2008.7.1(Tue)

水泳4級

 帰宅すると、いつもはにゃんちくんが真っ先に出迎えてくれるのだが、今日は珍しくみこりんが待ち構えていた。
 「重大ニュース!重大ニュース!」と言うので、聞いてみると、ついにクロールで25メートル泳げるようになったらしい。自由形(犬かきでも、バタ足だけでも可)で25メートル泳ぐことはすでに出来ていたみこりんだったのだが、きちんとした泳法(クロール or 平泳ぎ)では、20メートルくらいが限界だった。その壁を、ついに今日、突破したのだ。素晴らしい。

 2回連続で成功したとのことなので、すっかりクロールの泳法は身につけている様子。先週までは、まだ息継ぎが難しくて、息が続かなくなると言っていたのに、めざましい進歩だ。子供の適応力は、さすがである。

 残る平泳ぎ25メートルをマスターすれば、めでたく4級昇格である。ちなみに、みこりんは現在“自由泳法で25メートル泳げること”をクリアした6級……。ん?5級が抜けてるような?と思ったら、みこりんが水泳カードを見せてくれた。5級は、“自由泳法で50メートル泳げること”と書いてある。
 みこりんにとって、50メートルはまだ未知の領域らしい。ようやく4級に手が届いたかと思ったら、こいつはなかなかやっかいそうな壁だ。

 とはいえプール開き以降、週に3日はプールの授業をやってるようなので、この壁も案外、あっさりと突破してしまいそうな気もするのだった。


2008.7.5(Sat)

朝の出来事

 奇妙な唸り声で目が覚めた。庭からか、もしくはリビング方面か、音源がどこなのか定かではないが、ネコが発する威嚇の鳴き声に似ていた。…もしやにゃんちくんが、庭で何かを発見したのではないかと思い至り、がばっと跳ね起きて、階段を駆け下りる。
 “何か”の正体が分かるかもしれないと思ったのだが、肝心のにゃんちくんは、リビングでくつろいでいた。どうやら声の主ではなかったらしい。

 「さっき変な声しなかった?」と、“野菜村”で遊んでいたみこりんに聞いてみると、どうやらガレージと庭との境にある小さな階段のところに、野良猫がいたらしい。かなり図体の大きな白っぽいネコで、一見して不健康そうなみすぼらしい感じだったそうだ。
 そして、ガレージに置いてある人工海水の素が入っていた大きなプラスティック容器の蓋にたまった雨水を、ぺろぺろと飲んでいたのだという。その様子が、みこりんにはとても強烈なインパクトを与えたらしく、「あんなところの水飲んでも大丈夫なのかな?」と、興奮気味に話してくれた。

 団地内では、ここ2年くらいの間に、何者かが置いた毒入りの餌によって、野良猫が10匹以上死んでいる。だから、うちの近所でもあまりネコの姿を見なくなっていた。
 ただ、この春頃から、おそらく今年産まれたと思われる若ネコが3匹くらい空き地に入り浸るようになってはいたが、みこりんが言う様な大きなサイズのネコは、ほぼいなくなっていたはず。しかも病気っぽいとなると、なおさら心当たりがない。もしかすると、年老いたネコが、心無い飼い主によって捨てられた可能性も考えられる。

 それにしても、いつもは他のネコの鳴き声に敏感に反応するにゃんちくんが、まったくと言っていいほど関心を示していなかったことが気になった。
 もしかすると、にゃんちくんには、あの寂しげな鳴き声が何を語っていたのか分かっていたのかもしれない。窓辺で静かに寝そべっているにゃんちくんは、何も語ってはくれなかったが、なんとなくそんな気がした。

熱帯夜

 夜になっても、さっぱり涼しくならない真夏日の今日。あいかわらず風はなく、開け放した窓にかかったレースのカーテンは、微動だにしなかった。

 気温は高く、風もなく、しかも湿度は鬼のように高い。べとつく空気が、ぬめっとしていて、せっかくの風呂上りだというのに、爽快さの欠片もない。
 喉の渇きを癒そうと、冷蔵庫から麦飯石でろ過したというミネラルウォーターのボトルを取り出し、カップに注いでいると、「みこりんもー」とやってきたので、同じようにカップになみなみと注いでやる。
 そして、二人してぐぐっと飲み干し。

 ごきゅっ、ごきゅっ、ごきゅっ、ごきゅっ、ごきゅっ。

 静かなリビングに響く、潤いの音。
 だがしかし、これがどうやらみこりんのツボにストレートにはまったらしく、途中でむせ返りながら笑い転げ始めた。もはや水を飲んでいる余裕はないようだ。

 箸が転んでも可笑しい年頃、なのかもしれない。


2008.7.6(Sun)

七夕飾り

 七夕セットを物置に取りに行っていたみこりんが、やがて短冊だけ手にして戻ってきた。どうやら笹は、なかったらしい。
 笹がなければ…、「このポトスに飾ってもいいね」と、みこりんがスピーカーの上に置いてあるポトスの鉢植えを指差して言った。
 外は雨。昨日とは正反対の、土砂降りと轟く雷鳴。みこりん的には、毎年、七夕になると雨っぽいのが気になってるようだが、もともと七夕は旧暦の7月、つまり現在の8月に行われる行事だからねと教えてやると、なんとなく納得したような感じ。

