと。安心するかと思ったら、みこりんは「でも、100cmちょうどだったらはやにえにされる?」と、あくまで慎重姿勢を崩さない。“モズ”のイメージが、怪鳥ラドンみたいになってる可能性はとても高かった。
 一度、野鳥観察に連れて行って、ホンモノのモズを見せてやらねばなるまい。


2002.12.15(Sun)

 金網越しに繰り広げられるウズラ達の闘争に終止符を打つべく、仕切の網に段ボールを重ねて、隣が見えないように加工してみた。さて、これで平穏が戻ってくるだろうか?

 事態はそんなに甘くはなかった。隣にオスがいるのは明らかなので、二羽ともなんとかして隣の様子を窺ってやろうと、高く背伸びをしてみたり、飛び上がってみたり、ケージの隙間から首をにゅーっと突き出してみたりしている。懲りない連中だ。それでも見えないとわかると、今度は激しく段ボールの仕切に体当たりを食らわせ始めた。な、なんという執念か。

 ウズラのオス同士の闘争心が、これほど激しいものだとは。夜店でウズラを買うときには、十分注意しなければならないようだ。メスと書いてあっても、それはほとんど当てにはならない。運悪くオス同士だったりすると、同居はおそらく不可能、ケージを分ける必要がある。しかも雄叫びは昼夜を問わず。鳴き声を楽しむのでもなければ、オスの複数飼育は場所をとるだけだ。それでも構わないというウズラ愛好家の人でなければ、とても飼いきれないんじゃなかろうか。私はウズラの“メス”愛好家なので、オスには少々手をもてあまし気味。とはいえ野に放つわけにもいかないので、寿命まで飼うには飼うけど、雛の可愛さに負けて露店では決して買ってこないように、みこりんには重々言っておこうと思う。


2002.12.16(Mon)

芋の使い道

 さきほどからLicが台所でがさごそやっていたのは、スイートポテトを作っていたらしい。絞り器で、うにゅーっと円を描くようにして焼き皿の上に6個づつ仕上げている。あとはオーブントースターで焼き上げれば出来上がり。

 ところでこのスイートポテト、芋は芋でも、今年畑で収穫した紅芋を原料にしている。なので、色は鮮やかな紫色だ。およそ天然モノとは思えぬほどに鮮やかな紫色は、たぶん知らされていなければ人工着色料か何かと見紛うほどであろう。表現するならば、ポスターカラーの紫色が、おそらくもっとも雰囲気が近い。食べ物で、これほどの紫色したものを、私は知らない。だから、かなり不思議な雰囲気をLicのスイートポテトは放っていたが、食べてみると、そこはかとなくまろやかで微妙に甘く、ほどよいおいしさ。
 今年収穫した紅芋は、普通のサツマイモほど甘くはないので、こういうのには適しているのかも。来年用に、種芋を1つ残しておこう。あるいは玄関先に放置したままのメデューサ状態の巨大芋も、いまだ健在。いずれこれからも来春、芽が伸びてくるのだろう。紅芋の系譜は絶えることなく続いてゆく。おそるべき生命力である。


2002.12.17(Tue)

植物達の待避

 すでに氷点下にまで気温の下がる夜もあった。今宵もひどく寒い。おそらく明朝も霜でびっしりと覆われるのであろう。もはや一刻の猶予もなかった。とっととサンルームの植物たちを、部屋の中に避難なせねばならない。

 吐く息が、もうもうと白く広がるサンルーム。太陽が姿を隠した状態では、冷蔵庫よりも冷える。そんな中に吊るされているモンステラは、葉っぱのところどころに茶色のスポット状の染みが見える。すでに寒さにやられつつあったのだ。
 ストレプトカーパスの肉厚の葉っぱも、部分的に茶色く変色した箇所が見られる。こちらも冷害進行中だ。両手に鉢を抱えて部屋へと戻る。急にあったかい部屋に移したのではそれこそ逆効果。そのまま二階の物置部屋へと駆け上った。ここには置物と化した室内温室があるのだ。今こそこいつの出番である。とはいっても何かヒーターの類を入れるわけではないけれど、鉢の置き場所にはもってこいだった。

 続いてLicのサボテンも運び入れる。すっかり冷え込んだ素焼きの鉢が、指先に貼りついてきそうだ。残りのガジュマルやらトックリランやら、小物の鉢植えは、すべて待避を終えた。残る大物は……、待避先となる座敷が片付いていないため、次回に持ち越し。一度はこのサンルームで一冬を過ごしたこともある彼らだけに、小鉢の植物達よりも耐性はあるだろうけれど、早めに取り込んでやらねばなるまい。