 分厚い短冊セットは、みこりんが産まれた頃から使い続けているもののような気もするが、なかなか減らない。たぶん100枚くらいは入ってたんじゃないかと思われる。10年かけても、尽きないとは、縁起がいいのか悪いのか。なかなか微妙。
 私がそうやって短冊に今年の願い事を筆ペンで書き書きしていると、傍らでみこりんが同じく短冊に…、いや、短冊ではなく、どこから持ち出してきたのか単語帳の小さな紙片に筆ペンでいろいろと書き記していた。
 何ゆえに単語帳なのか。そう問いかけると、「こうやると、扇子みたいでしょ?」と、みこりんは単語帳をぐるっとひろげて見せてくれた。う、うむ、たしかにそう見えるね。でもそれと短冊と、いったい何の関係が…。ま、まぁいいか。

 書きあがった短冊を、私はみこりんが言ったようにポトスに結び付けてみたのだが、肝心のみこりんはというと、単語帳から取り外した紙片の穴に紐を通し、車内広告みたいな具合に横一直線に吊るすと、自室の窓辺にセロハンテープで留めていたのだった。
 そうきたか。七夕飾りというには、少々奇妙ではあるけれども、それはそれでありなのかも。

 *

 ヴァナ・ディールの地でも、七夕飾り。去年はこれらのアイテム取得にやたらと面倒な手順が必要だったため、はなからゲットするのを諦めていたのだが、今年は楽勝な方法に変更されていたので、さくっとそろえてみた。
 ぼぅっと光って、なかなかうつくし。

三国の七夕飾り


2008.7.9(Wed)

花壇の水遣り

 昨日の朝は、激しい雷鳴を伴う大雨。今朝もなにやら、ウッドデッキの湿り具合から、明け方、雨が降っていた形跡がある。だがしかし、そのあとは夏の晴天が続いていたようなので、当番で回ってきていた団地内の公園にある花壇の水遣りに行くことにした。

 公園の入り口付近にレンガで囲われて、その花壇はあった。広さにして3平方メートル程度のものが、2つ。
 向かって左側の花壇には、インパチェンス、ルドベキア、ポーチュラカといったホームセンターで普通に入手可能な一般的な夏の花が植わっていた。どれも育ち具合がいまひとつで、ポット苗を植え替えて、さほど日が経ってないのではと思わせる状態。降り続いた雨のせいか、株全体に土が付着していて、あまり健康そうではない。その土汚れを落とすように、真上からホースの水をじゃぶじゃぶとかけてやる。

 向かって右側の花壇の方は、ちょっと変わった花が植わっていた。
 レモンイエローの花弁が目に鮮やかな、草丈50cmほどはあろうかというマリーゴールドが何株か。この辺では、あまり見ない品種だ。その生長具合からみて、春頃から育てられていたのではないかと思われる。明らかにこちら側は、間に合わせのポット苗ではなく、誰かが趣味で種から育てた感が、ありありと伝わってきた。でも草ぼうぼうだったけど…
 こっちもホースで水をじゃばじゃばとかけ。しかし…、基本的に地植えだから、こんなに毎日水遣りする必要はなさそうな気もするのだが、日替わりの当番制になってるので仕方がない。たぶん1週間に1回でも十分なんだけれど、一度決まった事柄を変更するのはどんな組織であっても、なかなか難しい…、というかそんな面倒ごとにかかずらわるくらいなら水遣りちゃっちゃと済ました方がラクだし。

 水遣り終了。
 次の当番の家は、幸いにもみこりんのお友達のところだったので、みこりんに託すことにした。家の前までは、クルマで送っていき、そっと様子を窺っていると、みこりんはちゃんとインターホン越しに、自分の名前と用件をはきはきと相手に伝えていた。なかなかしっかりした対応だ。これがぜんぜん知らない家だったらどうなるのか、という興味はあったが、今はこのくらい出来てれば十分だろう。

 ホースと当番表が入った大きな袋を手渡し、無事、引継ぎ終了。
 家へと帰還する。
 ところで肝心の自分ちの庭のことだが、みこりんの報告によると、今日、庭のど真ん中にネコがいたらしい。『完璧な防壁』は、あっさりと突破されている模様。ネコはみこりんが追っ払ってくれたそうだが、いったいどこから侵入されたのか…。みこりんと二人して見て回っていると、ラティスで出入り口を作ってる箇所の横側に、ネコ1匹なら通れそうなネットの穴を発見!
 しかしながらじっくり観察してみると、この穴は庭の中から外に抜けるように、強引に突破した形跡がある。つまり、この穴は脱出口であって、侵入用ではない気配が濃厚。…となると、侵入経路はまた別にあるのだろう。そこがどこなのか、結局、見つけることは出来ず。
 とりあえず、その脱出口は、みこりんの手によって応急処置が施されたが、根本的な解決にはなってないので、休みの日にでも、しっかり観察しておかねば。


2008.7.10(Thr)

あくえりなんとか

 「あくえり…、なんとかって知ってる?」と、みこりんが唐突に聞いてきたので、一応「アクエリアス?」とボケてみる。
 けらけらとみこりんは笑って「飲み物じゃなくって」と言い、私はあと1回くらいはボケをかましてみたかったのだが適当なものを思いつけなかったため、断念。ダメダメである。