2002.12.18(Wed)

冬の園芸

 すっかり冬もなじむ季節となってくると、コタツ園芸が楽しくなる。コタツ園芸といっても、コタツで何かを栽培するわけではない。コタツでぬくぬくしながら、園芸カタログで想像の世界にて園芸を楽しむのである。
 もっとも、今年の我が家は、もっぱら石油ファンヒーターとストーブで暖をとっていてコタツを出していないため、コタツ園芸というよりはストーブ園芸かもしれないが。

 現在手元に届いている園芸カタログは、サカタタキイの2社のもの。これに国華園が揃えば完璧なのだが、いましばらくはこの2つで存分に楽しませていただこうと思う。
 来春の目標は、赤、青、黄色の三原色。それぞれを3個所の花壇に分けて、色彩の妙を味わいたい。加えて日陰領域の整備である。これまではドクダミの天下だったが、ここにギボウシを筆頭に、日陰に強い植物を様々に植え込んで、ちょっとは見られる花壇としたい。カタログをめくりつつ、頭の中では理想的な庭が徐々に出来上がって行くのであった。

 一冬かけて理想の庭から現実の庭へと、展開してゆこう。問題のほとんどは、銭なんだが、あんまり急ぐこともあるまい。徐々に徐々に理想へと近づければいい。


2002.12.19(Thr)

変わり行く嗜好

 さて、今朝のおかずはベーコンエッグ。ちょっと前なら、みこりんはベーコンが苦手だった。だからほとんどハムエッグばかりを作ってきたのだが、はたしてみこりんの反応や如何に。

 さりげなくみこりんの表情をうかがっていると、意外にも箸が進んでいる。もしや美味いのか。じっとみこりんの言葉を待つ。

 半熟状の黄身を、ぺたぺたと川のように流し広げ、それを白身で混ぜ混ぜしたら、やおら箸でつかみあげて口に運ぶ。そんなことを繰り返しつつ、一番下側に敷かれたベーコンへと至る。一枚つまみあげ、かぶりついた。緊張の瞬間だ。

 「おいしぃ」と、みこりんは確かに言った。もはやベーコンはみこりんの敵ではなくなったらしい。ハムよりもベーコンを得意とする私としては、願ったり叶ったりだ。これで存分にベーコンエッグを作ってやれる。

 日々、みこりんの嗜好は変化してゆく。明日にはまた、ベーコンが苦手に戻ってませんように。


2002.12.20(Fri)

誕生

 夜の電話は、なんだかどきりとする。何か悪い知らせでもやって来るのではないかという、漠然とした不安がある。しかし、今宵の電話は違っていた。私の実家からかかってきた電話が告げたところによれば、ついに姪が誕生したらしい。
 みこりんも待望していた女の子。みこりんにとっては従妹だ。そう教えてやったのだが、どうもみこりんは赤ちゃんが自分の妹だと錯覚している様子。まだ見ぬ赤ちゃんと、一緒の布団でどんな並び順で眠るのがいいかと思案したりしている。きっとよいお姉ちゃん役を果たしてくれることだろう。
 問題は、そう簡単に会いに行けないことなんだが、距離の問題だけは“どこでもドア”でも開発されない限り、どうにもならないのであった。

 姪、か。なんだかまだ実感はわかないけれど、きっと可愛い女の子に育つであろう。ところで名前をまだ決めていないという。弟夫婦で互いに意見の相違があるらしい。そんなに迷っているならば、この私がつけてやろう。まこりん、でどうか?みこりんとまこりん、語呂がいいと思うのだが。……だめかな、やはり。


2002.12.21(Sat)

カルタとコマ回し

 細く冷たい雨の降り続く一日だった。午前中、みこりんはカルタ3種とトランプを順にやりたがったので、つきあってやる。しかし二人でやるカルタは、いまひとつ盛り上がりにかける。読み手も札を取るのに参加するため、どうしてもワンテンポ遅れるのだ。取るか取られるかの、あのぴりぴりした緊張感を味わうには、やはり専属の読み手が必要だった。が、その役割を果たせるLicは、いまだ目覚めず。もう少し時間が必要らしい。
 しかしみこりんは強くなった。もはや手加減する必要はほとんどないほどに。私が読み手に回っていると、みこりんの圧勝である。そろそろ花札とか百人一首でもOKかもしれない。

 午後、ガレージでコマ回し。ここには屋根があるため、雨が降っていても問題ない。みこりんは、保育園でクリスマスプレゼントとしてもらってきたコマを手にしている。私には、これまで使っていた鉄ゴマを貸してくれた。みこりんのコマには鉄が入っていないので、こいつで勝負したら勝敗は明らかなのだが、まだそこまでみこりんの回しのテクは上がってはいない。とにかくうまく回せるように鍛えるのが先決だった。