 みこりんのいってる“あくえりなんとか”とは、おそらく『アクエリオン』のことだろう。
 さくっとPCに保存してあるオープニングテーマを再生してみせる。
 「これのことやろ?」

 イントロを聞いた限りでは、みこりんの記憶とは合致しなかったらしく、「聞いたことない」なんて言ってたのだが、みこりんがこの曲をたいへん気に入っていることは知っている。私がBGMとして流していると、いつも「この曲すきー」と言っていたし。
 サビまで聞いたら思い出すだろうと、しばし聞き入り。

一万年と二千年前から
愛してる

八千年過ぎた頃から
もっと恋しくなった

一億と二千年後も
愛してる

『創聖のアクエリオン』より“創聖のアクエリオン”サビの部分

 ここまで聞けば思い出したようだ。ただ、みこりんはこの曲は知っていたが、これがその“あくえりなんとか”の曲であることは知らなかったらしい。
 それにしてもなぜ突然、アクエリオンなのか。そっちの方が気になった。

 聞けば、どうやらみこりんは『アクエリオン』を、昨日ホースを渡した友達のうちで見てきたらしい。その子の家には、SkyPerfecTV!の受信機があることは知っている。そして先月はその中のチャンネルの1つで『アクエリオン』を一挙放送してたはず。おそらくみこりんは、それを録画したものを見せてもらったのだろう。

 みこりんと『アクエリオン』の接点は判明した。…が、なぜそれを私に聞いてきたのかは、謎のまま残った。
 ひょっとしてコピーしてくれるとかそういう話が出たんだろうか。あるいはメカの系統が河森系で、音楽の系統が菅野よう子というあたりで、みこりんなりにピンと来るものがあったのかも。だとすると、なかなか鋭い。


2008.7.11(Fri)

『百鬼夜行抄 (10)』

 帰宅すると、オンライン書店のboobleから、やたらと分厚い宅急便が届いていた。厚さにしておよそ10cmくらいはあるだろうか。
 中身が何なのかは分かっている。みこりんが読みたいといっていた本3冊と、私の文庫本が2冊ほど。みこりんの本は、2冊がハードカバーで、残る1冊も豪華愛蔵版仕様のため、この分厚さになっているのだろう。梱包されたままの状態で手に持ってみると、ずしりと異様に重量感があった。

『百鬼夜行抄 (10)』(作:今 市子) 梱包を開封してみると、文庫本は2冊を縦に並べて厚みは1冊分になっていることがわかった。残りはみこりんの本3冊分。たしかに分厚い。でも今のみこりんなら、このくらいの分量は1日もあれば十分読破してしまえるらしい。
 というわけで、みこりんの机の上に真新しい本を3冊、積み上げておく。

 私が買ったのは、新刊の2冊。『百鬼夜行抄 (10)』(作:今 市子)と、『付喪堂骨董店 ―“不思議”取り扱います (4))』(著:御堂 彰彦)。どちらから先に読むか一瞬迷ったが、やはり金曜の夜となれば、『百鬼夜行抄』の方かなと手にして布団に寝転がる。そろそろ怪談の季節でもあることだし。

 赤い糸が見えてしまう女性の話。赤い糸といえば、運命の赤い糸を連想してしまうし、作中、その女性が子供の頃に、母親からそのように話して聞かされる場面もあるが、彼女に見えているその赤い糸は、そんなロマンティックなものではなく……。
 序盤から、じわりじわりと独特な怖さが滲み出ていて心地よい。一気に読んでしまいたいところだったが、今日は昼間からなんだか体が疲れてしんどかった…。

 お気に入りの『百鬼夜行抄』の、しかも新刊を読み進められないほどとは、さすがに自分でもびっくりしたが、あえて無理はしないでおこう。
 そんなわけで、一晩おあずけ。


2008.7.13(Sun)

アカウントハッキング

 先月末あたりから、FINAL FANTASY XI のアカウントを奪取されてしまう被害が多発していたのは知っていたが、ついに昨日からFINAL FANTASY XIのサーバ(正確に言うと、FINAL FANTASY XIを起動するのために必要なプレイオンラインビュワーが利用しているサーバ)で、中国からのIP接続を遮断する措置が取られた。まぁ、告知では“中国”と名指ししてはいないが、アカウントハックを仕掛けている大部分は中国人犯罪者によるものなので、ほぼイコールであろう。
 ネ実にも、ネタかもしれないがあやしげな日本語で“接続できない”、“サーバは動いているか”などといった意味の書き込みが見られた。

 ところでアカウントハックは今に始まったことではないのだが、今回はその手口と、侵入経路がなかなか特定されなかったことが、これまでとの大きな違いといえる。
 しかも各種アンチウイルスソフトが、まったく検出できなかったというのも重要な点だ。だからこそ、以前とは比較にならないほど被害が多発し、その対策に追われてサポートセンターの電話回線はパンクし、GMコールの待ち時間もどえらいことになってしまっていたらしい。

 技術的に興味があったので、その系統の掲示板等の情報をチェックしていたのだが、今日の午後、ようやく原因となるマルウェアが特定された(今のところそのファイル名は、wzcsvbxm.dllのようだ。しかし、亜種が多発すると思われるのでこれがないからといって安心はできない)。
 WindowsUpdateを担当するモジュールに置き換わることで実行され、プレイオンラインビュワーとサーバ間で通信されるアカウントとパスワードを、犯罪者の用意したサーバに振り向けて送信するという手口らしい。
 このマルウェアに感染すると、WindowsUpdateができなくなる、プレイオンラインビュワーのログイン時にエラーになるといった症状が出ていたようなので、その現象ともおおむね一致する挙動といえる。

 これまでプレイオンラインビュワーのパスワードは、毎回手で入力する方法の他に、ハードディスク上に保存しておいて入力を省くという手段があり、過去にアカウントハックで狙われたのはもっぱらこのハードディスク上に保存された情報だったわけだが、今回のやつは通信経路上のパスワードを奪取してしまうタイプのため、用心深く毎回パスワードを手入力していた人でも被害に遭った。
 しかも、マルウェアが特定されたとはいっても、これはあくまでDLLであり、実行ファイルではない。WindowsUpdateの正規のモジュールに化けるためにレジストリを変更した本体があるはずだが、そいつはまだ見つかっていない。さらにいえば、侵入経路も、何の脆弱性が利用されたのかすらわかっていない。そして、アンチウイルスソフト等でレジストリ変更チェックを有効にしていた場合にも、こいつが書き換えられることを検出できないようだ。非常に不気味な存在である。

 真夜中頃には、検体がセキュリティベンダーに提出されたようなので、明日以降にはアンチウイルスソフトでも検出可能になるものと思われるが、すでに亜種が見つかっているため、100%検出することはできないだろう。そもそも重要なレジストリの書き換えが検出できなかったということは、書き換えそのものがなかったことにされているのではないかという怖い予想ができる。マルウェアの本体は、rootkitタイプのやつかもしれない…。
 しかもドロッパやら本体やらが不明のままでは、侵入時の検出はできないということだ。侵入された後になって、ようやく気が付くというパターンになる。かなりやっかいかも。

 とはいえ、ゼロデイ攻撃を食らったなら、もっと甚大な被害が出ていてもおかしくはないので、何らかの既知の脆弱性が利用されたのではないかとは思われる。アンチウイルスソフトなしでも大丈夫なレベルでセキュリティホールを塞いでいれば、今のところ問題はないはず。

 *

 FINAL FANTASY XI のアカウント数は約50万と言われる。今回のマルウェアは、このFINAL FANTASY XIに特化したやつだった(らしい)ため、セキュリティベンダーの探知網に引っかからなかった可能性が高い。全世界のインターネット人口に比較して、50万という数は、あまりに小さすぎる。
 実際、今回も被害が出始めてから20日あまり、有名どころを含めて軒並みセキュリティベンダーは対応できなかった(聞いたことのない1社のみ、対応済みだったようだが…)。ターゲットを絞った攻撃を捕捉するのは、それだけ困難ということなのだろう。
 ただ海外ではwzcsvbxm.dllが怪しいという情報は6月の末頃には出ていたようなのだが(掲示板のログはすでに落ちているみたい。Googleのキャッシュで確認)、誰もセキュリティベンダーに検体送ってなかったというのも興味深いところではある。国民性なんだろうか?

 Flash Player やら、Adobe Reader やらといった、脆弱性を狙われる可能性の高いプログラムについては、Windows Update のように、セキュリティアップデートのチェック機能を“常駐”させておく仕組みが必要だ(プログラムを実行してアップデートの有無を確認させるやり方では、手遅れ)。そうでもしなければ、とても“一般の人”がPCを安全に使うことはできないだろう。…というか、なぜその機能が今になってもないのかが不思議。


2008.7.14(Mon)

百日紅開花

 朝、みこりんを学校に送っていくべく玄関を開けると、目の前に“ぱっ”と鮮やかな色彩が輝いていた。西側に面した玄関なので、陽光を浴びているわけではないのに、鮮烈に。
 みこりんが「これは何の花?」と言うので、“百日紅(さるすべり)”なのだと教えてやる。矮性百日紅ということで玄関脇に苗木を植えて、はや10年近く。特性どおり本物の百日紅ほどに大きくはないが、樹高1mは超えた頃合。このくらいコンパクトだと場所もとらなくて、うちにはちょうどいい。

 この花が咲くと、夏だなぁ…、としみじみと思う。
 今週でみこりんの学校も一学期が終わる。7月もいつのまにか中旬。
 あっという間だ。

百日紅開花


2008.7.15(Tue)

 18時半、仕事を終え、帰宅。この季節、まだ太陽は沈んでいないので、ヘッドライトを点けなくても十分に明るい。
 団地の下から一気に坂を上っていると、上手い具合に角度良く、空が正面に入ってくる。ほんのりと桜色に染まりつつも、青の成分がかなり残っていて、見るからに爽快。そして、雲の形がとても美しかった。

 どんっ、と立ち上るように空の高みにせり上がる雲の境界。そこに太陽の光が反射して、複雑な形状をくっきりと浮かび上がらせている。まるでラッセンの描く空のようだ。

 団地を駆け上り、ガレージにクルマを止め、にゃんちくんの餌を新しいものに交換して…、そしてみこりんに「空がきれいだよ」と声をかける。
 みこりんも自室の窓から空を見上げて、いたく感動したらしい。空の色は、さっきよりもぐっと紫っぽく妖しげな輝きを発している。みこりんが見上げている空は、南側。あの美しい雲は北西の方向にある。
 みこりんと共に、玄関から外へ。みこりんの手には自分用の銀塩カメラ(何かの付録)があった。