 お手本として、何度も何度も鉄ゴマを回してやった。屋外なので、思う存分コマを、ぶん回せる。私も本格的に鉄ゴマを回すのは、二十ウン年ぶりだ。最初こそ、ちょっと調子が出なかったものの、だんだん勘が戻ってきたような気がする。そこで“縦投げ”にも挑戦してみることにする。
 “縦投げ”、正確にはなんていう回し方なのかは知らないが、通常、横投げで回すところを、大きく振りかぶって上から投げつけるようにして回す方法だ。投げる時、もちろんコマは横向き(つまり芯が横向き)になっている。子供時代、この投法は相手のコマに真上から直撃させるために使用していた。この直撃を食らわせれば、相手のコマは著しくバランスを崩し、運良くクリーンヒットしたなら一撃で倒せたため、皆、競って縦投げを駆使したものだった。もし外したとしても、回転は横投げ時よりも上がっているため、持続時間も長くなる。まさに、いい事尽くめのようだが、失敗する確率は横投げよりも高く、ハイリスク・ハイリターンな投法なのであった。

 縦投げ時は、横投げの時と、紐の巻き方を逆にする。ここまでは体が覚えていた。が、いざ投げてみると、派手に失敗してしまった。すごい音をたてて、鉄ゴマは道路の方に転がっていく。みこりんが目を点にしてこっちを見ていた。これまでそんな投げ方を見たことがないと、ヤケを起こしてコマを叩き付けたかのように見えるに違いない。いかん、なんとしてでもこれを成功させねば。
 今度はちょっと慎重に、腕の振りを遅めにして投げてみた。紐がするするといい具合にほどけていく。投げた瞬間に成功を確信していた。

 ガツッという鋭い音。鉄ゴマは、一気に足を短くして回転していた。衝突のエネルギーは、芯をぐいっと上に押し上げてしまったのだ。これを防ぐには、もっと太いコンクリート釘などを打ち込んでおかねばならないが、その改造をやってしまうと、それこそみこりんの木ゴマとは戦闘力が違いすぎて勝負にならなくなってしまう。芯の交換は、まだするべきではなかった。

 みこりんのコマ回しの成功率は、あいかわらず3割ほどだった。でも、そのうち、あることに気付いたのだ。失敗するときには、紐の巻き方が逆になっているようだ。そこで紐の巻き順をもう一度正確に教えてやった。するとどうだ、みこりんの成功率はほぼ8割に達した。劇的な変化である。投げ方そのものに問題はなかったということだろう。もっと早くそのことに気付いてやっていればよかったのだが…。今回、縦投げを試してみて、初めて紐の巻き方に注意が及んだのが結局、功を奏したようだ。
 最後に、みこりんにコマの綱渡りを見せてやることにする。投げたコマを空中でキャッチし、そのまま紐を両手で張って、いざっ!

 ぼたっ

 と、鉄ゴマは落下した。もう少し練習が必要らしい。


2002.12.22(Sun)

PCの治療

 絶好の野良仕事日和だったが、お昼から知り合いのPCを診察にでかけた。約束なので、致し方なし。みこりんも付いてきたがったので、連れていくことにした。みこりんは誰であれ、“おねーちゃん”が大好きなのだ。
 みこりんがまだ2歳か3歳のころ、やっぱりPCのセッティングのために訪れた家だったが、もちろんそのころの記憶はすっぱりと消えているらしい。到着しても、みこりんは「ぜんぜんおぼえてない」と言った。

 PCの症状をまず確認してみた。聞けば、どうやら夏頃ウイルスに感染したかもしれないとのこと。たしかに何かシステムに必要な重要なファイルが消えたっぽい挙動を示している。やはりOSの再インストールがてっとり早いか。最初からある程度予想はしていたので、さくさくと準備を進める。
 最近買ったばかりというもう1台のPCを、とりあえずデータのバックアップ先にして、データ転送開始。幸いにもこの家では先ごろBフレッツになったばかりで家庭内LANが構築されており、互いのPC同士をつなぐのは簡単だった。が、ここで問題が1つ。
 無線LAN接続だったのだ。しかも電波状態はひどく悪い。仕様では50Mbps相当の転送速度が出るはずなのだが、どうも5Mbpsもいってない感じ。わずか800Mバイト程度のバックアップに、“190分”などと表示が出ている。こんな調子では、作業が終る頃にはとっぷり日も暮れてしまうだろう。おまけにネットワークの接続が頻繁に切断してしまうので、そのたびに転送のやり直しだ。まさにエンドレスの予感。

 お絵描きにも飽きたらしいみこりんは、すっかり退屈していて、ベッドの上をトランポリン代わりにしてびょんびょんやってみたり、部屋の探検を始めて押し入れのドアをがらっと開けたり、置物をがらがらと崩してみたり…。
 決断の時だった。

 結局、PCはいったん私が預かることにした。一晩かけてきれいさっぱりOSをインストールし直そう。我が家のLANなら有線の100Mbpsなので、バックアップに何時間もはかからないはず。それにみこりんも安心して寝かしつけることが出来る。
 PCが“入院”すると聞いてみこりんは、「おとーさん、“こんきゅーた”のおいしゃさん?」と、問うた。たしかにウイルスに感染したPCの復旧なので、お医者さんと言えなくもないかな、などと思いつつ、みこりんとPCをクルマの座席にシートベルトで固定する。

 データのバックアップ、ハードディスクのフォーマット、OSのインストール、各種セキュリティパッチの適用、付属アプリケーションソフトのインストール。この状態なら少々のウイルスには負けはしまい。けれど、穴は次々に見付かるのでまったく安心はできないのだけど。Windows Updateも余計なものを候補に上げて来るので、一般の人が適切な取捨選択をできるはずもなく、この方法でのアップデートを薦めるわけにもいかない。じつに、悩ましいところだ。


2002.12.23(Mon)

群青色のうねうね虫

 湯船にゆらゆらと、何かが浮き上がってこようとしていた。群青色した長さ3cmほどの、紐状の物体らしい。私は、みこりんに「虫だ!」と叫び、注意を促した。「ほら、うねうね動いとる!刺されるかもしれん!避けて避けて!」
 私が避けるのと同様に、みこりんも湯船の中を右往左往してその群青色の物体から逃れようとしている。しかし、うにうにと蠢きながら水面付近を漂うそれは、まるですべてお見通しであるかのごとく、逃げる先々へと近づいて来るのだった。
 たまらずみこりんが洗い場へと待避する。私は、広くなった湯船で肩までつかりながら、そぉっとそいつに触れてみることにした。

 「痛っ!」私は指先をおさえて、痛がってやる。みこりんは、じっと湯船を覗き込み、うねうね動くそれを観察中だ。だいぶ余裕が生まれたらしい。「おとーさん、これ“むし”ちがう。」どうやら正体を見破りつつあるらしい。でも、私の演技を否定しきれず、まだちょっと迷っている。その証拠になかなか湯船の方に戻ってこない。
 でも、みこりんは考えた。触らずに、この物体を排除するにはどうすればよいか。洗面器を手に、みこりんはそろっとお湯ごとソレをすくって、ざぁと流したのだった。敵は、去った。そして「おとーさん、もうだいじょうぶだからね」そんなことを言って励ましてくれる。つ、強くなったな、みこりん。

 再びみこりんと肩まで湯船に浸かっていた時のことだ。またしても群青色のヤツがにょろにょろと浮き上がってきた。「わぁっ!」たちまちパニックを装う私に、みこりんもすっかり同調して、大急ぎで洗い場にあがっていった。でも、さっきよりもさらに冷静っぽい。はやくも手に洗面器を持っている。
 大袈裟に刺された振りをして、今度は水中に没してみた。ざぶっと斜めに沈んで、微動だにせず、ひたすらみこりんの反応をうかがう。やがてそぉっと背中をつんつんされるのを感じた。でも、まだ動かない。ところがみこりんもそれ以上の反応がなかなか続いてこなかった。いったい何をやっているのだろう。とても気になったが、水中に顔面が沈んでいては何も見えない。
 あぁしかし、そろそろ息が限界だ。胸が苦しい。頭がぼぅっとしてきた。このままラクになってしまいそう……。

 もうあと5秒遅ければ、どうなっていただろう。ようやくみこりんに動きがあったのだ。背中に触れる小さな足の裏。限界だった。一気に浮上する私。そこには、洗面器片手に、ヤツをすくおうとしているみこりんの姿があった。
「おとーさん、これ“けいと”、むしじゃないよ」と言いながら。でも、直接はまだ触れない。毛糸だと理性では判断しているのだけれど、感情が私の演技に引きずられているのだ。

 「おとーさんがそんなこといったら、みこりんもこわくなる」そう、みこりんは続ける。みこりんをからかって遊べる時代も、そろそろおしまいなのかもしれなかった。


2002.12.24(Tue)

“おえかきっちょ”