 空を見上げる。
 だが、すでにそこには夜の帳が降り始めており、雲の境界を光らせていた太陽の力は、もはやなかった。かろうじて山の向こうに夕焼けの名残が、ほんのりと漂っているのみ。
 惜しかった。あと5分早ければ。
 でも、みこりん的には、この夕暮れでも十分美しいと思ったようで、カメラを構えて見ている。…だが、空に無数に走る送電線が邪魔だった。どの構図で迫ろうとも、電線と電信柱はファインダーに入ってしまうようだ。
 かなり念入りに角度を調整していたようだが、あまり時間をかけていると夕暮れも終わってしまいそうだったので、途中で妥協して1枚、パチリ。
 デジカメではないので、どんな風に撮れたかは、現像してみないとわからない。果たして、うまく撮れているだろうか。

きぼう

 国際宇宙ステーションに、日本の実験モジュール“きぼう”の本体(船内実験室)が取り付けられて、かれこれ1ヶ月
 それを記念して、JAXA有志の呼びかけで作られた記念品が、今日、私の元に届いた。

国際宇宙ステーション日本モジュール稼動記念のタイピン

国際宇宙ステーション日本モジュール稼動記念のタイピン

 ブツはタイピンなので、この仕事に関わった女性エンジニアの人は、本当に飾っておくしかないのが玉に瑕…、かもしれない。とはいえ、私もこれはこのまま永久保存にする予定だけれど。
 なんとなく、銀と赤という色彩に、ウルトラマンを連想してしまうのだが、これはやはり幼児期の刷り込みが原因だろうか。自分のPCの傍らに置いているので、目に入るたびに頭の中でウルトラマンの姿が蘇ってくるのが、なんともかんとも。でも、渋くてこざっぱりしているので、自分的にはOK。


2008.7.16(Wed)

わらわらと

 夕方、みこりんが何やらあわてた様子で虫眼鏡を手に、座敷方面へとダッシュしていった。そして数秒後、悲鳴のような声が聞こえてきたので、何事かと駆けつけてみると、蜘蛛の子がいるのだと言った。

 蜘蛛?
 みこりんの指差す先は、障子の下のほう。そこに、なにか藁屑のような小さくて細長いモノがぶら下がっている。ぱっと見、蜘蛛には見えなかったので、さらに接近して、じぃぃぃぃっと見つめてみる。
 夕方は昼間の目の酷使の影響で、あまり近くのものがよく見えないこともあり、やはりただのゴミにしか見えなかった。

 みこりんが「そこにクモの子がいっぱいおるよ!」と、虫眼鏡を怖々と近づけて見ている。
 んー?私も虫眼鏡が捉えているであろう場所を凝視してみた。
 尚も目を凝らしていると、ようやく私にも“視える”ようになった。藁屑のようなものは、じつはクモの卵のうで、そこからわらわらわらわら〜っと、薄い色をしたとても小さな子グモ達が無数に糸を引いてぶら下がっているのだった。をぉぉぉ!?

 子グモの数は、数え切れない。もしこいつらがすべて畳に着地したら、もはや取り返しのつかない状態になってしまうことは明らかだった。なんとかせねばっ。
 とっさに手を伸ばし、糸で固定されている卵のうごと、外にポイしようとしたのだが、肝心の糸が複雑に張り巡らされているらしく、うまく取り外すことが出来ない。かえってその衝撃で、子グモ達の一斉降下が早まってしまいそうだ。

 そうだ、ティッシュでつまんで、ポイしよう。

 みこりんが素早くティッシュをしゅしゅっと抜き取って手渡してくれる。
 そいつでそろりと降下中の子グモ達の下側から、一網打尽に包み込んで…。卵のうに、親グモが潜んでいたことに今気付き、ちょっとびっくり。家の中では、見たことのないクモだった。やたらと足が長く、薄い緑色というか褐色っぽい色彩。たぶん、本来なら庭の草木が生息場所なのだろうと思われる。それがどうして座敷に…

 とりあえずティッシュで包み込む事に成功したので、そのまま障子を開けて、ティッシュごと庭にポイ。ティッシュは雨でも溶けないため、あとで回収しておかねば。
 みこりんが畳の上に子グモが何匹か着地していると言うので、それらも1匹残らずティッシュで捕獲し、同じくポイ。
 取り残しがないように、念入りにチェックする。

 みこりんも虫眼鏡でじぃっと畳の上を走査していたようだが、もう残ってはいないらしい。ほっと安心。
 今回は発見が早くて何よりだった。あと少し遅れていれば、無数の子グモ達が家の中をわらわらわらわらと大冒険を始めてしまうところだった。そうなってしまったら、すべてを捕獲するのは、ほぼ不可能だっただろう。
 クモの子を散らす前で、ほんとうによかった。


2008.7.17(Thr)

クモの卵

 朝、クルマでみこりんを学校へと送っていく途中、「クモの卵って、どんな感じになってるの?」と、みこりんが問うてきた。
 昨日の子グモわらわら事件のことが、よほど衝撃的だったのだろう。クモの卵そのものは、卵のうに包まれているので、直接見ることができなかった。卵のうの中がいったいどうなっているのか、興味を持ったとしても不思議ではない。