 みこりんにはサンタさんが3人いる。遠方のサンタさん2組からは、すでにブツが届いていたが、みこりんがもっとも欲しがっているものは、そこには入っていない。なぜならば、名称がややこしいからだ。
 「おえかきっちょ」と、みこりんは言うのだが、それがいったい何なのか、遠方のサンタさんに伝達するのは困難を極めた。なにしろ私にもそれが何物か、今日の今日までわかっていなかったのだから。名称からは、それが何か絵を描くものらしいことは推測できていたのだが、どうやって絵をかくのか、また、それがどんな形状をしているものかは、長らく謎になっていた。

 けれどLicには心当たりがあったらしい。たまたま仕事が休みだったLicは、一日かけてオモチャ屋さんをはしごし、目的の物をゲットしてくることに成功したのだ。
 以前、私の実家に帰省していた折、たまたま買物に出かけた地元のスーパーのオモチャコーナーで、当時新製品としてデモっていたもの。それがみこりんの望むモノだろうと、Licは決断していた。
 一度現物を見ていながら、なぜここまで真相があやふやなのかといえば、みこりんの「いろのつくほうが“おえかきっちょ”、しろくろのが“らくがきっちょ”」という説明にあった。これを聞いた我々は、モノクロ版とカラー版が存在するお絵描きツールを想像した。デモっていた製品はカラー版だけで、モノクロ版はなかった。ここですっかり記憶から零れ落ちてしまっていたのだった。

 自分の説明が、サンタさんにうまく伝わっていないらしいことを、みこりんは恐るべき幼児の勘で察知したのだろうか。図解入りの手紙を書いてくれていた。窓に貼りたいというので、そのようにさせてやった。西向きの窓の、よく見える位置に、その手紙は置かれることとなった。

 寝床に入る前、みこりんは一度、窓の手紙がちゃんと外から見えるようになっているか、確認していた。それほど“おえかきっちょ”とは、素晴らしいものなのか。みこりんがこれほど執着するものが何なのか、そっと事前に包み紙をはがして中を見てみたい衝動に駆られたが、いまはじっと我慢である。明日になれば、すべては明らかになるのだから。


2002.12.25(Wed)

3つのプレゼント

 目覚めたみこりんは、まっさきに枕元を確認した。するとそこには、ポインセチアのように赤い箱が、3つ。それぞれの枕の上に、並んでいたのだった。Licの上に1つ、みこりんの上に1つ、私の上に1つ。
 「ほんとうにもってきてくれた!」と、みこりんは言った。みこりんはサンタを信じて疑ってはいない。しかし、これほど整然とプレゼントが並んでいる現実を目の当たりにしたとき、何か“超”現実の凄さを感じ取ったのかもしれなかった。みこりんの想像の世界では、真夜中そっと部屋に入って来るサンタさんの姿が、よりいっそう現実味を帯びて映ったに違いあるまい。

 ところで、みこりんは迷っていた。なぜならば、みこりんの枕元にあったのが一番小さな紙包みだったからだ。どうやら“おえかきっちょ”は、私の頭上にある一番大きな紙包みが該当しているらしい。わずかな逡巡のあと、みこりんは一直線に私の方に向かってきた。
 「おえかきっちょはおおきいで、きっとこれ!」そう言うと、一気に包み紙を破りにかかる。中から出てきたのは、まさしくみこりんの望んでいたもの。昨夜、手紙に書いてまでお願いしていたもの、だった。みこりんは、なんだかもぞもぞしながら喜びを表現していた。近頃みこりんは喜怒哀楽の感情表現のうち、喜びや楽しみを、目一杯示さなくなったような気がする。なんとなく理性が感情を抑制しているような、そんな雰囲気があった。
 まぁそれはともかくとして、みこりんは残りの2つの赤い箱にも視線を転じている。たぶん去年だったならば、迷うことなく全ての箱を開封したであろう。しかし、今年のみこりんは違っていた。まず、私に確認を求めたのだ。「これ、みっつともみこりんのかなぁ?」私はどうしたものかとしばし考える。昨夜、枕元にプレゼントを配置したのはLicである。おそらくこの構成は、Licに何か考えがあってのことだろう。驚くべきシナリオが用意されているのかもしれない。だが、そのLicはいまだ眠りについたまま目覚める気配なし。

 結局、「オトナにはサンタさん来ないから、たぶんそれはみこりんの」と、そう言うことにした。みこりんはそれを聞いてようやく安心したのか、残りの箱を開封し始める。両方とも遠方のサンタさんから届いたものだ。1つは“きらきらペン”、もう1つは“絵本『フェリックスの手紙』”。本当は、“おえかきっちょ”を“お絵描き帳”と聞き間違えたサンタさんが、それも送ってくれていたのだが、あまりにベタなのでここには置いていない。