 答えようとして、ふと、自分もクモの卵を実際には見たことがない事に気付く。わらわら状態の子グモ達の図は、子供時代にも結構見たことはあったが、それらはすでに卵のうから出てきてしまった後で、卵のうの中を直接見たことはない。…クモの卵って、どんな色や形をしてるんだろうか。

 みこりんには、クモの巣で編まれた布みたいなやつの中に、卵がびっしりと入ってるんじゃないかなぁと、カマキリの卵を思い浮かべつつ話してみたが、卵そのものの姿が曖昧模糊とした状態なので、いまいちすっきりしない。
 「ふーん…」と言ってるみこりんも、たぶん思いは同じだろう。
 今度庭でクモの卵のうを見つけたら、そぉっと内部を覗いてみよう。その映像が、あまりにアレすぎてトラウマになったりしそうな怖い予感もあるのだけれど、やはりここはひとつ、自分の目でしっかと確かめてみなくては。


2008.7.18(Fri)

DS鬼ごっこ

 朝のひととき、出かけるまでにちょっと時間があったので、みこりんに「“DS鬼ごっこ”って知ってる?」と聞いてみた。“DS鬼ごっこ”の事は、私も詳しくは知らないのだが、ニンテンドーDSのピクトチャットを用いて、通信しながら鬼ごっこをする遊びらしい。
 DSは、端末同士で直接、無線通信ができる。ピクトチャットは、DSに標準搭載されている“お絵描きチャット用”ソフトだ。タッチペンで描いた絵やら文字やらを、離れた距離からやりとりできる。その機能を使って、鬼ごっこ時に、互いの情報を伝え合ったり、鬼がわざと偽情報を流してかく乱したりするのだとか。

 子供達の間では、すでに話題になってるかなと思ったのだけれど、あいにく、みこりんも“DS鬼ごっこ”の事は知らないらしい。逆に、「それって何?」と聞き返されてしまったので、知ってる範囲で答えてやると、たいそう興味を引かれた様子。
 私でも気になるぐらいだから、子供であるみこりんが興味津々になるのも無理はない。

 私の子供時代は、無線通信が出来る玩具といえば、トランシーバーくらいしか存在しなかったが、あれはなかなか高価なものだったので、そうめったやたらとお目にかかれる代物ではなかった。トランシーバーを実際に使って、“缶蹴り”やら“ケードロ”をやったのも、たぶん片手で足りるくらいしかない。すでに記憶もぼんやりしつつあるが、なんだか少年探偵団のようなワクワク感はあったような…

 DS同士が通信できる距離は、それほどないので、ある意味、近接センサみたいな役割にもなるのだろう。みこりんは、『鉄腕DASH』で時々やってる“缶蹴り”の事を思い出したようだ。あれは蹴る方が受信機、守る方が発信機を持ってて、一定距離に近づくと、蹴る方に警報が流れる仕組み。なんとなく、イメージ的には、“DS鬼ごっこ”に近いかもしれない。
 みこりんは、学校で友達にも聞いてみるそうだ。子供達の情報網は、オトナよりも上回っているだろうか。あるいは、すでにもっとすごい遊びが流行っていたりは…。


2008.7.19(Sat)

歯科医院にて

 学校の歯科検診で、虫歯の存在が指摘されていたみこりんのために、最寄の歯科医院へと向かう。
 午前9時50分。予約時刻よりも10分早い到着だったが、受付後、即、診察が始まった。他に患者さんの姿はなく、しんと静まり返っているのが、ちょっと怖い。診察台に取り付けられた小型TVは、ボリュームを極限まで絞られているためか、ほとんどその音は耳に届かず、かえってそれが静寂をより強調しているような感じ。

 歯科衛生士さんが、みこりんの口の中を入念にチェックしている。果たして虫歯は何本あるのか。みこりんによれば、歯科検診時に複数本あると言われたらしいのだが…

 一通りチェックが終わると、説明が始まった。
 出かける前に歯磨きしていたにもかかわらず、歯垢がけっこう残っている現状を目の当たりにする。この磨き残しによって、軽度の歯肉炎が起きているらしい。たしかに前歯付近の歯茎がちょっと赤い。
 そして問題の虫歯は、1本。上側の右の奥歯に、穴が開いている。幸いなことに、さほど大きな穴ではなく、しかも乳歯だった。この位置の歯(上下左右合わせて4本)以外は、ほぼ永久歯に生え変わっており、一番奥には、新しい歯が、ちょこっと顔を覗かせている。
 毎晩の仕上げ磨きをしなくなって、かれこれ2年ほど。こうしてじっくりみこりんの歯の様子を観察するのも、久しぶりだ。

 磨き残しを見やすくするために、あの赤い色素で着色が施され、歯磨き指導。どうやら歯ブラシの持ち方に難があったらしい。ぎゅっと柄に沿って握り締めるんじゃなくて、鉛筆を持つようにそっと手を沿え、小刻みにブラッシング。ふむふむ。そして、最後の仕上げ磨きは、まだ必要らしい。小学生の間は、親が仕上げ磨きをするのがよいとのことだった。

 歯科衛生士さんから歯科医師さんに引継ぎが行われ、治療方針等の説明があり、治療開始。治療の間は、待合室で待っているように言われたので、そのようにする。
 待っている間、電動工具系の作動音等もせず、静かなものだった。この時間帯は予約の患者だけだったのか、待合室には私の他には誰もいない。なんというか…、私が小さい頃に経験した、ひしめき合う待合室、背筋を凍らせる歯を削る音などは一切なく、歯医者さんのイメージが根底から覆されそうなリラックスムードに包まれている。私の頃も、こんな感じだったらよかったのにと思わずにはいられなかった。

 ほどなく、みこりんが戻ってきた。もう治療が終わったらしい。手には、子供限定で配られる、ご褒美のフィギュア消しゴムが握られていた。みこりんが選んだのは、青いクジラ。青が好きなみこりんらしいチョイスである。

 次回の予約を入れて、撤収。
 外に出ると、まだ午前中だというのに輝く太陽の強烈な日差しで、立ちくらみを起こしそうになった。
 駐車場に停めたクルマの中は、灼熱地獄。ハンドルを握ると、“じゅっ”と焼けて、思わず手を放す。

 今日、この地域の梅雨が明けたようだと発表があった。例年よりも、1週間くらい早い。
 暑い夏になりそうだ。


2008.7.20(Sun)

アメンバー

 「メール来ないねぇ」と、みこりんがさっきから1分おきくらいにメールソフトの受信を実行しながら、不安そうに言っている。何のメールを待っているのかというと、アメブロの本登録用のメールだ。
 仮登録を済ませたのが15分くらい前だから、たしかにちょっと遅いような気もする。

 事の発端は、こうだ。
 昨日、みこりんは可愛いイラストが掲載されたブログを見つけた。もっと見たいと思ったのだけれど、肝心の部分がアメンバーにしか公開されていなかった。
 アメンバーって何?と言うところから始まって、アメブロの事やアメンバーの仕組みについて、みこりんに話して聞かせたのが、昨夜遅くのこと。アメンバー申請するためには、まずアメブロにアカウントを作らなければならない。私は、みこりんがすぐにでもアカウント登録したいと言い出すかと思ったのだけれど、その夜は、「うーん…」と迷ったきりで終わった。

 みこりんを躊躇させているものは、何だろう。しかし、あえて私から「登録してみれば?」とは言わずに、みこりんが決断するのを待ってみることにした。
 そして今朝になり、まだ迷っているらしいみこりんが、「登録するには、どうすればいいの?」と聞いてきた。単純に、登録方法の事を聞いているのではないなと気がついたので、「メールアドレスだけで登録できるよ」と言ってみる。すると、みこりんはとたんに表情を輝かせて、「登録してみる!」と、登録ボタンをクリックしたのだった。

 どうやら、登録するのに住所やら名前やらを記入しなければいけないのでは…、というあたりを、みこりんは心配していたらしい。なかなか用心深くて、良いことである。

 *

 そろそろおやつの時間。まだ、メールは届かない。
 かれこれ4時間が経とうとしていた。
 みこりんは、受信するメールが、すべてゴミ箱へ直行することに、驚きを隠せない様子。使っているメールソフト“秀丸メール”の迷惑メールフィルタは、かなり鍛えてあるので、不要なメールの99%以上は、目にすることなくゴミ箱送りにすることができる。いかに迷惑メールが多いかというのを実感した、みこりんであった。

 それにしても、ちょっと遅すぎる。仮登録用のフォームに入力した内容は、私も確認している。間違いはなかったはずだけれど………、(考え中)

 閃きは、唐突にやってきた。
 メールアドレスが違ってたんだ………… orz

 なんという不覚。みこりんのメールアドレスを間違えてしまうとは。みこりん用のメールアドレスは複数作ってあるので、うっかりそれらをごっちゃにして、存在しないメールアドレスを脳内で作り出してしまっていたようだ。本登録用メールは、ネットの彼方で行方不明になってることだろう。失敗失敗。
 さっそくそのことをみこりんに言って、今度こそ正しいメールアドレスを入力し、再度、仮登録を行った。
 フォームの送信ボタンを押したあと、即座にメールの受信ボタンをクリックするみこりん。その時間差、およそ0.5秒。ものすごい早業。
 「いくらなんでも、そんなにすぐには来ないよ…、って、あーーーー!来てるし」

 なんというレスポンス。
 届いたメールに書かれたアドレスをダブルクリックして、本登録、完了。

 *

 みこりんはカスタマイズ好きである。
 当面、自分がブログを書く予定はないらしいのだが、ブログのテンプレートを先ほどから熱心にいじっている。“トラックバック”や、“CAPTHA認証”といった用語も、設定画面で1つ1つ私にその意味や役割を聞きながら、設定していった。
 基調カラーは青系にすると言っていたのに、今はほんのり明るいピンク系になっている。どうやらこれでいくらしい。試行錯誤の結果だろうか。サイドバーのレイアウトも、部品をあっちこっち移動させつつ、プレビューで毎回確認しながら、設定中。そして、どこから見つけてきたのか、ブログペットの1種も、プラグインから追加している。設定方法等は、自分でヘルプのページを開いて、探し出していた。
 最近のコンテンツ生成ツールの操作性は、なかなか優秀のようだ。