 3つのプレゼントを抱えたみこりんは、上機嫌で階段を降りて行った。着替えも、食事も、洗顔も、何から何まで言われなくても進んでやってくれる良い子ぶりである。じつにわかりやすい反応だ。
 登園の準備をすっかり終えたみこりんは、さっそく“おえかきっちょ”で遊び始めた。私も興味を惹かれたので覗いてみる。なるほど、防水シートにキティちゃんの線画が描いてあって、塗り絵の要領で色ペンで塗るというものらしい。色鮮やかな色彩が、透明感に溢れていてなかなか美しい。それにしても、だ。その製品には“らくがきんちょ”と書かれてあった。どこが“おえかきっちょ”やねん。と、つっこみを入れたことは言うまでもない。


2002.12.26(Thr)

決闘

 今季2度目の雪が降った。凍えそうなほどに寒い。石油ファンヒーター様の御力をもってしても、冷気をすべては振り払えぬほどに。
 そんな夜、ウズラたちはついに雌雄を決しようとしたらしい。2つに分けたケージの一方に、体格で優る“ぴーちゃん”が入り込んでしまったのだ。

 “さっちゃん”は、自分の領土で応戦した。が、体格の優劣はいかんともしがたく、盛大に頭部から首にかけて羽をむしられてしまっていた。それでも雄叫びを上げるだけの元気は残っていて、ぜんぜん負け犬ではなかった。気力だけは双方とも互角らしい。

 ケージを仕切っている金網の、下側の隙間で餌入れを共有しているのがそもそもの間違いだった。ちらちらと相手が見える状況では戦闘意欲も抑え難し、なのだろう。早急に改造が必要だった。餌入れはそれぞれに1つずつ用意すべきだ。そして仕切りを完全にふさがねばならない。

 でもいつかはケージをもう1つ、増強せねばならなくなりそうな、そんな予感もするのであった。


2002.12.27(Fri)

仕事納め

 実感のわかぬまま、ついに仕事納めを迎えてしまった。机の上は、結局掃除する間もなく、そのままに。あまりに無造作、あまりに乱雑。何とかした方がよかったかも…。
 とはいえ、これにも利点はある。この状態ならば、来年、冬休み明けで出社したときにも、即座に記憶が蘇ることだろう。今回の冬休みはわりと長い。油断すると、記憶を取り戻すのに半日を要してしまうかもしれなかった。

 などと適当な理屈をつけて、切りのいいところで今年の業務をすべて終える。9日間の休暇中、いろいろやりたいこともあるので、持ち込んでいる技術系雑誌を厳選して数冊をバッグに詰め込んだ。覚えるべきことは、あまりにも多い。追いつくのも大変だが、手を抜けばあとはひたすら落ちて行くだけ。この踏ん張りが効かなくなったら、技術屋ではなくなってしまうのだろうな、たぶん…


2002.12.28(Sat)

年賀状

 年賀状用のデザインが完成していた。Licの夜なべ作業の成果である。昨年同様、Photoshopを主体とした加工だった。Licはこれらツールを仕事で使っているだけに、私は素材として使う画像を指定するだけでよかった。あとは、Licが当然のようにドットで修正したりしつつ、仕上げてくれる。画像の中のみこりんの目玉にハイライトを入れたり、目元のブロックノイズをぼかしてみたり、etc...

 こうして画像データは完成した。あとは印刷用のポストカードを買って来るだけ。というわけで、夕方から買物に出かけた。
 途中寄り道してホームセンターで正月飾りなどを物色。去年結局見つけられなかった“注連縄(横向きに藁が束ねられているヤツ)”が、無造作に積み上げられているのを発見。割合で言うと、やはり丸型の注連飾りの方が優勢ではあったが、この辺りでも横向きの“注連縄”はOKらしい。迷わず注連縄を選んだ(私は四国出身なので、注連飾りといえば、横向きの注連縄なのだ)。この地方特有のモノというと、注連飾りに何故か真っ赤なエビがくっついているのだ。しかも中央にでかでかと。もちろん紙細工のイミテーション。もしかしたらアメリカザリガニかもしれんが、このエビにいったいどんな意味があるのか、いまだ謎である。

 裏白、ダイダイなども買い揃え、いよいよ年賀状用ポストカードの入手のために家電量販店へと向かった。すでに世間一般では年賀状の作成は終っているのか、意外に店内は空いていた。思わずリラックスしまくって、目的外のブツの棚へとはしってしまう。年末セールでDVD-RやらCD-Rなどのメディアが安い。しかも収納BOXも安い。CD80枚収納BOXを2箱ゲット。じつに小さい。これ2つで160枚か。DVD-Rにビデオを焼き直せば、我が家の収納スペースも1/3には縮小可能にちがいない。
 DVDコーナーで『宇宙空母ギャラクティカ』を発見してしまったので、これも迷わず買ってしまう。“限定”と書かれると、買わずばなるまい。何しろ元が70年代と古いだけに、いつ廃盤になってしまってもおかしくはないし(大作でもないし…)。

 なんてことをやってるうちに、だんだん本来の目的を忘れてしまっていた。『ギャラクティカ』を手にした安心感もあり、そのまま帰りかけてしまったほどだった。
 Licに鋭く指摘されつつ、ポストカード置き場へとようやく到着。キヤノン純正のポストカードは2種類あった。“光沢ハガキ”と“プロフェッショナルフォトはがき”。値段にしておよそ倍以上の違いがある。もちろん“プロフェッショナル”な方が高画質&高価だ。印刷サンプルを見ると、たしかに裸眼で違いが確認できたが、すべてを“プロフェッショナル”で統一できるほど財布に余裕はない(さっきまで散々買物しておきながら…)。
 迷った挙げ句、親戚用に“プロフェッショナル”、友人その他用に“光沢”を選んだ。使い分けが微妙だが、まぁ、みこりんの売り込み作戦と考えれば妥当な線ではなかろうか。

 結局、正月用品よりもその他の趣味の品の方をたくさん買い込んでしまったのだが、冬休みということで大目に見てもらおう。


2002.12.29(Sun)

神棚と神様

 大掃除は、まず座敷から取り掛かることにした。正月とくれば、座敷だけでも美しく整えておかねばなるまい。テンポラリ領域として物置化したまま神棚に注連縄を張っても、いまひとつありがたみもないし。
 せっせと大物を二階の物置へと移動させ、ゴミは大胆に捨てる。二階の物置は逆にどんどん足の踏み場がなくなっていったが、まぁそれはそれ、いずれはそちらにも手を付けるとして、今は座敷をクリーンにすることが先決なのだ。

 私の作業と並行して、みこりんが座敷に隣接する自室を片付けている。Licが収納BOXを増設してくれたおかげで、だいぶんすっきりとモノが仕舞い込まれているようだ。

 お昼過ぎ、私とみこりんの大掃除は、ほぼ終了した。掃除機をみこりんが怖がるので、あまり派手に掃除機を駆使できなかったが、クイックルワイパーも併用すれば床上のゴミもほとんどが退治できた。
 しかしみこりんが掃除機を怖がるとは、意外だった。以前はぜんぜん平気だったはずなのに、何か掃除機に関わる怖い体験があったのだろうか。

 そのみこりんが、廊下をとことことやってきた。両手に何かを持っている。ん?なんだか見覚えのあるような、白い……御札?まさしくそれは、神棚の中に奉納してある御札だった。しかも2枚。み、みこりん、それをどこから…、と聞くまでもなく、神棚から持ち出してきたのだろう。みこりんには、神棚には神様が住んでいる場所だと教えているので、そのミニチュアの“家セット”の中に、どんなふうに神様が暮らしているのか、気になって気になって仕方がなかったのかもしれない。そして、ついその家の扉を開けてしまったに違いないのだ。おそらくみこりんの想像の世界では、シルヴァニアファミリーのようなお人形さんがいて…
 でも中に入っていたのは、ただの紙切れ。それが神様なのかどうなのか、みこりんは確認したかったのだろう。

 目に見えぬ存在。そして信仰。みこりんが知るには、まだちょっと早いかも。でも、その場所が何か特別なものだというのは、わかってくれたかもしれない。なぜなら、みこりんは、自分のお菓子を神棚の前にお供えしてくれていたのだった。

 御札を元通り扉の内側に戻し、古い注連縄を、真新しいものと取り替えた。鏡餅を所定の場所にセットして、神棚の隣りに花を活ければ完成だ。
 剪定バサミで洗面器に張った水の中で、松やら菊やらをぱっちんぱっちんやっているのを、みこりんが興味深そうに覗き込んでいる。どうしてトゲトゲ(剣山)に刺しているのか、なぜ水の中で切るのか、花を飾ってどうするのか、など、質問の雨あられ。これまでの、ただ花瓶にそのままつっこむだけとは明らかに異なる雰囲気を、みこりんも感じ取っているのだろう。活け花展に連れていったらどんな反応を示すのか、ちょっと試してみたくなった。