 夜も更けた頃、プロフィール等も書き終えて、ようやくすべての設定が済んだらしい。みこりん的には、サイドバーに現れる広告の位置が、レイアウト設定画面では一番下になってるのに、最上段から微動だにしないことが少々不満みたいだが、無料のサービスとはそういうものなんだよと言っておく。
 さて、これでうまくアメンバーに迎え入れてもらえるだろうか。アメンバー申請にもスパムが横行しているようなので、それに紛れてしまわないかちょっと心配。


2008.7.29(Tue)

赤と緑

 定時まであとわずかという頃、作業ズボンのポケットに入れてあるケータイがぶるぶると震えて着信を告げた。メールなら3回、ネット古本屋の“入ったメール”は特定パターンの振動だが、今回の振動は普通に電話が着信したことを示す、6回の繰り返し。
 それとなく着信履歴を確認すると、家からだったので、席を立つ。

 人気のない廊下の奥、突き当りの窓辺で、真夏の青い空と白い雲なぞ眺めながら、家に電話をかけてみる。この時間にかかってくるということは、みこりんからに違いない。

 電話に出たみこりんの話してくれた内容は、十分に刺激的だった。いや、刺激的というよりは、どっちかというと“怖い”。
 みこりんによれば、今から一時間ほど前に、玄関のチャイムが鳴ったらしい。その時、玄関横の格子の入った“すりガラス越し”に人影が見えていたようなのだが、一時間経った今も尚、その人影がじっとたたずんでいるというのである。赤い帽子に、緑の服を着ているようだと、みこりんは言った。

 時計を確認すると、定時まであと1分弱。すでにみこりんは家中の窓を閉め、カギをかけているという。私は、何か変化があったらすぐに電話するよう言い、電話を切った。
 勤怠処理の手続きを済ませると、丁度定時のチャイムが鳴ったので、速攻で席を立ち、ダッシュで駐車場へ向かう。
 普段走りなれてないので、足が空回りしているような感覚に焦燥感が激しくなる。守衛さんに社員証を見せて駐車場に入ると、灼熱地獄と化したクルマに乗り込み、エンジンをかけた。

 *

 これまでの最短記録で家に到着。門扉脇にクルマを横付けして停める。
 玄関前には、誰もいなかった。
 ガチャリとカギを開け、家の中に入る。廊下の奥にある、リビングのドアは閉まっていた。

 そっとドアを押し開けると、みこりんがいた。リビングの中は、エアコンの涼しい空気に包まれて、肌寒いほどだった。
 念のため、庭などをチェックしてみたが、特に異常なし。…ふむ。

 赤い帽子に、緑の服…、というのがずっと気になっていた。
 普通ではない。派手すぎる。
 チャイムが鳴ったということから、誰かが訪問したことは間違いなさそうだが、一時間も玄関前で待っている状況というのが、なかなか想像できない。変質者ならば、一時間と言わず、すぐに何かアクションを起こしそうだし。
 玄関前のポストの中には、宅急便の不在票が入っていた。そこに記された時刻が、ほぼチャイムが鳴ったと思われる時刻と一致する。チャイムを鳴らした主は、十中八九、宅急便屋さんであろう。そのあと、しばらく家主が帰宅するのを、玄関前で待っていたのだろうか?しかし、その宅急便屋さんの制服は、みこりんが見たという赤い帽子に緑の服ではなかったはず。

 ポスト前から背後を振り返ってみる。
 玄関ドアがある。その脇に、夏のエネルギーを吸収して今が盛りと咲き誇る百日紅の赤い花。

 赤と、緑、か。

 家の中に入り、廊下側から、今一度、外を見てみる。
 ちょうど格子の入ったすりガラスの向こうに、百日紅の姿がぼんやりと透けて見えている。………赤い花と、緑の葉っぱ。背丈はちょうどみこりん視線から見て、大人くらいの位置に花が集中しているように見えなくもないが…。

 真相はわからない。
 赤と緑の謎。真夏のミステリー。

 夜、再送で届いた宅急便には、みこりん宛のぬいぐるみが入っていた。“野菜村”のキャラを象った、限定品である。誕生日が近いので、ちょっと早い誕生プレゼントとして注文しておいたものだ。
 みこりんは、すっかりそのぬいぐるみに夢中となり、赤と緑の謎は、解けぬまま、一日は終わった。


Profile

about

Written by U.

Home

Since 1997.11.14

Index

2009年

  • 7月
  • 8月
  • 9月
  • 10月
  • 11月
  • 12月

2008年

2007年

2006年

2005年

2004年

  • 7月
  • 8月
  • 9月
  • 10月
  • 11月
  • 12月

2003年

2002年

2001年

2000年

1999年

1998年

1997年

  • 1月
  • 2月
  • 3月
  • 4月
  • 5月
  • 6月

RSS feed

RSS1.0RSS

[VALID RSS!]

お勧め

『メイン☆ストリート』(アーティスト:May’n)

『付喪堂骨董店〈5〉―“不思議”取り扱います』(著:御堂 彰彦)

オンライン書店 boople.com(ブープル)

ユーブック

賛同企画

中国によるチベット人殺害と武力弾圧に抗議する!
チベットにおける中国の武力弾圧に反対します

中国製品不買運動

2月22日は竹島の日。竹島は日本固有の領土である。韓国の侵略を許さない。

提供:natsuka.net

gooホーム PROJECT

国際サンゴ礁年2008
国際サンゴ礁年2008

田中律子のTalk&Life