 *

 ところで夜、Licがググったところによれば、お正月飾りは29日と31日には、やってはいけないらしい。そ、そんな。…、まぁやってしまったもんはしょうがないけど。来年はよく覚えておこう。


2002.12.30(Mon)

大地のゴボウ

 夕暮れ迫る台所で、おせち料理の作成にとりかかったLicの要請により、裏庭の菜園からゴボウを掘ってくることになった。
 この春、こぼれ種で増殖したゴボウは、菜園のみならず庭のいたるところから芽吹いていたが、霜の降りる季節となって、ほとんどの葉っぱは息も絶え絶えである。そんな中、さすがに菜園で育っていたものは、生育が良く、いまだ鮮やかな黄緑色を保っているものが多い。やはり収穫するならば、この元気なのがよかろう。
 最初、小さなスコップで掘り進めていたのだが、急速に翳ってゆく陽光と肌寒さに追い立てられるように、大型のシャベルを投入することにした。幸い、目標周辺に作物は他に植わっていないため、派手に掘り返しても大丈夫。一気に“さくっ”と突き立てる。

 採掘量が多いため、周辺のゴボウも一緒に収穫してしまうことにする。全部で4本だ。
 地中深く突き刺さっているゴボウの根っこを傷つけないように、慎重に土をこそげ落としつつ、細かい作業は小さなスコップを併用した。およそ40cmほど大地を掘り進んだところで、2本のゴボウの異様さに気がついていた。な、なんという太さだろう。おそらく一握りでは足りない。まるで杭だ。ぶっとい杭が、大地に穿たれているかのよう。
 表面は土が塗りたくられ、古代遺跡から出土してきたかのように黒ずんでいる。しかし、ところどころにひび割れが走り、いびつに歪みながらも、深く深く奥底を目指して続いている様に、ゴボウの強烈な意志を感じずにはいられなかった。たしかにこれは生きている。

 できれば全身を露わにしたかったが、この分では1m以上埋まっているだろう。夕暮れにシャベルで太刀打ちするには、少々荷が重い。45cmまで掘ったところで、手を止めた。
 底の方で、何かピンク色したものが“ぬめっ”と蠢くのが見えた。ゆっくりと細長く体を伸ばし、慎重に移動していくそれは、ミミズだった。白とピンクが混ざったような、奇妙な色彩をしたミミズは、やがて土の中に消えていった。ミミズを両断してしまわないように、しばらく作業を中断する。
 遠くでヒヨドリが鳴いている。静かに宵闇は迫りつつあった。

 一度腰をうんと伸ばし、そしてしゃがみこむ。ゴボウに手をかけ、一気に、抜いた。4本中、まともに抜けたのは1本だけ。あとのはすべて途中で折れてしまった。特に極太の2本は、まさしく棍棒のようである。ずしりと重い。これだけ育ってしまっていると、スが入ってたりしそうでちょっと心配になったが、とりあえず収穫物を両手に抱えてLicの元へと帰還した。

 *

 まるで木を削っているようだったと、Licは言った。直径およそ5cmのゴボウは、1本で十分なほどの量があったらしい。2本のうち、1本は手つかずのまま流し台に残っていた。
 茹で上げられたゴボウは、若干繊維質が多かったが、心配されたスの入り具合もさほどではなく、食べるのにまったく支障なし。こうしておせち料理は、次々に完成していったのであった。


2002.12.31(Tue)

みこりんと洗車

 今年最後の大仕事として、クルマを洗うことにした。なぜかみこりんがクルマ洗いをしたがるので、午後3時からという、洗車には少々不向きな時間帯に始めることとなった。
 手を切る冷たさの水から全身を守るため、雨合羽を装備し、両手にはゴム手袋、足には長靴と、考えられる限りの防寒防水対策を施し、作業にかかる。みこりんも同様の出で立ちだったが、ゴム手袋が大人用のため、なんだか手ばかりが強調されて映ってしまう。雰囲気がどことなくピグモンのような…

 言い出しっぺのみこりんだったが、やがて飽きてきたのか去っていってしまった。あとは孤独な作業である。洗い終わり、水分を拭き取ったら、ワックスをかけておしまい。午後5時過ぎ。大晦日も徐々に大詰めを迎えている。

 *

 現在、午後11時20分。みこりんはTVの前に敷いた布団で寝入っている。Licは湯浴び中だ。私はこうして今年最後の“ひみつ日記”を打ち込みながら、あいかわらず年の瀬の実感のわかぬまま、明日を迎えようとしていた。

 静かな夜である。


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